小笠原誠治の経済ニュースに異議あり!

最近の雇用状況

 昨日、1月の失業率が発表されました。 1月の失業率は4.9%となり、昨年12月に比べると0.3ポイント改善した、と。ピーク時の5.6%(09年7月)に比べると0.7ポイント改善したことになります。

 失業率が4%台だなんて、アメリカからみると信じられないくらいの数字かもしれません。でも、全然楽観ムードは伝わってきませんね。長妻大臣によれば、「持ち直しの兆しがみえるものの、まだ絶対値でいうと厳しい情勢に変わりない」と。確かに、それはそうかもしれません。

 本日は、毎月勤労統計調査の結果が発表になりました。

 それによれば、1月の現金給与総額は0.1%増。所定外労働時間は3.4%増。そして常用雇用は0.2%減少したそうです。但し、これらは全て前年同月と比較した結果です。

 

 私、いつも言うことですが、前年同月と比べても足元の動きが分からないので、役所が前年同月比を前面に打ち出して発表するのはあまり好きではないのです。仮に前年同月と比べて伸び率がゼロであっても、その間に数値が上下していれば、最近の動きとしては増加し始めていることもあれば、逆に減少気味になっていることもあり得るからです。

 そういうことで、基本的には前月の数字と比較することが重要かと。そして、例えば、前月比でみて、3ヶ月か4か月連続で増加しているのであれば、増加が始まったと考えることができる、と。

 ただ、ここで問題なのは、雇用関係の計数は、季節要因に大きく左右される傾向があるということです。例えば、年末には一時的にパートの採用を増やす動きがよくみられ、その代わり年が明けると辞めてもらうような‥。

 ですから、前月と比べる場合には、そうした季節要因を除外した季節調整済指数でみることが必要なのです。

 では、季節調整済指数でみることにしよう、となるところなのですが‥、この毎月勤労統計調査というのは、一部についてしか季節調整値を算出していないのです。

 これでは、折角大事な国のお金を使って行った調査も、大部分が「何の意味もない! 何の意味もない!」

 では、厚生労働省が、「1月の現金給与総額は0.1%増。所定外労働時間は3.4%増。常用雇用は0.2%減」と発表したことをどのように解釈すればいいのか? それを本日は見ていきたいと思います。

 先ず、現金給与総額、所定外労働時間、常用雇用の3つのうちで厚生労働省が季節調整値を発表しているのは所定外労働時間と常用雇用だけです。


<現金給与総額>(2005年平均=100)
  原指数
2006年 100.2
2007年  99.2
2008年  98.9
2009年  95.1

 最近の給与水準は、5年ほど前から比べると5%ほど落ち込んでいるということのようですが、では、この1年間ほどの動きはとみると‥

2008年 原指数 前年同月比
12月  176.5  -1.5%
2009年
1月   82.3  -2.7%
2月   80.3  -2.4%
3月   82.4  -3.9%
4月   82.0  -2.7%
5月   80.9  -2.5%
6月  130.0   -7.0%
7月  109.5   -5.6%
8月   82.7  -2.7%
9月   80.1  -1.8%
10月   80.6  -1.9%
11月   83.9  -2.4%
12月   166.1  -5.9%
2010年
1月   82.4   0.1%


原指数の動きをみると、なーるほどと思いませんか?

 12月と6月、7月がドーンと高い数値になり、あとの月は同じくらいの水準になっていますが‥、そう、これはボーナスが支給される関係で、12月、6月、7月は高い、と。ということで、現金給与総額は、季節要因が大きく働いていることが分かります。

 ということは、前月との比較が難しく、足元の動向を探ることも難しいということになるのですが‥

 何か気が付きませんか?

 もちろん、この1月にプラスに転じたということで、給与水準が下げ止まったということが推測できるわけですが、実は、下げ止まりはもう少し前に始まっていたと思われるのです。

 昨年12月のボーナス支給月においては、前年同月比が大きく落ち込んでいますが、その12月や他のボーナス支給月を除けば、昨年の前半においては、前年同月比で2~4%落ち込むのが普通だったのが、昨年後半には落ち込んでも3%未満に収まっているわけですから、足元の動きとしては下げ止まっていることが予想できるからです。

 つまり、前年同月比の減少幅が縮小し始めると、底を打ち、前月比でみると増加し始めたと推測することができる、と。


 次に所定外労働時間を見てみましょう。

<所定外労働時間>(2005年平均=100)
    原指数
2006年 102.6
2007年 103.9
2008年 102.3
2009年  86.7

 所定外労働時間は2009年にどーんと落ち込んでいます。それが最近ではどうなっているかといえば‥


    原指数 前年同月比
2008年
12月   97.4    -10.3%
2009年
1月   85.8    -14.4%
2月    83.0    -21.7%
3月    84.9    -22.7%
4月    87.7    -18.9%
5月    82.1    -18.4%
6月    83.0    -17.6%
7月    85.8    -16.4%
8月    84.0    -14.2%
9月    86.8    -14.1%
10月    90.6    -11.2%
11月    92.5    -8.5%
12月    94.3    -3.2%
2010年
1月   88.7    3.4%


