第65回 アイルランドと財務省(3/3)
ところで、02年の格下げの少し前、すなわち格下げを予告された際に、怒り狂った「財務省」が、各格付け機関に意見書を送ったことがある。大変参考になる上に、色々と考えさせられるので、以下に要旨をご紹介しよう。
1.貴社による日本国債の格付けについては、当方としては日本経済の強固なファンダメンタルズを考えると既に低過ぎ、更なる格下げは根拠を欠くと考えている。貴社の格付け判定は、従来より定性的な説明が大宗である一方、客観的な基準を欠き、これは、格付けの信頼性にも関わる大きな問題と考えている。
従って、以下の諸点に関し、貴社の考え方を具体的・定量的に明らかにされたい。
(1)日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとして如何なる事態を想定しているのか。
(2)格付けは財政状態のみならず、広い経済全体の文脈、特に経済のファンダメンタルズを考慮し、総合的に判断されるべきである。
例えば、以下の要素をどのように評価しているのか。
・マクロ的に見れば、日本は世界最大の貯蓄超過国
・その結果、国債はほとんど国内で極めて低金利で安定的に消化されている
・日本は世界最大の経常黒字国、債権国であり、外貨準備も世界最高
(3)各国間の格付けの整合性に疑問。次のような例はどのように説明されるのか。
・一人当たりのGDPが日本の1/3でかつ大きな経常赤字国でも、日本より格付けが高い国がある。
・1976年のポンド危機とIMF借入れの僅か2年後(1978年)に発行された英国の外債や双子の赤字の持続性が疑問視された1980年代半ばの米国債はAAA格を維持した。
・日本国債がシングルAに格下げされれば、日本より経済のファンダメンタルズではるかに格差のある新興市場国と同格付けとなる。
2.以上の疑問の提示は、日本政府が改革について真剣ではないということでは全くない。政府は実際、財政構造改革をはじめとする各般の構造改革を真摯に遂行している。同時に、格付けについて、市場はより客観性・透明性の高い方法論や基準を必要としている。』
思わず拍手をしたくなるほど、素晴らしい「意見書」である。全くもって、欧米格付け機関の格付けは「定性的」根拠に基づいており、客観的な基準も欠いている。
さらに、確かに日本やアメリカなど、先進国の自国通貨建て国債の「デフォルト」は考えられない。特に、日本の場合(財務省の意見書にもあるように)世界最大の貯蓄超過国(本連載では「過剰貯蓄国」)であり、国債のほとんどが国内で超低金利により消化されている。
日本は延々と経常収支の黒字を続けているわけだが、「経常収支黒字国=貯蓄超過国」である。すなわち、国内の消費もしくは投資が少なすぎるがゆえに、経常収支が黒字になってしまうわけだ。そして、経常収支の黒字とは、対外純資産の増加でもある。
延々と経常収支の黒字を続けた結果、現在の日本は世界最大の対外純資産国である。すなわち、国家としてみれば世界最大の金持ちということになる。
この日本を、経常収支が赤字で、対外負債を延々と積み重ね、国内が貯蓄不足ゆえに外国に国債消化を委ねるしかなかったギリシャと「負債の絶対額」のみで比較し、
「破綻する~っ、破綻する~っ」
などとやっているわけであるから、日本のマスコミや経済評論家は度し難いのだ。しかも、国債の国内消化率が95%に達しており、長期金利が延々と世界最低を続けている日本であるにも関わらず、外国の格付け機関の「定性的」評価に一喜一憂する。
現実には、02年に日本国債の格下げが行われた後も、長期金利は特に影響を受けることはなかった。そもそもの問題が、国内の過剰貯蓄(貯蓄超過)であり、デフレが深刻化しているがゆえに「民間の資金需要が高まらない」ことである以上、当たり前だ。
格付け機関がどのように評価しようとも、運用先が見当たらない過剰貯蓄が溢れる銀行は、結局のところ国債を買うしかない。まさに、この状況こそが問題なのである。
さて、先ほど、日本とギリシャを負債の絶対額のみで比較し、破綻だ何だとやっているマスコミや経済評論家は度し難いと書いた。ところが、彼らに記者クラブ「財政研究会」を通じて情報を渡し、毎四半期ごとに、
「国の借金○○○兆円突破! 国民一人当たり○○○万円の借金!」
などと煽らせているのは、まさしく財務省なのだ。
海外の格付け機関に対しては、前述の通り、あれほどまでに真っ当な意見を投げることが可能な財務省が、なぜ国内では「国の借金! 国民一人当たり借金!」などと、バランスシートを無視したミスリードを繰り返すのだろうか。
結局のところ、日本経済や財政の問題の本質は、
「なぜ、財務省は?」
に掛かっている部分が、相当に大きいことが、前述の意見書を読むだけで理解できないだろうか。
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