小笠原誠治の経済ニュースに異議あり!

長期金利が大幅低下

 今年の4月頃から米国及び日本で、長期金利が低下傾向にあることをご存知でしょうか。

 米国では、今年の4月には一時4.0%程度まで上昇していた長期金利(10年物国債利回り)が、最近では3.0%を割り込んでおり、また日本においても、4月頃には1.40%程度まで上昇していた長期金利が最近では1.10%を割り込んでいる、と。

 では、何故このように長期金利が下がり続けるのか?

 バーナンキ議長が、unusually uncertain と言ったから?

 それも一つのきっかけにはなっているのでしょうが‥

米国10年物国債利回り その2.jpg

(資料:FRB) 
(注)各月末時点の利回り)

 米国の長期金利の動向をもう少し長いスパンでみてみたいと思います。2007年1月からの動きです。当時、経済は熱過ぎもせず冷た過ぎずもせず、ちょうど良い加減だ、などとやや浮かれ気味だった頃ですが、その頃の長期金利は5%を少し切るくらいの水準で、それが2007年の夏にかけて上昇して行ったわけです。

 覚えていますでしょうか? 2007年8月にパリバショックが起きました。今回の金融危機の端緒となるものです。で、ご承知のようにそれ以降、FRBは異例の措置を取り、一旦は小康状態を取り戻したかに見えたわけですが、2008年9月にリーマンショックが起こり、金融危機はピークに達する、と。

 で、その後、2008年12月にはFRBがゼロ金利政策を採用し、現在もゼロ金利は続いているわけですが、長期金利の方はむしろ上昇し始め、そして、今年の4月にピークに達していた、と。

 つまり、今年の4月以降、再び長期金利が下がってきているわけですが、どうしてでしょう?

 景気が悪くなったから?

 でも、米国の長期金利が下がった理由は、景気が悪くなったというよりも、ユーロ安の影響で、安全資産としての米国債対する投資需要が高まったという見方の方が一般的だったと思うのです。

 つまり、欧州の金融機関の経営内容に疑心暗鬼が生じているから米国債が買われ、その結果、長期金利が下がっていると思われていたわけですが、ごく最近では、そのことに先ほどのバーナンキ議長の発言が加わり、米国の長期金利の低下は、景気の先行きがおもわしくない証拠でもある、と。

 本当に景気が良くないかどうかは、何とも言えない面があると思うのですが、少なくても雇用の回復のスピードが遅く、そして将来の見通しも、異例なほど不確かである、と。で、そうやってアメリカの景気が悪くなれば、日本にも影響を受け、そうなれば日本の長期金利も下げて当然であろう、と。


 いずれにしても、一般論としては、長期金利が下がるということは、資金需要が弱くなっている証しだということで、不景気の兆候だともされるわけですが、私、変なことに気が付きました。

 不景気の兆候は、何も金利の低下だけではありません。

 物価が下がることも不景気の兆候です。

 で、ご承知のとおり、世の中には物価が下がることを大変に嫌う人々が増えているようで、政治家のなかにもデフレの解消が最優先課題だ、という人もいるわけです。

 もちろん、そうした人の言うデフレの解消というのが、単に物価を反転させることだけでなく、景気を良くすることであるのであれば、私は異論は述べません。しかし、多くの人は、景気がどうなるかはさておいて、とにかく物価を上げるようにすべきだ、と主張していることに違和感を感じる訳なのです。

 そして、そのような人々は、日銀はどれだけでもお札を刷ることができるわけだから、物価を上げようとしないのは、日銀の怠慢だと日銀を叱責する、と。

 でも、仮に日本銀行がマイルドなインフレを起こすことができたところで、それだけでは何も解決はしないのです。むしろ、不景気な上に物価まで上がってと悲鳴を上げる人が増えるだけかもしれません。

 でも、世の中、そうはいってもデフレの解消が先決だと大声を出している人がいるのです。竹中教授、勝間女史、そして勝間女史に洗脳された菅総理、そして国家戦略担当の荒井大臣、それから一躍総理にふさわしい人のナンバーワンになった渡辺代表、或いは、評論家の荻原女史、それに森永さん‥、その他にもいっぱいいます。

 まあ、そういう方々にも少しは同情すべき点があるわけです。何故ならば、ノーベル経済学賞を取ったクルーグマン教授までも同じようなことを言っているし、バーナンキ議長などは、ヘリコプターからお札をばら撒いてもデフレを食い止める、と言っているからです。

 で、彼らの考え方に共通していることと言えば、物価が下落傾向にあるなかでは、何か欲しいものがあっても購入を先に延ばせば延ばすほど価格が低下して得することが予想されるので、消
費が先送りされ、景気が益々悪くなるという理屈です。

