小笠原誠治の経済ニュースに異議あり!

雇用原理主義

 米国で8月6日、7月の雇用統計が発表になりました。

 結果は、非農業部門の雇用者数が前月に比べて13万1千人減少したのだとか。失業率は9.5%で変わらず。

 もう一度言います。米国の雇用状況は緩やかながらも改善していると思っていたら、13万1千人減ったのだ、と。

 
<米国の7月の雇用状況>

 労働力人口 1億5356万人
 雇用者数  1億3896万人
 失業者     1460万人
 失業率     9.5%


 ということで、米国経済の先行き見通しが、ここにきて一段と不確かになっているのですが、皆さんはどうお感じになりますか?


 多分圧倒的多数の人は、経済が回復しても、雇用はなかなか回復しないのだよな‥などとお感じになっているのではないでしょうか。

 また、オバマ政権の関係者も、どうにかして雇用を回復できないかと知恵を絞っていることだと思う訳です。

 「輸出を促進して雇用を創出しよう」

 「中小企業への融資や減税で、雇用創出につなげよう」


 そんな声が聞こえてきそうです。


 しかし、現実には雇用はなかなか回復しない、と。

 では、そもそも、実体経済の方は、どの程度回復してきているのか?


<実質GDPの増加率、前期比年率>

2008/1Q -0.7%
2008/2Q 0.6%
2008/3Q -4.0%
2008/4Q -6.8%
2009/1Q -4.9%
2009/2Q -0.7%
2009/3Q 1.6%
2009/4Q 5.0%
2010/1Q 3.7%
2010/2Q 2.4%


ご覧のように実質GDPは、2008年第3四半期から4期連続マイナス成長を続けた後、2009年第3四半期からは4期連続プラス成長になっているのです。

 2010年第2四半期は、第1四半期の3.7%から2.4%へと低下したため、景気回復のスピードが落ちていると心配されているのですが、それでもとにかく経済は回復しているのだ、と。

 で、その一方で、雇用の方は回復のスピードが遅過ぎるのではないのか、と。

 しかし、そんな見方ばかりしていていいのでしょうか?

 確かに、雇用回復のスピードが遅れると、またリセッションに陥る可能性がないとは言えない。それはそうなのですが‥

 私は、もっと違うことの方が気になるのです。

 米国の失業率は9.5%とまだ極めて高い水準にあります。完全失業者の数で言えば、1460万人もの人が失業状態にある、と。

 ここまで読んで何か気になりませんか?

 米国の完全失業率のピークは2009年10月の10.1%。そして、その時の失業者数は1561万人。失業者の数だけ比べれば、約100万人失業者は減少しています。ただ、雇用者数を見れば、この7月時点が1億3896万人であるのに対し、2009年10月は1億3824万人であり、この間、72万人しか増加していませんし、また2007年1月(1億4603万人)と比べれば約700万人も少ない状態に留まっているのです。

 つまり、雇用者の数は、2007年1月を100と考えれば、この7月は95.2までしか回復していない、と。まあ、それは当然ですよね、失業率がまだ9.5%と極めて高い水準にあるわけですから。

 でも、だからこそ疑問が浮かんでくるのです。

 それは、米国の実質GDPについては、2010年第1四半期(13兆2165億ドル)は、これまでのピーク時(2007年第4四半期の13兆3635億ドル)の98.9%まで回復していることとの関係です。

 私の言いたいことがお分かりでしょうか?

 要するに、実際に働いている人の数は、かつての95%ほどにとどまっているのに、生産高はかつての99%にまで回復している、と。


 米国の雇用統計の数字というのは、信じていいのでしょうか?

 こんなに失業者が沢山存在していて‥、つまり、実際に働いている人の数が減っているのに、生産高は、ほぼかつての水準を回復しているなんて‥

 でも、万が一虚偽の数値を公表するのであれば、失業者の数値をもっと低めに出すことを考えるでしょうから‥

 だとすれば、これらの数値は信じるしかない。しかし、そうなれば、何故少ない人数でかつての生産高を達成できるのか、という疑問が生じるわけです。

 その答えは、こうして失業した労働者は、これまでもそれほどはGDPの増加に貢献していなかったのではないのか、と。推測すれば、そのような失業者の大半は、どちらかといえば単純な作業をこなすような労働者で、賃金水準も低かったのではなかったのか、と。で、そうした人々の仕事の多くは、例えばパソコンやロボットなどが代行することが可能であったと。

 こうした推理を裏付けるデータがあります。

 それは、年齢別や人種別などの失業者の数値です。

 つまり、ティーンエージャーの失業率が高く、また、白人に比べ黒人などの失業率が高く、さらに、低学歴の労働者の方が失業率が高い、と。

 こんなことを言えば、ブーイングが起こりそうですが、雇用の状況というのは、政治家が重視するほどには、経済の実態に対する影響度は大きくないのだ、と。

 もし、現状が、雇用が回復しないために、経済が引き続きマイナス成長になっているのであれば、それは非常に深刻な問題と言わなければいけないわけですが、しかし、現実には雇用の回復がともなわなくても、経済はそこそこ回復しているわけですから、失業者には気の毒なことですが、国全体としての深刻度合いはそれほどでもないということなのです。

 しかし、それにも拘わらず、政治家にとっては雇用が最優先課題なのです。というのも、どんなに収入が少ない有権者でも、1票は1票だからです。

 いずれにしても、そうやって失業者の具体的な姿が見えてきたら、それに応じて雇用対策を考え直すことが必要になるのではないでしょうか。決して追加的な金融緩和策をとったところで、ティーンエージャーや黒人などの雇用回復に結びつく可能性は高くはないと思うのです。

 先ずは、高校を退学するような生徒を少なくすることが先決なのではないでしょうか。4人に1人とか5人に1人が退学するような状況があるわけですから、そうしたことに先ず手を付けるのが先決だと。

以上

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02月04日更新

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小笠原誠治(おがさわら・せいじ)

小笠原誠治(おがさわら・せいじ)

1976年3月九州大学法学部卒。1976年4月北九州財務局(大蔵省)入局。
大蔵省国際金融局開発金融課課長補佐、財務総合政策研究所研修部長、
中国財務局理財部長などを歴任し、2004年6月退官。
以降、経済コラムニストとして活躍。
メールマガジン「経済ニュースゼミ」(無料版・有料版)を配信中。
著書に「マクロ経済学がよーくわかる本」(秀和システム)、
ミクロ経済学がよーくわかる本―市場経済の仕組み・動きが見えてくる」(秀和システム)、
経済指標の読み解き方がよーくわかる本」(秀和システム)がある。
企業・団体などを対象に、経済の状況を分かりやすく解説する講演も引き受ける。

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