小笠原誠治の経済ニュースに異議あり!

インフレとお金の量

 菅直人財務相は、22日衆院予算委員会で次のように述べました。

 「デフレ脱却は政府・日銀の共通目標だ。政府は財政出動して需要拡大に力を入れている。ぜひ日銀にもデフレ脱却の努力を一層して欲しいと期待している」

 で、それに対し、日銀の白川総裁は、次のように。

 「デフレから脱却するために、日銀としては潤沢に資金を供給していきたい」

 どれだけ潤沢に資金を供給しても、物価を上昇させることは至難の技に思えるのですが‥

 菅直人財務相は、23日、月例経済報告関係閣僚会議後の記者会見でデフレ克服について、さらに次のように述べています。

 「日銀は金利上昇を心配しているようだが、政府はやるべきことをちゃんとやるので、日銀もやるべきことを大いにやってもらいたい」


 

 日銀がやるべきことをやっていないようにも聞こえますが、菅財務相は日銀に具体的に何を求めているのでしょうか。

 白川総裁も、大量のアイソを貯め込んでいたと思うのですが、そのアイソもそろそろ尽きてくるのではないでしょうか。

 まあ、でも、菅さんは、自分は何か変なことを言っているとは少しも思っている訳ではないのですよね。日本経済が良くなるために精一杯頑張っている、と。日銀ももう少し汗をかいてくれ、と。だからこそ、見ていて余計に虚しくなるのです。

  私は、何を言いたいのか?

 要するに、日銀がどれだけ頑張ってもインフレは起こせない、と。本日は、その理由を分かりやすく説明しましょう。

 先ず、インフレが起こるとすれば、何が真の原因か? そう、皆さんに問いたいと思います。

 何がインフレの原因か?

 恐らく、多くの人が、通貨を発行しすぎるとインフレになると答えるのではないでしょうか。

 確かに、インフレが起きているときには、通貨の発行が急増するものです。では、通貨の発行量が増えると必ずインフレになるのか? 実は、そうではないのです。

 例えば、ハイパーインフレが起きた国を思い出して下さい。第一次大戦後のドイツ。最近のジンバブエ。そして、戦後間もなくの日本。みな、モノ不足が原因で起きているのです。

 オイルショック後のインフレもそうです。思い出して下さい。石油資源は有限だと叫ばれ、皆石油が近い将来枯渇してしまうのではと心配しました。だから、人々はトイレットパーパーまで買いだめし、市場ではモノ不足の現象が起きたのでした。

 石油の価格が上昇したのは、OPECの決定によって引き起こされたと考えられますが、そうではあっても、もし、当時人々が石油資源が遠からず枯渇すると考えることがなかったら、そうした価格の引き上げは実現するはずはなかったのです。

 そうしたモノ不足の状況で、人々が、なくならないうちにモノを確保しようと思えば、預金をどんどん引き出してでもモノを買おうとするでしょう。そして、皆がそういう行動を取るから通貨の発行量が増えるのです。

 決して、中央銀行がお金を発行しすぎたからインフレが起きるわけではないのです。もちろん、中央銀行がお金の発行を抑えることは可能です。そして、そうすれば、少しはインフレの進行を止めることができるかもしれませんが、必要な物資が絶対的に不足する場合には、そうした物資の価格の高騰を止めることはできないのです。

 では、物価は何故下がるのか?

 通貨の発行量が少なすぎるからなのか?

 そうではないのです。物価が下がるのは、需要に比べ供給が多すぎるからなのです。つまり、市場でモノが溢れた状態になっているから物価が下がる、と。そして、物価が下がるから取引に必要な通貨の量も少なくて済むと。

 つまり、通貨の量が少ないからデフレになっているのではなく、デフレであるから通貨の量が少なくなっているのです。

 それが真相なのに、日銀にどうにかしろという人が大勢いるわけです。

 以上の説明でも納得できない人のために、一つの例をお示ししましょう。

 主たる産業が農業と漁業しかないような原始的な社会があったとします。但し、取引に必要な貨幣は存在していた、と。農業と漁業しかないような社会ですから、その貨幣というのは、美しい貝殻かなんかであったのでしょうが。

 そしてある年、農作物が大変豊作になり、また、魚も大量に獲れ過ぎる状態が続いたと想定して下さい。

 要するに食べるものが市場に溢れ、価格は暴落してしまった、と。そして、価格が暴落するものだから、当分農作業や漁は休止しようとなります。その結果、失業が発生する、と。デフレの状態
です。

 そのとき、誰かが、デフレから脱却するためにはお金の量を増やせばいいと言ったとします。そして、実際にお金の量を増やした、と。

 その結果、どうなるのか?

 農産物や魚の価格は上昇するのか?

 上がることはありません。何故なら、いくら世の中に沢山お金が流通していようとも、そうした農産物や魚は捨てるほど存在しているので、別に慌てて買う必要がないからです。ですから、お金は貯蓄されるだけである、と。


 ということで、今のデフレを脱却したいと思うのであれば、お金の量がどうだとかこうだとかいうのではなく、需要を増加させるか、供給を減少させるかしかないということです。

 ただ、需要を増加するかどうかは、結局は消費者が決めることですから、政府や企業ができることはといえば、過剰な生産設備を削減するか、或いは、暫く辛抱して需要が回復するのを待つか、或いは魅力的な新製品を作り出すしかないということなのです。

以上

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02月04日更新

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小笠原誠治(おがさわら・せいじ)

小笠原誠治(おがさわら・せいじ)

1976年3月九州大学法学部卒。1976年4月北九州財務局(大蔵省)入局。
大蔵省国際金融局開発金融課課長補佐、財務総合政策研究所研修部長、
中国財務局理財部長などを歴任し、2004年6月退官。
以降、経済コラムニストとして活躍。
メールマガジン「経済ニュースゼミ」(無料版・有料版)を配信中。
著書に「マクロ経済学がよーくわかる本」(秀和システム)、
ミクロ経済学がよーくわかる本―市場経済の仕組み・動きが見えてくる」(秀和システム)、
経済指標の読み解き方がよーくわかる本」(秀和システム)がある。
企業・団体などを対象に、経済の状況を分かりやすく解説する講演も引き受ける。

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