第65回 アイルランドと財務省(2/3)
ちなみに、全く同じ時期に政府が財政黒字になっていたヨーロッパの国を上げると、スペイン、ルクセンブルク、そしてアイスランドである。
アイルランド同様に不動産バブル崩壊に苦しむスペインは、2010年6月時点の失業率が20%。ユーロ圏で最も雇用環境が悪化してしまっている。また、ルクセンブルクは、対外負債が自国のGDPの四十倍近くにまで膨れ上がる中、会計ルール変更や官製ストレステストなどで金融システムの痛みを隠蔽しつつ、何とか崩壊を免れている有様だ。
そして、アイスランド。2008年10月に、民間の金融機関が対外負債のデフォルトを起こし、破綻したアイスランドであるが、未だに復活の目算は全く立っていない。同国の09年における実質GDPの成長率は、マイナス6.49%であった。
ところが、このアイスランドを上回るほどに、アイルランドの経済成長率は悪化してしまっているわけである。同国の09年の実質GDP成長率は、マイナス7.1%。ユーロ圏では最悪の水準である。
当たり前だが、不動産バブルが崩壊するような局面では、民間が負債返済に邁進する。膨れ上がった住宅ローンなどの借り入れを、可能な限り返そうとするわけである。結果的に、バブル崩壊国の貯蓄率は上昇する(貯蓄率は、借金返済も含む)。
民間が借金を返済すると、その金額分、国家経済のフロー(GDP)にお金が流れない。GDPとは、その国の各経済主体の「支出」の合計である以上、当たり前だ。貯蓄にしても借金返済にしても、決して「支出」ではないのである。
民間が支出を絞り込み、負債を返済しているような環境下で、政府までもが緊縮財政(増税や支出削減)に走れば、GDPが激減して当たり前だ。現に、PIIGS諸国の中で率先して緊縮財政路線に走ったアイルランドは、09年のGDPのマイナス幅が、他の全てのユーロ加盟国を上回ってしまった。
結果、当たり前だが「財政赤字対GDP比率」も悪化していく。
◆財政赤字対GDP比率=その年の財政赤字÷その年のGDP*100%
財政赤字対GDP比率が上記の式で求められる以上、たとえ政府が支出を切り詰め、増税し、財政赤字削減に努めても、それ以上にGDPが減少してしまうと、財政赤字対GDP比率は悪化してしまうのだ。
09年の財政赤字対GDP比率について、アイルランドの数値がギリシャを上回るほど酷かったのは、財政赤字が増えたためではない。むしろ、GDPの「減り方」がについてアイルランドがギリシャよりも大きかったためだ。(ちなみに、09年のギリシャにおける実質GDP成長率はマイナス1.96%)
結果、アイルランドは「財政再建」を目指したがゆえに、格付け機関から格下げされるという皮肉な目に会ってしまったわけだ。
ちなみに、アイルランド当局はS&Pの格下げに対し、
「S&Pの分析には、欠陥がある」
と、批判している。
実は、かつての日本もアイルランドと同じような目に会ったことがある。
小泉政権初期、日本の財政赤字を問題視され、欧米格付け機関に「このままだと格下げにする」と警告されたことがあるのだ。それを受け、日本政府が緊縮財政を強行したところ、経済成長率が(実質値も名目値も)マイナスに突っ込み(02年)、景気悪化を理由にムーディーズに格下げされるというバカバカしい目に会ったわけである。
例の、日本国債の格付けがアフリカのボツアナと同じ水準になってしまった、あの一件である。ちなみに、当時のボツアナに対する最大の援助国は、何を隠そう日本であった。
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