円高問題の本質
円高をなんとかしろ! 政府・日銀は無策だ! 日本を沈没させる気か!
円高で採算悪化に悩む企業からは、円高対策を求める声が上がって当然と言えば、当然。だって、利益がふっとんでしまうわけですから。
で、輸出企業は言う訳です。このまま円高が進むようでは、海外へ脱出するしかないかもしれない、と。
まあ、そんなことを言われると、我々も非常に弱いわけです。空洞化が一段と進めば、失業は増えるし、輸出立国日本はどうなってしまうのか、と。
ただ、ここまで来ると円高の最大の弊害がよく分かる訳なのです。
円高は、我が国の産業の空洞化をもたらすものだ、と。そんなことを手を拱いてみていていいのか、と。
しかし、よーく考えてみて下さい。
企業の海外脱出は、何も今始まろうとしているわけではないのです。もう何年も前から始まっているのです。中には一旦海外に出て行って戻ってきた企業もあるわけです。
それに、企業というもの儲けることが宿命であるわけですから、国民や政府が何と言おうとも、海外に行くときは行くのだ、と。それが企業というものなのに、これ以上円高が続けば‥なんて仰るわけです。
確かに、円高になれば企業の採算が悪くなるのは理解できることです。そうなれば、海外の同業他社との競争も厳しくなる、と。
しかし、ここでもよーく考えたら、企業が海外に出ていく本当の理由が分かるのです。
つまり、先進国の企業は、常に新興国の企業から追いかけられる運命にある、と。新興国側の企業は、安い労働力を武器に低コストで生産が可能である、と。それに対し、先進国側の労働力は桁が違うほど高いために‥
もう言いたいことがお分かりだと思います。
要するに、我が国企業は今、円高で大変だと騒いでいるわけですが、事柄の本質は、海外との競争が大変だということに尽きるわけです。で、海外との競争が大変である本当の理由は、新興国の労働力が安いからだ、と。
だとすれば、理屈の上では、我が国も賃金水準を下げれば、どんなに円高になろうとも競争力を回復することが可能であるのですが、現実問題としてそれは無理!
つまり、賃金を大きく下げるなどということはそう簡単にできる話ではない、と。
ということで、円高を何とかしてくれ、と今我が国は騒いでいるわけですが、本当は、そうした切り口からだけではなく、新興国の追い上げが厳しい中、日本の産業の将来ビジョンをどのように描くかという戦略が望まれるということであるのです。
産業の長期ビジョンを描くのは誰か?
それは、企業自身であり、また、経済産業省の役割であるでしょう。
しかし、その経済産業省がやっていることといえば、単に悲鳴を上げている企業の代弁をするばかりで‥、つまり、円高対策をやってくれというばかりで、本来やる務めを果たしていないということなのです。
そうしたことに答えを出すことができるような人こそが、我が国のリーダーに相応しいのではないでしょうか。
以上
これまでに配信した経済ニュースゼミ有料版の円高の記事をご紹介します。
・第39号 2009年10月9日 ドルの命運
<内容>
1.はじめに
2.経常収支と為替レート
3.市場で形成されるレートは常に合理的なものと言えるのか?
4.政府は為替介入すべきなのか?
5.固定相場制度と変動相場制度
6.ドルが暴落する可能性
<ポイント>
(1)最近のドル安の背景には、先月のG20の金融サミットで、世界経済の不均衡是正の必要性が確認されたことがある。
(2)過去30年間ほどの間、米国の経常赤字はほぼ一貫して赤字額を拡大してきており、2006年には年間8000億ドルの赤字に達した。
(3)プラザ合意が発表された1985年の米国の経常赤字は、1000億ドルを突破した程度であったので、それと比べれば、現状では経常赤字が途方もなく膨れ上っていると言える。
(4)これだけ経常赤字が拡大すれば、当然にドルが弱くなって当然だという考え方があるが、それは必ずしも正しくない。為替レートに影響を与えるのは、経常収支だけではなく資本収支も同様に影響を与えているからだ。
(5)経常収支の赤字が途方もない額にまで達しながらも、同様に、資本収支の黒字も途方もないほど発生しているので、思ったほどにはドル安にはなっていない。
(6)政府の為替介入の判断は、政治的に行うより方法はない。
(7)輸出業者などからすれば、固定相場制度の方が都合がいいように見えるかもしれないが、固定相場制度においても、経済の実情に応じて為替レートの見直しが必要になり、そうなると投機を招く恐れがある。
(8)今後ドルの暴落が起きる可能性があるのは、何らかの理由によって米国においてインフレが起きる場合と、逆に、米国の景気回復が遅れ、いつまでも超低金利政策を続けることによりじりじりとドル安を招き、そして、そのことが原因で米国債の魅力が薄くなったような場合であろう。
・第44号 2009年11月13日 不均衡是正と強いドル
<内容>
1.はじめに
2.不均衡とドル相場の実態
3.米国の関係者の胸のうち
4.日本、欧州及び中国の考え
<ポイント>
(1)世界の主要国は今、世界経済の不均衡の是正が必要だと言うとともに強いドルを歓迎する姿勢を示しているが、これは論理的にいっておかしく見える。
(2)米国は、1982年からほぼ一貫して赤字が拡大し続けている。
(3)近年のドルの価値については、1990年代の終わりごろから2000年代の初頭にかけてドル高の時代を迎え、そしてそれと歩調を合わせるように経常赤字が急増している。
(4)ドル安になっても経常赤字を縮小できるとは言えないが、だからと言って、ドル安にならない限り経常赤字の縮小は期待できない。
(5)ドル高が続くと経常赤字は拡大する傾向にある。
(6)米国の関係者が不均衡是正の必要性を訴える理由の1つは、世界経済の不均衡がバブルを生んだ1つの要因だという理論で、責任を転嫁することにある。
