バーナンキ議長の悩み
昨日、バーナンキ議長の4つの追加緩和策を紹介しました。しかし、そのうちのインフレ目標値の設定は完全に可能性がなく、残りの3つの選択肢も、さらに状況が悪化した場合に実施の可能性があるというだけです。
つまり、バーナンキ議長は、まだまだ手段は残されているとはいうものの、その態度は極めて慎重である、と。
では、何故彼はそこまで慎重であるのか? 本日は、それについて考えてみたいと思います。
昨日もご紹介したとおり、バーナンキ議長が、こうした選択肢はさらに状況が悪化した場合に行うと言っていることに対して、あのノーベル経済学賞を受賞したクルーグマン教授は批判をしています。
今やらなくて、何時やるのか、と。
リフレ派の親分のようなクルーグマン教授です。彼は何と言っているのでしょうか?
PBSのNEWSHOUR からです。
Yes, he said we will do something if the situation warrants. But here we are. You know, this is -- we're now 32 months into this slump. Unemployment is disastrously high. Growth, we -- the economy needs to grow about 2.5 percent annual rate just to keep unemployment from rising. It's not doing that.
「彼は、状況が求めれば対策を打つことになると言った。しかし、我々の状況はどうなっているのか。我々は今や32ヶ月間このスランプに落ち込んだままである。失業率は壊滅的に高い。経済成長率は‥、失業率が上昇しないようにするためには、約2.5%の成長率が必要である。しかし、そうはなっていない」
What would it take to justify action? So, you know, it was a good signal that he is saying, you know, the Fed is kind of, sort of willing to do something, maybe, which is better than previous statements. But, if this isn't a situation that warrants action now, what would be that kind of situation? Do we have to have a whole Great Depression to get the Fed moving?
「行動を正当化するためには何が必要であるというのか? 彼が、連銀は喜んで何かをしようといっているのは、以前の表現よりも改善はしている。しかし、今が行動を正当化する状況でないとしたら、どうならないと行動しないというのか? 連銀が動き出すためには、大恐慌に陥る必要があるのか?」
<中略>
I think it should be throwing everything, including the kitchen sink, at the problem. I mean, Doug is saying that there's -- the Fed has done all it can do. That's not what the Fed says. The Fed says it has ammunition; it continues to have the ability to act. So, we should take them at their word and see them actually act. They can do purchases of long-term bonds. They can raise their inflation target, which, you know, Ben Bernanke, when he was a Princeton economics professor, advocated for Japan when it was in a similar situation.
「連銀は、この問題に対し全ての策を発動すべきだと考える。Dougは、連銀はできることは全てやっていると言う。しかし、連銀の言うことは違う。連銀は弾薬を持っていると言う。引き続き行動できると言っている。彼らは長期債券を購入することができる。彼らはインフレ目標値を引き上げることができる。それはバーナンキ氏が、プリンストンの経済学の教授であったときに、日本が似たような状況にあったとき日本に勧めたものであるのだ」
Sure. The -- the Fed has -- it has in its mind and more or less publicly an idea of what it wants the inflation rate to be over the next five years. It's -- that's believed to be about 2 percent. If the Fed were to make it known that, look, we actually think it should be 3 percent, that would at least give some incentive for people, corporations that are sitting on piles of cash to say, you know, that cash is going to be worth a little bit less. We should spend more, give it a -- make it a little bit more attractive for people who are deciding that they have a good investment project, but they're not really sure whether they should borrow for it.
「連銀は、心中、向う5年間におけるインフレ率をどうしたいかという考えがあるのだ。それは、約2%であると信じられている。もし、連銀がそれを知らせることがあったとすれば、それは3%でなければならないと思う。3%あれば、お金の上に座り込んでいる国民や企業にインセンティブを与えるであろう。そうしたお金が、価値がなくなるということになるのだ。我々はもっと支出をしなければならない。よい投資案件があると思いつつも、そのためのお金を借りるべきか判断がついていない人々にとって投資を魅力のあるものにしなければならない」
It will make them think, well, it will be a little easier to service that debt. It's something that can move decisions at the margin. There is a whole list of things that the Fed can do. They are all uncertain, because we are in uncharted territory. We haven't been in this kind of situation, where short-term interest rates, which the Fed really controls directly, are basically zero. We haven't been in this situation since the 1930s.
「そうすれば、彼らは、借金の元利払いが少しは楽になると考えるであろう。そして決心をさせることができる、と。連銀が行うことのできる政策の一覧表がある。それらは、全て不確かなものだ。何故ならば我々は海図なき領域にいるからだ。我々は、このような状況に至ったことはなかった。連銀が直接誘導する短期金利が基本的にゼロになっているのである。1930年代以降、こんな状態になったことはないのだ」
But that's not a reason not to act. And yet the Fed is sort of saying well, you know, it's -- things are uncertain. Maybe things will improve. And this may not look like a crisis to the Fed, but to the very large number of people who are unemployed, to the near-record number of people who have been unemployed for more than six months and more than a year, this is a crisis. I'm amazed that there is no greater sense of urgency here.
「しかし、それは行動をしないことの理由にはならない。連銀も言っている。状況は不確かだ、と。多分状況は改善するであろう。連銀にとっては危機には見えないかも知らない。しかし、職を失った多くの人々にとっては、あるいは半年以上、1年以上失業している過去最高に近い数の失業者にとっては危機であるのだ。緊急性を感じないことが不思議でならない」
<中略>
We need to do something to make this economy stronger, not five years from now, not 10 years from now, but now. We need to prop this up. Yes, it's true that the aftermath of financial crises is usually a long period of poor economic performance. But that's not something to just accept.
