小笠原誠治の経済ニュースに異議あり!

ボルカー氏の考え(NYタイムズ紙の記事)

 ボルカー氏が、金融規制に関する自分の考えをNYタイムズに寄稿しています。これまでにもボルカー氏の考えは紹介していましたが、改めてどんなこと行っているのか、見てみましょう。

<ボルカー氏の主張のポイント 2010/1/30 NYタイムズ紙)

・オバマ大統領は、10日前に金融規制改革案を発表。金融危機の影響は極めて甚大であり、こうした改革の必要性については誰も反対できないはず。

・金融システムを維持し、市場の機能を回復させるために、政府と連銀は異例の介入を行った。大規模で名声のある銀行が救済や合併の対象となった。こうした措置は、実体経済への影響を食い止めるために止むを得ないものであった。


・金融システムが安定化しつつある今、当局による金融規制案が検討されている。例えば、適切な資本比率や流動性比率、当局の監督手法の改善、銀行のリスク管理手法の改善等。但し、大統領は重要なものが欠けていると考えている。

・最大の懸念は、銀行の救済が広範囲に行われたことからモラルハザードが蔓延していることだ。

・"too big to fail"(大きくて潰せない)ということが日常でも言われるようになった。これは、大規模で複雑で、そして国際的に活動をしているような銀行は政府の支援を当てにすることができるということを意味している。国民が、そうした不平等の扱いに憤りを感じるのは当然だ。

・モラルハザードが蔓延した結果、こうした金融機関は益々リスクの高い取引に手を出すことになり、その結果、金融システムは益々脆弱になる。

・こうした問題を解決するためには、先ず、商業銀行の基本的な業務をよく理解する必要がある。こうした商業銀行の信用システムこそが、資本の仲介機能を果たし、経済の基礎を支えているのである。

・商業銀行の基本的な業務に様々な業務が結合するときに、リスクは増大する。それ故、アダムスミスは200年以上も前に、銀行は規模を大きくしない方がいいと説いたのだ。規模が小さければ、仮に破綻した場合の他に与える影響が限られる。

・ただ、実際には銀行は大きくなったので、政府はその代わり、安全網を完備することにした。そして、モラルハザードに対しては規制や監督で応じようと。

・大統領が提案しているのは、銀行の自己勘定取引の制限だ。具体的には、ヘッジファンドや未公開株式ファンドの所有・運営及び自己勘定取引の禁止である。こうした活動をしている機関は、国内には4つか5つしかなく、また国際的にみても25~30程度である。

・商業銀行がそうした活動に従事することは、顧客との間で利益相反を起こす。また、そうした利益相反は、チャイニーズウォールでは防ぎようがない。

・世の中には、何千というヘッジファンドや未公開株式ファンドが存在しているが、商業銀行がそうしたファンドを所有することになれば、公平な競争条件を阻害するだけで何ら有益なことはない。

・メガバンクが保有するヘッジファンドなどは、大きすぎるから潰せないと思われる一方で、独立した多数のヘッジファンドなどは、経営に失敗すれば現実に破綻しているが、マーケットには何も深刻な影響を与えていない。

・もし破たんしたら経済に深刻な影響を与えるだろうと思われている投資銀行や保険会社などは、限られてはいるが幾つか存在している。そうした機関に対しては、資本や負債に制限を課することが重要だ。

・そうした機関の破綻が、それでもなお経済に深刻な影響を与える場合もあると思われるが、そうした場合に備えるために、清算(解体)の権限を当局に与えることが必要である。

・清算される場合には、株主や経営陣が守られることはない。債権者も債権がカットされる。要するにマーケットで活動する機関については、大きすぎて潰せないということはなくなる。彼らは、他のマーケット参加者と同じように潰れる自由を有するのである。

・こうした金融規制案について、他の国との協議が必要である。特に重要であるのは、商業銀行にとって相応しい業務範囲をどこまで認めるかということである。

・規制緩和の圧力は今でも存在しているが、我々は規制改革に着手し、それを法律として成立させることが必要なのだ。

 
 私は、ボルカー氏の意見に100%賛成というわけではありません。それは、仮に、銀行がヘッジファンドを運営することを止めたり、また、自己勘定取引を止めたからといって、それで完全にリスクの高い業務が全て排除されることはないからです。

 早い話、今回もし、昔ながらの手法で経営を続けていた銀行があったとして、そしてまた、自己勘定取引には全く手を出していなかった銀行があったとして、その銀行は、住宅バブルの崩壊によって何も影響を受けずに済んだのであろうか?

 住宅ローンを抱えた銀行は、やっぱり大きな損失を発生させ、大変な危機に遭遇したのではないでしょうか。

 つまり、伝統的な銀行業務だけを行うとはいっても、住宅ローンや企業の設備資金を融資するようになれば、それはやっぱり大きなリスクを伴うということになるからです。

 ただ、そうはいっても私は、結果的にはボルカー氏の意見に賛同したいと思います。
 
 彼のようなことを言う人がいないと、アメリカの金融業界は益々おかしくなってしまうからです。

以上

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02月04日更新

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小笠原誠治(おがさわら・せいじ)

小笠原誠治(おがさわら・せいじ)

1976年3月九州大学法学部卒。1976年4月北九州財務局(大蔵省)入局。
大蔵省国際金融局開発金融課課長補佐、財務総合政策研究所研修部長、
中国財務局理財部長などを歴任し、2004年6月退官。
以降、経済コラムニストとして活躍。
メールマガジン「経済ニュースゼミ」(無料版・有料版)を配信中。
著書に「マクロ経済学がよーくわかる本」(秀和システム)、
ミクロ経済学がよーくわかる本―市場経済の仕組み・動きが見えてくる」(秀和システム)、
経済指標の読み解き方がよーくわかる本」(秀和システム)がある。
企業・団体などを対象に、経済の状況を分かりやすく解説する講演も引き受ける。

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