第66回 アメリカ経済の日本化(1/3)
アメリカ経済の日本化が進んでいる。
その話に入る前に、そもそも経済の「日本化」とは何かについて、定義をしておきたい。経済の日本化とは、「過剰貯蓄(貸し出しきれない銀行預金)の増加」「超低金利」「民間の負債減少」「政府負債の増加」などがワンパッケージで進行することである。
バブル崩壊により、民間の資金需要が激減する。結果、民間は負債を返済し始め、同時に貯蓄を増やす。民間の資金需要がない中、銀行の預金残高だけは増えていくため、銀行は国債購入を増大させる。結果、長期金利は低下していく。民間の支出激減を受け、政府は国債発行を増やし、景気対策を拡大せざるを得ない。当然の話として、政府の負債残高は増えていくというわけだ。
さらに近年は、上記に加えて、
「マスコミや野党が、政府の負債増を問題視し、財政健全化や緊縮財政を叫ぶ」
「民間の資金需要が回復しない中、政府までもが負債を減らす緊縮財政を開始した結果、景気悪化が深刻化し、税収が減り、財政がさらに悪化する」
が、ある種の「典型」になりつつある。さらに小国の場合は、ここに、
「財政健全化を要請する『格付け機関』などの金融市場の圧力に屈し、政府が緊縮財政を強行した結果、経済成長率が悪化し、『格付け機関』に格下げされる」
が加わることが「流行」しつつあるようだ。
『2010年9月2日 ブルームバーグ「アイルランドの銀行救済は「ブラックボックス」、膨らむ費用に限界も」
困窮するアイルランドの納税者にとっては、それは数十億ユーロもの行き過ぎた負担かもしれない。(中略)
アイルランドほど、世界的な金融危機の影響が凝縮されている場所は世界でも珍しい。10年に及んだ経済ブームは不動産市場の崩壊で突然終わりを迎えた。同国は増税や歳出削減を積極的に実行し、ギリシャやスペインなど他のユーロ圏の高債務国の緊縮政策のモデルとなったが、国内銀行の救済費用が膨れ上がっている。一部で13%もの賃下げを耐える納税者は、アングロ・アイリッシュを存続させることについて、政府当局者や経営陣の見識に疑念を抱いている。
コメルツ銀行の債券ストラテジスト、デービッド・シュナウツ氏(ロンドン在勤)は「アイルランドは財政緊縮策で欧州の他の諸国に先行しているとみられてきた。しかし、銀行が開けてしまったこのブラックボックスを市場はあまり歓迎していない」と指摘。「投資家はアイルランド人が痛みを受け入れる覚悟を疑っていないが、銀行セクターが抱える問題があまりに大きく、対処できないのではないかと問い始めている」との見方を示す。(後略)』
先週も取り上げたが、アイルランドはまさしく「ギリシャやスペインなど他のユーロ圏の高債務国の緊縮政策のモデル」として、率先した財政健全化路線を採用していた。結果、09年のアイルランド経済は実質GDPマイナス7.1%という、凄まじい収縮に見舞われてしまった。緊縮財政を採ったところで、不況下で財政支出をゼロにできるはずがない。結果、アイルランドの財政赤字対GDP比率は14%を上回り、「あの」ギリシャよりも悪化してしまったわけである。
挙句の果てに、財政赤字対GDP比率の悪化を理由の一つとして、格付け機関から格下げをされてしまった。アイルランド政府としては、たまったものではないだろう。
バブル崩壊後の「民間負債収縮時」に、政府までもが負債を減らす緊縮財政路線を採った場合、どのような事態に陥るか。未だに世界の多くの人々は、理解できていないのである。
これは恐らく、各人が「借金を減らすことは良いこと」と、政府の財政を個人の家計簿的な視点で見てしまうためだろう。GDPが「個人消費+民間投資+政府支出+純輸出」で構成されている以上、民間が「借金を減らし」、支出を切り詰めると、国家経済は縮小してしまう。これはもう、GDPの定義を変えでもしない限り、どう足掻いても逃れられない現実なのだ。
確かに、家計単体や各企業にとっては、借金を減らすことは良いことだ。しかし、それがマクロレベルに合成されてしまうと、GDPの崩壊というカタストロフィを招きかねない。通常は、民間の負債(及び支出)減少時には、政府が景気対策(及び負債拡大)で下支えを行う。しかし、アイルランド(や97年以降の日本)のように、民間の負債が減っている中で、政府までもが緊縮財政路線を採ってしまうと、GDPが極端なマイナスになってしまう。結果、財政赤字対GDP比率(及び政府の負債残高対GDP比率)は悪化の一途を辿り、財政健全化から却って遠ざかってしまうわけだ。
それにしても、記事中にある「アイルランド人が痛みを受け入れる覚悟」というフレーズを見ると、妙な既視感に襲われてしまうのは、別に筆者だけではないだろう。
「国民に痛みを覚悟してもらう」
何というか、自己陶酔的に政治家が緊縮財政路線を採るときには、この手のフレーズが定番にでもなっているのだろうか。この手のフレーズを使用するなら、緊縮財政路線が失敗し、財政が却って悪化してしまった際には、言いだしっぺの政治家が「痛み」を一手に引き受けることを、まさしく「覚悟」してもらいたいものだ。
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