「我々は我が国経済を強固なものにするために何かをすることが必要であるのだ。5年先とか10年先とかいうのではなく、今やることが必要なのだ。経済を元気づける必要がある。金融危機の結果、通常、経済の悪化が長期間続くというのは、そのとおりだ。しかし、それを受け入れるべきではない」
We're supposed to do something different. When Japan had a somewhat similar situation in the 1990s, after its bubble burst, American economists, American officials were caustic about the unwillingness of the Japanese to take strong action to deal with their problem, the way they were just sitting there. And now we're doing the same thing.
「我々は違った何かをすると思われている。日本が1990年代に、バブルが弾けた後同様の状況にあったときに、アメリカのエコノミストや官僚は、日本人がそうした問題を解決するために強力な行動に出ようとしないことに辛辣に批判した。ただ、手を拱いてみているだけだ、と。しかし、我々は同じことをしているのだ」
We are turning Japanese in our economic policy. This is not something we should be accepting.
「我々は、経済政策に関して、日本人になってしまっている。これではいけない」
さあ、如何でしょうか?
リフレ派の人は、さぞかしわが意を得たりと感じていることでしょう。
では、バーナンキ氏が慎重である理由を振り返ってみましょう。彼は4つの選択肢について、どう言っていたのか?
先ず、連銀による長期国債の買入。
これについては、十分な経験がなく、長期国債の購入がどのような効果とどのような副作用があるかについて不確かであり、慎重にならざるを得ない、と。
第二の選択肢は、FOMCの声明の表現を修正する案です。
まあ、これは非常に玄人っぽい話で、一般の人にとっては、どうでもいいような話かもしれません。
バーナンキ氏は、参考になる話として、カナダ銀行の例や日本銀行の例を挙げていましたが、いずれにしても連銀の真意を伝えるのは難しい、と。
第三の選択肢は、超過準備用金に対する金利の引き下げです。
これも非常に専門的な話で、一般の人で理解している人は非常に少ないでしょう。それに、そんなことをしてもどれだけ効果があるかと、バーナンキ議長は言っています。
しかし、彼が重要なことを言っているのを見逃してはいけません。彼は、ゼロ金利にすべきではないと言っているのです。
何故?
今米国は、事実上のゼロ金利政策を採用していると言われながらも、実際の政策金利の平均値は、0.15%~0.20%の範囲にあると言います。他方、日本がゼロ金利政策を採用していた頃は、ご承知のとおり政策金利は0.001%となっていたのです。
0.001%というのは、ほぼゼロという水準です。
ヘリコプターからお金をばら撒いてもデフレを回避するのだ、というバーナンキ議長でさえ、ゼロ金利は回避すべきだと言っているのです。
何故?
そんなことをすれば、フェデラルファンズ市場が死んでしまうからだ、と。つまり、金利がゼロであれば、市場への参加者はいなくなってしまうではないか、と。そして、市場を殺してしまったら、正常な状態に戻ったときに、金利を操作する手段を失ってしまうことになる、と。
最後の、インフレ目標値の引き上げについてはどうでしょうか?
バーナンキ氏は言います。予想インフレ率の上昇につながるようなことをすれば、連銀の物価のコントロール能力に疑いが生じてしまい、副作用が大き過ぎる、と。そうなると、物価だけでなく、一次産品の価格や通貨なども乱高下しやすくなってしまう、と。
バーナンキ議長は、この4番目の提案は、何人かのエコノミストからなされているものだというわけです。そして、その中にはクルーグマン教授が含まれており、従って、今や、バーナンキ議長とクルーグマン氏が激論を闘うせているということになるのです。
で、もちろんのこと、クルーグマン教授は、リフレ政策を発動せよ、と。何故ならば、インフレになると、お金を使わないでもってるとお金の価値が下がるので、人々は早くお金を使わないと損になると考え、お金を使うからだ、と。深尾教授も、そんな考え方でしたよね。
その一方で、バーナンキ議長は、先ほど言ったようにインフレになれば、連銀の物価のコントロール能力に対する信認が揺らいでしまう恐れがある、と。
つまり、バーナンキ議長は、今はインフレの恐れがないとは信じつつも、それでもインフレに導きそうなことだけは避けたいということのようなのです。
彼は信念を変えたのでしょうか?
そうではないのでしょう。彼は、FRBの名議長として名を残すことを目標にしているということでしょう。勿論、景気を立て直すことが重要であるが、だからといって、もし、インフレを起こしてしまえば、FRB議長としては失格だ、と。何故ならば、連銀の本来の仕事はインフレを起こさないことであるのだから、と。
それに‥
重要な事実を忘れてはいけません。
米国は、輸出を倍増して雇用を創造する戦略に立っています。ということは、人民元をもっと切り上げさせる。そして、安いドルを長期間容認することになる、と。そうなれば、黙っていても、国内物価の上昇の可能性が大きいということになります。
景気が回復するかどうかとは関係なく、為替の動向により今後インフレが起きる可能性は大きいのだ、と。
そのような状況が予想されるのに、もし、インフレ率の目標値を3%と明言したり、そして、それを実現するために長期国債の大量購入を行ったら、人々はどう感じるか、と。当然のことながら、インフレに火が付く可能性がある、と。
そして、インフレに火が付いたら、自分はFRB議長失格だ、と思っているということです。
以上
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