 所定外労働時間は、本日発表になったとおり、この1月にプラスに転じたというわけですが、では、1月になって初めて所定外時間が増加しだしたかといえば、そうではなく、昨年の後半以降には確実に増加したと見られるのです。何故かといえば、これも昨年後半以降、前年同月比の落ち込み幅が徐々に縮小し始め、11月、12月には一桁の落ち込み幅にまで回復しているからです。

 では、季節調整値が発表になっている製造業の所定外労働時間の動きをみてみましょう。


<製造業の所定外労働時間の前年同月比と前月比(季節調整済み)>

    前年同月比  前月比
2008年  
12月   -29.8% -11.3% 
2009年
1月     -38.6% -11.4% 
2月    -48.3% -14.6%
3月    -48.9% -0.2%
4月    -45.8% 2.0%
5月    -42.6% 5.3%
6月    -40.7% 1.7%
7月    -34.4% 6.6%
8月    -27.9% 6.2%
9月    -24.4% 3.2%
10月    -19.4% 4.1%
11月    -8.3% 3.0%
12月    8.4% 5.0%
2010年
1月   30.1% 6.5%


 製造業の所定外労働時間についても、前年同月比でみると、昨年の前半に落ち込み幅が最大になっているのですが、後半に入ると落ち込み幅がどんどん小さくなり、12月にプラスに転じているのが分かります。一方、季節調整済指数の前月比をみるとどうでしょうか。ご覧のように3月がボトムであり、4月からは少しずつ回復している様子が窺われるという訳なのです。

 このように、所定外労働時間は、もう相当の期間に渡って回復を続けているというのも事実なのです。
 

 最後に常用雇用指数を見てみましょう。 

<常用雇用>(2005年平均=100)
    原指数  
2006年 100.6
2007年 102.2
2008年 103.7
2009年 103.9

 こちらの方は、2009年においても落ち込むどころか僅かに上昇していることが分かります。

 では、最近の動きはどうなっているのでしょうか。

    原指数 前年同月比 季節調整済指数 前月比
2008年
12月   104.3 1.0%    104.1 0.0%
2009年
1月   103.8 0.9%   104.1 0.0%
2月   103.3 0.5%    104.0 -0.1%
3月    102.8 0.5%   104.0 0.0%
4月    104.0 0.3%    103.9 -0.1%
5月    103.9 -0.1%    103.6 -0.3%
6月     104.1 0.0%    103.7 0.1%
7月    104.2 -0.1%    103.7 0.0%
8月   104.0 -0.1%    103.7 0.0%
9月    104.0 -0.1%    103.8 0.1%
10月   104.0 -0.1%    103.9 0.1%
11月    104.0 -0.2%    103.9 0.0%
12月   104.0 -0.2%    103.9 0.0%
2010年
1月   103.6 -0.2%    103.9 0.0%


 原指数でみると、この半年間ほど、前年同月比では、-0.1%か-0.2%の減少を続けているのですが‥

 でも、前年同月比の落ち込み幅がほぼ一定であるということは、足元の動きとしては、殆ど変化がないのではないかと推測できるわけです。案の定、季節調整済指数をみると、昨年後半以降、前月比は0.0%か0.1%のプラスになっているということで、決して落ち込みが続いているということではないのです。

 ところで、常用雇用の原指数をみると、1月は12月に比べ季節要因で落ち込むことが窺われそうです。また、4月には季節要因で増加する、と。何故だか、お分かりになりますか?


 厚生労働省のプレスリリースには、調査結果のポイントとして、常用雇用は0.2%減と書いていましたが、足元の動きとしては、増え減りもしていないと理解すべきだと思います。

以上

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02月04日更新

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小笠原誠治(おがさわら・せいじ)

小笠原誠治(おがさわら・せいじ)

1976年3月九州大学法学部卒。1976年4月北九州財務局(大蔵省)入局。
大蔵省国際金融局開発金融課課長補佐、財務総合政策研究所研修部長、
中国財務局理財部長などを歴任し、2004年6月退官。
以降、経済コラムニストとして活躍。
メールマガジン「経済ニュースゼミ」(無料版・有料版)を配信中。
著書に「マクロ経済学がよーくわかる本」(秀和システム)、
ミクロ経済学がよーくわかる本―市場経済の仕組み・動きが見えてくる」(秀和システム)、
経済指標の読み解き方がよーくわかる本」(秀和システム)がある。
企業・団体などを対象に、経済の状況を分かりやすく解説する講演も引き受ける。

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