 この議論、一見もっともらしく聞こえます‥

 しかし、多くの人はそういう行動には出ないものです。
 
 確かに、夕方まで待てばスーパーで特売が始まるから、なるだけ遅く買い物に出かけるという消費者がいるのは事実でしょうが、だからと言って、何時までも消費を先延ばしにする訳にはいかない、と。何故ならば、我々は、必要なものは必要な時に買わなければいけないし、欲しいものを欲しい時に買わないと、我々の欲求が満たされることはないからです。


 でも、本日は、そのことが言いたい訳ではありません。本日言いたいことは、仮にデフレのせいで消費を先延ばしにする傾向がみられるという議論を仮に認めた上での話です。

 というのは、消費を先延ばしにすることがないようにするために物価を上げることが必要だというのであれば、では、何故設備投資などを先延ばしすることがないように金利を上げる必要があると言わないのか、と。

 この先まだまだ金利が上がることがないと考えるから、慌ててお金を借りて設備投資をする必要はないと考える企業も、もうしばらくすると金利が上がるだろうと予想すれば、きっと銀行からお金を借りて必要な設備投資をする企業もあるはずだからです。

 何故、金利を上げると言わないのか?

 よく、日本だけが先進国のなかでデフレに陥っているという議論が聞かれます。

 で、それに対して理由が挙げられるわけなのですが、あまり説得力のあるものはありません。大抵は日本銀行の政策が間違っていたから、だと。

 確かに、日本だけで物価が下がるような現象が起きている、と。では、何故、日本だけに起きるのか? 日本だけに起きている現象はデフレだけなのか?

 実は、日本の大企業は下請けに対して、絶えず値下げの圧力をかけていることで有名なのです。つまり、日本の場合には、よく言えばコスト削減の努力を絶えず行っているために、価格が下がりやすい、と。或いは、価格を下げないと生き延びれないからと言った方がいいかもしれません。

 もう一つ理由があります。それは、日本だけが長い間、ゼロ金利か、ほぼゼロ金利と言っていい状況が続いているということです。ゼロ金利政策が取られているということは、かつてと比べて企業の名目借入コストは安くつくということです。で、借入コストが安くつくということになれば、それ以外のコスト面で削減の余裕が出てくるはずだ、と。だから製品価格が下がりやすくなっているのです。
 
 更にもう一つ。それは、預金金利が極めて低いために、年金生活者が消費を手控えざるを得なくしているということです。

 仮に、定期預金の金利が3%とか4%もついたとしたらどうでしょうか? そう言えば、高利回りで有名になった一時払い養老保険というのもあったわけです。また、ロクイチ国債と呼ばれたように、6.1%のクーポンレートでは金利が安過ぎると感じたられた時代もあったわけなのです。

 まあ、そこまで金利が高くなくても、もし仮に国債や定期預金で3%とか4%程度の利息がつけば、その利息分については、ショッピングに回そうかとか、贅沢をしてもいいかな、と人間思うものです。

 つまり、名目で3%とか4%とかGDPを伸ばしたいと政治家がいうのであれば、何故金利を引き上げないのか、と。今、団塊の世代が第一線から退き始め、退職金や年金で生活をする人々が急増しているわけなのですが、そうした人々は、なるだけ預金の元本を減らしたくない、と。仮に減るにしても、そのペースを遅くしよう、と。だったら、預金の元本が減らないどころか、どんどん増えるように預金金利を上げれば如何でしょうか。私は、利息によって得た所得は、その多くが消費に回される、と思うのです。

 以前は、金利を上げたら、という政治家も少数ながらいたのですが、最近は‥

 どうしてもデフレから脱却させたいというのであれば、預金金利を引き上げること、これが一番です。

 それに、預金金利を上げるのに、政府は財源を必要としませんから、こんなにいい政策はありません。

 金利が上がるとお金を借りている企業が苦しくなるではないか、という人もいるかとは思いますが、利子負担が増えても、企業は、売行きが増加し、利益が増大するので、問題はないと考えます。

以上

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02月04日更新

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小笠原誠治(おがさわら・せいじ)

小笠原誠治(おがさわら・せいじ)

1976年3月九州大学法学部卒。1976年4月北九州財務局(大蔵省)入局。
大蔵省国際金融局開発金融課課長補佐、財務総合政策研究所研修部長、
中国財務局理財部長などを歴任し、2004年6月退官。
以降、経済コラムニストとして活躍。
メールマガジン「経済ニュースゼミ」(無料版・有料版)を配信中。
著書に「マクロ経済学がよーくわかる本」(秀和システム)、
ミクロ経済学がよーくわかる本―市場経済の仕組み・動きが見えてくる」(秀和システム)、
経済指標の読み解き方がよーくわかる本」(秀和システム)がある。
企業・団体などを対象に、経済の状況を分かりやすく解説する講演も引き受ける。

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