(7)もう1つの理由は、中国が米国の最大の債権者になっていることに対する警戒感からのものである。
(8)いずれの国も、ドルの急落によって得るところはないので、ドルの急落が起こる可能性は少ないが、不均衡がいつまでも続く訳はないので、今後緩やかなドル安が進むと思われる。
・第46号 2009年11月27日 円高襲来
<内容>
1.はじめに
2.円高なのか
3.為替介入の条件と実効性
4.円高とデフレ
<ポイント>
(1)円は14年ぶりに1ドル86円台になって、円高が急速に進行している。
(2)円高のピークは、1995年4月につけた79.75円(瞬間的に)である。
(3)ただ、1ドルが86円になったという事実は、円の対ドルとの関係の実力しか示しておらず、円の総合的な実力を知るためには、実効為替レートをみる必要がある。そして、実効為替レートの最近の推移をみると、ドルが全面安になっている様子が窺われる。
(4)しかし、真に円高が進行しているかどうかを知るためには、各国の物価変動の相違を調整した実質ベースの実行為替レートを見る必要がある。そして、実質実効為替レートの推移をみると、最近の円 は過去のピークに比べれば、なお相当に低い水準にあることが分かる。
(5)人々は、為替レートというと、どうしても名目のドル円のレートにだけ目が行きがちであり、その意味では、1ドル86円台というのは、相当な円高だということになる。
(6)為替介入を求める声が強くなっているが、為替介入が行われるには、円の独歩高という状況になることと、さらに急速な円高が進むということが条件となろう。
(7)但し、為替介入の効果に関しては、米国が緩やかなドル安を歓迎している以上、限定的であろう。
(8)日本は、輸出よりも輸入が上回る構造になっているので、国全体としては、円安のメリットの方が大きいという議論は合理的ではない。
・第55号 2010年2月5日 ドル暴落の可能性
<内容>
1.はじめに
2.為替レートに関する我が国の対応
3.自国通貨の価値を固定化する政策
4.政府が為替差損を被る危険性
5.ドル大暴落の危険性
<ポイント>
(1)輸出を増加させることによって雇用を創出したいと考えている米国は、中国が2008年夏ごろから人民元のレートをドルに対して固定化させていることを不満に思っている。
(2)二国間の為替レートは、二国間の事情を反映して決定されるので、通常一国の意思や行動のみで、為替レートをコントロールするのは難しい。
(3)しかし、為替介入や金融政策を通して、為替レートにある程度の影響を及ぼすことは可能。
(4)日本や中国の巨額の外貨準備は、自国通貨を安くするために行われた為替介入の結果であると言える。
(5)但し、自国通貨をドルにペッグさせるような政策には犠牲が伴う。つまり、通貨の価値の維持を優先するならば、金融政策の自由度を放棄しなければならないということだ。
(6)日本は現在、100兆円弱の外貨準備を有し、その大半は米国債などドル資産となっているが、これは、外貨準備の本来の目的から考えると必要以上の規模と思われ、また資産内容もドルに偏っているため将来為替差損が発生するリスクが大きい。
(7)今後中国の実質GDPが毎年年率10%伸び、そして人民元がドルに対し毎年5%強くなれば、7~8年後には中国のGDPが米国を追い抜くことになろう。
(8)中国のGDPが米国を抜くことが現実に意識され始めると、当然ドルに対しての見方に大きな変更が生じ、主に人民元に対しドルが暴落することが予想される。
・第73号 2010年6月11日 円安と日本経済
<内容>
1.はじめに
2.円安が有利になるという俗説
3.マーシャル・ラーナーの条件
4.円高の短期的影響
5.円高の長期的影響
6.極端な円安になったら
<ポイント>
(1)輸出の比重の高い日本の場合には、円安は日本経済にとってプラスになるという意見があることを承知していると菅総理が述べた。
(2)しかし、そうした考え方は俗説と言わざるを得ない。何故ならば、もし、そうした考えが正しのであれば、貿易収支が赤字の国は、自国通貨の価値が高い方がいいということになるが、そうなれば益々貿易赤字は拡大してしまうからだ。
(3)為替レートと貿易収支の関係については、マーシャル・ラーナーの条件というのがある。この考え方の本質は、為替レートの低下が起こった場合の、輸出額の増加の程度と輸入額の減少の程度によって貿易収支は改善をすることもあれば、悪化することもあるというものだ。
(4)仮に、円安が起きても、日本の輸出製品の数量がそれほどは伸びず、その一方で、日本の原油や資源などの輸入数量が殆ど変わらないとすれば、円建てベースでの輸出額は増加するが、ドル建てベースでの貿易収支はむしろ悪化することもあり得る。
(5)日本の輸出企業が、円安によって利益を受けるというのは、円安になれば、輸出代金の円換算額が増加し、利益が膨らむからである。
(6)急激な円高になると、輸出企業の利益は1円の円高で○○億円吹っ飛ぶというニュースが報じられるが、ミスリードな面がある。それは、1円の円高とはいっても、それが1年間続けばという条件付きだからである。従って、急激な円高が発生しても、それが長く続くことがなければ影響は軽微である。
(7)さらに、1円円高になれば利益が○○億円吹っ飛ぶという計算には、円高に伴って原材料費が軽減されるプラスの効果が含まれていないことに注意すべきだ。
(8)急激な円安が起きれば、海外の投資家にとっては円安による為替差損が発生することから、日本株を投げ売りするような動きが出ることも懸念される。
以上
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