第66回 アメリカ経済の日本化(2/3)
アイルランドは事実上の「カタストロフィ」に突入した可能性が高いが、それでも経済規模が「世界に大打撃を与えるほど」大きくはない。より問題になりそうなのが、世界最大の経済大国であるアメリカである。
実は、不動産バブル以降のアメリカでは、まさしく日本そのままに「過剰貯蓄」という問題が発生しているのだ。その額は、早くも1兆ドル(約85兆円)の大台に乗せている。
過剰貯蓄とは、正式名称「預金超過額」であるが、要するに銀行の実質預金残高から民間への貸出金を差し引いた額だ。「銀行の実質預金」とは、銀行が我々一般の国民や企業から「預金」という形で借り入れたお金、すなわち借金のことである。
銀行は預金準備率の許す範囲で、国民からお金を集め(=借り)、それを企業などに貸し出し、金利収入を得ることが基本的なビジネスモデルになっている。ところが、バブル崩壊後の国では(日本は典型だが)、民間の資金需要が減退し、銀行に「貸し出しきれない預金」が積み上がっていく。これが預金超過額、もしくは過剰貯蓄である。
過剰貯蓄が積み上がる原因は、もちろん需要側(お金の借り手)と供給側(お金の貸し手)側の双方にある。たとえば、バブルが崩壊したことにより、民間が負債の返済を始め、結果的に銀行の貸し出しが減るというケースもある。同じように、バブル崩壊により不良債権が増大した結果、銀行側が貸し出しを抑制するというケースもあるわけだ(いわゆる貸し渋り)。
いずれにせよ、銀行の貸出残高は増えないわけだが、これはすなわち資本主義の基本機能である「信用創造」が働きにくくなっていることを意味する。結果、中央銀行が金利を下げ、量的緩和を行い、流動性を供給しても、民間にお金が流れにくくなってしまうわけである。
民間がお金を借りてくれなくても、銀行は手持ちの預金を何らかの方法で運用する必要に迫られる(運用しなければ、逆ザヤになってしまう)。そのため、通常の銀行は国債を購入することになり、結果的に長期金利が下がるというわけである。
アメリカの現在の預金超過額は、先にも書いたように1兆ドルである。日本の民間銀行の預金超過額は、すでに160兆円にも達しようとしているが、アメリカも同じ道を辿り始めた可能性が高いわけだ。預金超過額が積み上がっていくと、金融当局がどれだけ金融を緩和しても、お金が銀行から出て行かず、効果が限定されてしまう。そのため、国債発行という形で政府が過剰になった銀行の預金を借り上げ、景気対策などに使用し「国民に返す」ことになるわけである。
しかし、景気対策などで財政出動が拡大し、政府の財政赤字や負債残高が拡大していくと、野党やマスコミから、
「政府は『国の借金』ばかりを増やして!」
という批判の大合唱が始まり、政府の手足を縛ってしまう。批判の声に押され、政府が財政健全化路線(=緊縮財政)を採ると、日本やアイルランドのように経済成長率が低迷してしまう。
経済成長率の低迷とは、要するに不景気ということだ。不景気になると、結局のところ政府は財政出動を要求され、政府の負債は増える。不景気時に政府の歳入(税収など)が増えるわけもなく、そんな中でも歳出だけは増えていくため、財政はますます悪化してしまう。ここで言う「財政悪化」とは、09年のアイルランドのように「財政赤字対GDP比率」もしくは「政府の負債残高(いわゆる国の借金)対GDP比率」が悪化していくことを意味している。
ちなみに「経済の日本化」の特徴の一つに、銀行から国民に支払われる預金金利が低下していくという現象もある。銀行からしてみれば、どれだけ預金が集まっても、その運用先を探すのに難儀する有様であるから、当然ながら国民に支払う預金金利を下げざるを得ないわけだ。
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