三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

第64回 デフレギャップの解消(3/3)

(2/3の続き)

 無論、筆者は別に「規制緩和は悪である!」などと単純論を言っているわけでも何でもない。現在の日本がインフレギャップ下、すなわち「供給能力が需要を下回っている」環境下にあるのであれば、規制緩和による供給能力は正しい政策になる。というよりも、むしろ必要な政策なのである。

 筆者は単に「デフレ環境下において、供給能力を高めてどうするのだろうか?」と、問うているだけの話だ。

 生産性の向上も同様だ。規制緩和と同じく、供給能力の拡大を目指す施策なのである。
生産性とは、企業経営で言えば「従業員一人当たりの付加価値」を意味する。生産性の向上を「従業員一人当たりの付加価値拡大」と定義すると、その会社の従業員一人当たりの付加価値(粗利益など)が伸びていくことを示すわけだ。例えば、従業員の数は変わらないにも関わらず、粗利益が順調に伸びていけば、確かに企業経営者にとっては嬉しいことだろう。

 とは言え、デフレギャップが拡大し、供給能力が需要を大きく上回っている環境下で生産性が向上しても、実は国家経済にとってはあまり嬉しくない話なのである。何しろ、投入される労働力が変わらない状況にも関らず、供給能力が伸びていってしまうのだ。結果的に、デフレギャップは益々拡大することになる。

 繰り返しになるが、今の日本がインフレに悩んでいるのであれば、生産性の向上はまさしく必須のソリューション(解決策)である。生産性を高める、すなわち一人当たりの付加価値を高めていき、需要の伸びに供給能力を追い付かせなければならない。

 しかし、デフレ期においては、生産性向上は「適切なソリューション」にはなりえない。

 デフレ期に必要なのは、需要の拡大なのである。

 デフレ期には企業の売上が下がり(何しろ、同じ製品を同じ数量販売しても、売上は下がってしまう)、企業の設備投資意欲は高まらない。また、失業率が上昇し、給与水準も高まらないため、個人消費の劇的な増大も望み薄だ。

 だからこそ、政府が積極的に財政出動を拡大し、景気という「自転車」の最初の一漕ぎ目を漕ぎださなければならないわけだ。政府が公共投資などで需要を作り出し、効果が企業に波及していけば、設備投資や個人消費などの民間の支出も回復することになる。

 それにも関わらず、菅内閣は、
「できる限り財政出動を伴わない形で」
 などと枠をはめてしまっている。「アンチ財政出動」かつ増税を強く望む財務省の意向をそのまま受けた形だが、このまま日本経済のデフレ悪化と景気低迷に適切な対処をしない場合、今年度の税収も悲惨な有様になってしまうだろう。

 そうなると、結局、政府の財政は悪化していかざるを得ない。

 97年の橋本政権による緊縮財政開始以降、何度も繰り返された「緊縮財政⇒財政悪化」のパターンが、またもや繰り返されることになるわけである。


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02月04日更新

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三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

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