小笠原誠治の経済ニュースに異議あり!

ケインズの1年

 本日はクリスマスイブで、今年もあと1週間となりました。

 私、思うのですが、今年はケインズの1年と言ってもいい年ではなかったか、と思います。というのも、欧米社会では既に過去のものとなっていた財政出動が復活したからです。お分かりですよね。リーマンショックが起こり、世界的に需要がガクンと落ち込む事態になり、そうした不況のショックを和らげるために、アメリカが世界的な財政出動を呼びかけました。そして、麻生政権の下で巨額の補正予算が編成されることに‥、そしてまた、新政権の下においても巨額の補正予算が決定され、そしてさらに大型の通常予算が編成されようとしています。

 でも、まだまだ足りないという声が起きているのです。何故ならば、現在の日本の需給ギャップは35兆円もあるから、と。

 

 ケインズ的な考え方は、小泉政権の下では完全に否定されていました。だからこそ、公共事業は減少の一途を辿った、と。そして、近年の欧米社会においてケインズ的な考え方は一顧だにされていなかったと言っていいと思います。そんな状況のなかから突如ケインズの思想が蘇ってきたわけです。そのこと自体も100年に一度の危機であるという認識を証明する事実なのかもしれません。

 ただ、ケインズの考えを今になって認めるということは、それでは、これまでケインズの考えを否定してきたことが間違いだった、ということなのでしょうか。そのことを専門家に聞いてみたい。

 しかし、国民や政治家にはそうした問いをすることはありません。何故なら、ケインズの考えを正しく理解しているような人は、専門家以外では大変稀だと思うからです。

 でも、私は、皆さんにある程度のことを知ってもらいたい‥、そんな気持ちでブログを書いたりしているわけです。

 はっきり言って、景気回復を図るために国が借金をして、そして財政出動するやり方は正しいのか?

 如何でしょうか。

 例えば、10兆円分の国債を発行して、それで公共事業を行えば、景気はどの程度良くなるのか? あるいは、その分を減税に充てると、どの程度効果があるのか?


 10兆円分の公共事業を実施すれば、10兆円分がGDPに追加されるのは事実でしょう。そして、その事業に携わった業者や労働者は、10兆円を得る、と。仕事がないときに、政府からそうした公共事業を受注することができれば、それは恵みの雨となるでしょう。

 では、効果はそれだけか?

 ここで、経済学を学んだことがある人は、乗数効果があるので、例えば乗数が3であれば、GDPの追加額は30兆円になるはずだ、と答えると思います。

 では、減税の場合には、どうか?

 10兆円の減税、あるいは、10兆円の定額給付金の支給があったとして、GDPは、最低限10兆円増えることになるのか?

 しかし、減税等の場合には少々事情が違うのです。GDPが全く増えない場合もあるのです。

 では、何故、GDPが全く増えない場合があるのか? それは、国民が、そうした減税に全く反応を示さない場合です。全く反応を示さないというのは、そうした減税や定額給付金の支給があっても、通常支出される額に変化が生じないという場合です。つまり限界消費性向がゼロであれば、減税や定額給付金が支給されたとしても、GDPには1円分も追加されることがありません。

 ということになると、現在のように消費者のマインドが冷え込んでいるような状況、つまり、限界消費性向が著しく低いと思われる状況では、減税よりも公共投資の方がいいということになるでしょう。

 しかし、繰り返しになりますが、その公共投資の効果も、消費者の態度に何の変化も与えることがなければ、GDPは、単に10兆円増えてそれで終わりだ、と。

 政府が10兆円お金を使って、GDPが10兆円増えるだけ。まあ、それでも、やらないよりはましだという人もいるでしょう。

 しかし、それによって借金は10兆円分増加することになります。そして、こんなことをもう30年以上も繰り返しているので、借金の山が出来上がったわけです。で、借金の山ができて、将来増税になるのではないかと国民が考えるので、どうしても贅沢をする気になれないのでしょう。


 では、借金は悪いことなのか?

 実は、この問いに対して正しい答えをする人は殆どいません。大方の反応は二つに分かれます。

 ある程度の借金はやむを得ないかもしれないが、借金をして借金を返すようなことが良いわけがない、と。

 これ、常識に合った意見です。また、だからこそ、政治家は時として、国債の増発に抵抗を示すわけです。

 一方、いくら借金をしても、それによって景気を回復させることができるのであれば大いに結構であり、そして、もし景気が回復できれば、税収も増え、借金も返すことができるではないか、という意見があります。

 まあ、積極財政派と言われるような方は、後者の考え方を採っているということでしょう。

 上の二つの意見のどちらが正しいのか?

 実は、どちらも正しいようであり、どちらも正しくないとも言えるのです。

 どういうことか?

 例えば、売り上げが年間100億円程度しかない企業が、もう既に300億円も借金をしていると考えて下さい。そして、その企業が、さらに50億円の借金をしたいと言ったら、それは認めるべきか、どうか?

