小笠原誠治の経済ニュースに異議あり!

人民元はどうなる?

 オバマ大統領とフウ・ジンタオ国家主席の記者会見が開かれましたが、笑顔はないようです。日経新聞には、「米中時代」足もとに溝とあります。

 だいたい、中国は日本とは違い、筋金入りの頑固さですから、そう簡単にアメリカの言うことを聞くはずがないのでしょう。でも、その一方で、「戦略的信頼」という言葉が日経の紙面には躍っています。

 ただ、正直言って、戦略的信頼などと言われても、その意味がピントきません。戦略というと、策を弄するイメージがありますので、どうしても信頼という言葉と馴染まないからです。

 

 米中共同声明の要旨には、次のような文章があります。

 「両国は相互の戦略的信頼をはぐくみ、深化させることが新時代の米中関係にとって不可欠だと信じている」

 原文では、どうなっているのでしょうか?
 
 The United States and China are of the view that in the 21st century, global challenges are growing,countries are more interdependent, and the need for peace, development, and cooperation is increasing.

「米国と中国は、21世紀にあっては地球規模の問題が大きくなり、国々はさらに相互依存が進み、平和の必要性、経済発展の必要性、そして協力の必要性が増しているという考えである」

 The United States and China have an increasingly broad base of cooperation and share increasingly important common responsibilities on many major issues concerning global stability and prosperity.

「米国と中国は、世界の安定と繁栄に関する諸問題に関して、益々幅広くなりつつある協力の基盤を有し、また、益々重要となりつつある共通の責任を分担している」

 まあ、日本語としては、やや違和感があるでしょうが、意味は分かりますよね。例えば、気候変動の問題にしても、今や中国と米国が、二酸化炭素の排出量については1位と2位の国だから、その両国が共通に責任を負っているのだ、と。

 で、この後が、例の「戦略的信頼」と訳された文章のようです。

 The two countries should further strengthen coordination and cooperation, work together to tackle challenges, and promote world peace, security and prosperity.

「両国は、諸問題に取り組むために、そして世界の平和と安全と繁栄を促進するために、協調と協力関係をさらに強化させなければいけない」

 The two countries believe that to nurture and deepen bilateral strategic trust is essential to U.S.-China relations in the new era.

「両国は、二国間の戦略的信頼を育み、深化させることが、新時代の米中関係にとって必要不可欠であると信じる」

 出てきました、strategic trust。

 でも、一体、strategic trust は何を意味するのでしょうか。前段の文章があるので何となくイメージがわくのですが、いきなりstrategic trust と言われるても、戸惑ってしまうことでしょう。

 いろいろ考えていると‥、

 結局、相手のことを無批判に信頼するのではなく、よくよく考えたら互いに信頼することが自分たちのためになるのだということで、信頼せざるを得ないのだ、ということなのでしょうか。

 いずれにしても、現在の米中の状態を示唆するような意味深な言葉です。

 それはそうと、人民元問題はどうなったのでしょう。共同声明には盛り込まれなかったと言います。中国が反発したということでしょう。しかし、その一方で、オバマ大統領は、記者会見で人民元について言及しています。その点では中国側も少しだけ妥協したのでしょうか。

 
 オバマ大統領の会見内容をみてみましょう。

 As President Hu indicated, we also agreed that maintaining open market and free flows of commerce in both our nations will contribute to our shared prosperity.

「フウ・ジンタオ国家主席が示したように、我々はまた、我々の両国において開かれた市場と自由な取引を維持することが、互いの繁栄に貢献することに合意した」

 And I was pleased to note the Chinese commitment, made in past statements, to move
toward a more market-oriented exchange rate over time. I emphasized in our
discussions, and have others in the region, that doing so based on economic
fundamentals would make an essential contribution to the global rebalancing effort.

「私は、時間をかけて市場型の為替レートに移行させようとする中国側の公約、それは過去の声明でなされたものであるが、その公約に喜んで留意したい。私は、今回の議論のなかで、経済のファンダメンタルズに基づきそうすることが、世界的な不均衡是正努力に本質的な貢献することを強調した」

 
 私、ここで重要なことを発見しました。それは、新聞などに掲載されている要約を読んでいると、中国側が、市場型の為替レートに移行すること、即ち、人民元を切り上げることを認めているように感じられたのですが‥、その中国側の約束というのは、made in past statements とあるではないですか。つまり、今回の議論のなかで中国が人民元の切り上げを再開するとは言ったわけではないということです。オバマ大統領は、中国が過去において、人民元を切り上げるといったよね、それを米国としては多としたい、と言っているのです。

 まあ、中国側としても、過去にそんなことを言ったのは事実ですから、そのことまで言うなとはアメリカ側に言えなかったというわけです。

 で、一方のオバマ大統領は、中国側から、人民元に関し言質を取りたかったわけでしょうが、それが失敗してしまい‥、しかし、人民元について何も触れないわけにはいかないので、そんな奇妙な文章になっているのです。

 つまり、両者は決裂。だから二人とも渋い顔をしていた、と。

 第2回目の米中の戦略経済対話が行われるのが来年の夏だと言いますから、その頃まで、中国は人民元の切り上げを再開しない可能性もありますが、ただ、輸出がまた過去の水準にまで戻ってくると、人民元の切り上げが早まる可能性もあります。


以上

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03月12日更新

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小笠原誠治(おがさわら・せいじ)

小笠原誠治(おがさわら・せいじ)

1976年3月九州大学法学部卒。1976年4月北九州財務局(大蔵省)入局。
大蔵省国際金融局開発金融課課長補佐、財務総合政策研究所研修部長、
中国財務局理財部長などを歴任し、2004年6月退官。
以降、経済コラムニストとして活躍。
メールマガジン「経済ニュースゼミ」(無料版・有料版)を配信中。
著書に「マクロ経済学がよーくわかる本」(秀和システム)、
ミクロ経済学がよーくわかる本―市場経済の仕組み・動きが見えてくる」(秀和システム)、
経済指標の読み解き方がよーくわかる本」(秀和システム)がある。
企業・団体などを対象に、経済の状況を分かりやすく解説する講演も引き受ける。

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