小笠原誠治の経済ニュースに異議あり!

円高とデフレ

 円高のせいで景気対策を求める声が強くなってきています。

 テレビには政治家が顔をそろえ、もっともらしいことを言っています。中小企業のために、輸出メーカーのために、そして日本国民のために円高に断固立ち向かいます、と言いたいかのような‥


 でも、そもそも本当に円高なのか?

 海外旅行もしたことのない人々にとっては、この20年間ほどで円高になっているとか円安になっているという実感は殆どないのではないでしょうか。つまり、テレビや新聞で円高、円高というから、ああ今は円高で、輸出企業の経営が大変になっているのだろう、と想像するだけの話であるのです。

 
 私が、本当に円高なのでしょうかなどというと、何を呑気なことを言っているのだ、とお叱りを受けそうな雰囲気であることは承知しています。

 なにせ、1ドル=84円台を記録したりしているからです。これまでの円の最高値は、1ドル=79円75銭ですが、まあ、その水準は一時的なものであったと思えば、今の水準でもほぼ円の最高値と言っていいことはそのとおりでしょう。

 しかし‥

 ドルの価値は、戦後、どのように推移してきているのか?

 これはもう、長い目でみれば、ずーっとドルの価値が下がり続けているわけです。強いドルを採用した時期などを除けば、ドルの価値は、少しずつ少しずつ下がり続けていると。だとすれば、円が本当に高くなっているかどうかは、対ドルの関係だけで判断するのは適当でないということになるのですが‥

 他にも、円高なのか思う理由があります。

 この10年間ほどの間で、日本の場合には数パーセント物価が低下しているのに対し、アメリカでは30%弱ほど物価が上昇しているではないか、と。だとすれば、名目の円ドルレートが30%ほど円高に振れたとしても、円の実質的価値は少しも上昇していることにならないではないか、と。

 こうしたことに対して政治家は目を向けることはありません。

 何故か?

 そんなことを言っても、多くの国民は理解できないだけではなく、何か対策を打たないことの言い訳をしているように聞こえてしまうからでしょう。

 反対に言えば、国民の支持を勝ち取るためには、円高で困っている人のために何でもやるのだ、という姿勢を見せた方が得策だということに過ぎないのです。

 で、国民の知的レベルがその程度で留まっているので、愚かで詐欺師のような政治家が横行しているということなのです。

 まあ、私がこんなことを言っても、大きな流れは変わることはないでしょう。相変わらず円高対策やデフレ対策を求める声が大きくなるでしょう。


 では、何を彼らは求めるのか?

 最近、米国のFRBは積極的なのに日本銀行は手を拱いているというようなことが言われます。また、みんなの党などは、デフレが起きたのは日本銀行の政策が間違ったためと言いだす始末。

 本当に、日本銀行が何もしなかったというか、ゼロ金利政策の解除などが早過ぎたから、日本の名目GDPが横ばいのままで推移している原因なのでしょうか?

 私は、そうは思いません。

 何故、名目GDPが再び500兆円を切るような事態に陥ったのか? 

 その理由の一つは、リーマンショック後に世界同時不況が起きたからですが、長期的にみれば、新興国経済の追い上げのために、製品価格の引き上げが難しかったこともあります。しかし、最大の理由は、我が国は、少子高齢化のために需要が伸び悩むなか労働力人口が低下基調にあることです。

 例えば、かつて6800万人ほどいた日本の労働力人口も、今は6560万人ほどにまで減少しているわけです。一方、アメリカはどうかといえば、この10年間ほどで1億4200万人ほどのレベルから1億5400万人ほどのレベルに増加しているわけです。

 日本だけがデフレに陥っているなどと言って日本銀行を責める者もいるわけですが、日本の場合にはこれだけ少子高齢化が進んでいるということが大きく効いているのです。


 デフレ対策のために、もっと金融を緩和すべきだという者のいます。

 でも、何が有効な手段として残っているというのでしょう?

 日銀券ルールをとっぱらって、もっともっと日本銀行が国債を購入すればいいという意見もあるわけですが‥

 でも、これ以上日本銀行が国債の購入額を増やしたからといって、どんなメリットがあるのでしょうか? 長期金利がさらに低下する?

 確かに、長期金利には下押し圧力がかかるわけですが、長期金利は既に0.9%台のレベルにまで下がってきているわけですから、仮に理屈の上でゼロ近辺まで下がることがあり得るとしても、もうその余地は極めて限られていると考えるべきものなのです。

 しかし、日本銀行が政治的な声に押されて、それでもなお国債を買い増し続けたら‥、つまり、政治家が、マイルドなインフレが起きるまで国債を買い増し続けろと圧力をかけたらどうなるのでしょうか?

 例えば、思惑どおり3~4%のインフレが起きるようになったとしましょう。そうなれば、デフレから脱却できたということができるわけですが、それでみなハッピーになったのでしょうか?

 例えば、銀行に対してはどのような影響を与えるのでしょうか?

 仮に物価が3~4%も上がることが定着するようになれば、もはや長期金利が0.9%とか1%台で留まるようなことはあり得ないわけです。何故ならば、そんなことを認めれば、お金を貸す側はインフレによって損をしてしまうからです。そうなれば当然のことながら、長期金利の方も4~5%のレベルにまで上がってしまうことになると考えられらます。

 しかし、そうなると国債を発行している利払い負担が急増して、予算の編成が大変困難になることが懸念されるのです。

 つまり、財政当局は、物価はマイルドに上がって欲しいが、金利は上がって欲しくないという気持ちなのですが、そんなことありえないのです。

 長期金利が上がると、銀行の運用収益は増加して、それは銀行にとってはいいことだと言って喜ぶべきなのでしょうか? でも、大量に保有している国債は大暴落することになって、銀行には大きな損失が発生してしまい、金融危機にまで発展する恐れさえあるのです。

 ということで、マイルドなインフレが起きたからといって、良いことばかりではないどころか、悪い影響もあるのです。


 いずれにしても、急激に金利が変動したり、或いは、急激に物価が変動することになれば実体経済に深刻な影響を与えることになるので、慎重な対応が中央銀行には求められているのです。

以上

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02月04日更新

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小笠原誠治(おがさわら・せいじ)

小笠原誠治(おがさわら・せいじ)

1976年3月九州大学法学部卒。1976年4月北九州財務局(大蔵省)入局。
大蔵省国際金融局開発金融課課長補佐、財務総合政策研究所研修部長、
中国財務局理財部長などを歴任し、2004年6月退官。
以降、経済コラムニストとして活躍。
メールマガジン「経済ニュースゼミ」(無料版・有料版)を配信中。
著書に「マクロ経済学がよーくわかる本」(秀和システム)、
ミクロ経済学がよーくわかる本―市場経済の仕組み・動きが見えてくる」(秀和システム)、
経済指標の読み解き方がよーくわかる本」(秀和システム)がある。
企業・団体などを対象に、経済の状況を分かりやすく解説する講演も引き受ける。

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