 もし、その借金が倒産の時期を先送りするためだけのものであったら、そうした借金は否定すべきかもしれません。

 でも、もし、その企業が大変有力な商品開発に成功し、もし50億円の元手があれば、大いに儲けが期待できるとしたらどうでしょう。借金は一時的にはさらに50億円が追加されるのですが、売り上げが増大し、その50億円の借金をすぐ返済するどころか、既にあった300億円の借金も減らすことが可能であるかもしれません。

 といことで、借金をしても、それによって利益を上げることができ、そして借金の返済が容易であると予想されるのであれば、借金は肯定されていいのです。

 つまり、我が国政府の借金が膨大な額に達しているのが事実だとしても、理屈の上では、借金が増えても、それによって日本の景気が良くなり、そして、税収が当該借金の額以上に増加すれば、借金は大いに認められていいということなのです。そのような状態では、借金をすればするほど借金残高は減少していくと‥

 何か夢のような話です。でも、もし、そうして日本経済が発展し、税収の増加が予想されるのであれば、国債をまだまだ発行してもいいはずなのですが‥。

 では、これまで政府が国債を発行して、そして、それによって財政出動をして、その結果、どうなったのか?

 景気は回復したのか? それはなんとも言えません。まあ、何もしなかったよりはいいではないか、という人もいます。しかし、いずれにしても、税収の増加には結ぶついていないのです。

 第一次オイルショックの後、暫くして我が国は不況に突入し、税収不足が発生しましたが、財政当局は、当初赤字国債の発行に強く反対していました。それは健全財政の考え方に反するからです。しかし、そんなときに、当時の新聞各紙は、「大蔵省は、ケインズ経済学を知らないのか!」と大声を上げたのでした。そして、そうした声が大きくなり、ついに政府は赤字国債の発行に踏み切ったわけです。国債を発行しても、それによって景気が回復すれば、いずれは税収も増加して、国債を償還することができるであろう、と。

 でも、どれだけ待っても税収はなかなか増加せず、借金は増えるばかりであった、と。これが現実なのです。だから、国債を発行して、景気をよくしようとしても、なかなか巧く行かないのです。

 では、国債の発行は絶対認めるべきではないのか?

 そうは言いません。国債の発行が認められなければ、そして、増税も実現できないとすれば、政府がデフォルトを起こすのは簡単なことですから。従って、やむをえない国債の発行は認める必要がある、と。

 また、かつての東海道新幹線や高速道路事業のように、その経済の波及効果が大きいと認められる事業があれば、国債を発行して公共事業を行うことが理にかなっている場合もあり得るのです。ただ、注意して欲しいのは、この場合の経済の波及効果というのは、乗数効果とは全く別物であるということです。

 つまり、高速道路の開通によって物流の効率化が進み、それまで遠隔地に運ぶことができなかった魚や野菜を大都会のマーケットにまで運ぶことができるようになれば、大都会の消費者にとってメリットがあり、同時に地方の生産者も大いに潤うことができるというよう効果のことです。

 要するに、そうした効果がある事業のためなら、いくらでも借金をして、つまり、国債を発行してもいいが、そうでないのであれば、国債の追加発行は認めるべきではない、ということです。

 景気浮揚のためにどうしても財政出動をしたいというのであれば、最低限以上のようなことをよく認識したうえで、実施プロジェクトを真剣に選別すべきではないでしょうか。


 事業仕分け人ではなく、実施すべき事業の、事業選別人が必要になるのではないでしょうか。

 需給ギャップを埋めることばかり主張する意見は、頂けません。

 以上

PR / Ad Space

PR / Ad Space

クルクるアンケート

02月04日更新

自動売買って興味あります?






みんなの回答を見る

小笠原誠治(おがさわら・せいじ)

小笠原誠治(おがさわら・せいじ)

1976年3月九州大学法学部卒。1976年4月北九州財務局(大蔵省)入局。
大蔵省国際金融局開発金融課課長補佐、財務総合政策研究所研修部長、
中国財務局理財部長などを歴任し、2004年6月退官。
以降、経済コラムニストとして活躍。
メールマガジン「経済ニュースゼミ」(無料版・有料版)を配信中。
著書に「マクロ経済学がよーくわかる本」(秀和システム)、
ミクロ経済学がよーくわかる本―市場経済の仕組み・動きが見えてくる」(秀和システム)、
経済指標の読み解き方がよーくわかる本」(秀和システム)がある。
企業・団体などを対象に、経済の状況を分かりやすく解説する講演も引き受ける。

本サイトに掲載されている情報は、情報提供を目的としたものであり、特定商品や投資の勧誘を目的としたものではありません。
最終的な投資判断はお客様ご自身の判断と責任によってなされるものであり、この情報に基づいて被ったいかなる損害について小笠原誠治及び株式会社GCIキャピタルは責任を負いません。
小笠原誠治及び株式会社GCIキャピタルは、信頼できる情報をもとに本資料を作成しておりますが、正確性・完全性について小笠原誠治及び株式会社GCIキャピタルが責任を負うものではありません。
本サイトに記載されている情報は、作成時点のものであり、市場環境の変化等によって予告なく変更または廃止することがあります。

ページトップへ戻る