第64回 デフレギャップの解消(2/3)
結局のところ、デフレギャップを解消するには、「需要を高める」手法を選択するしかないわけである。とはいえ、資本主義国家である日本の政府が、民間に対し、
「企業は今年、何パーセント投資を増やせ!」
だの、
「家計は今年、何パーセント多く消費をしろ!」
などと命じることはできない。
結局のところ、民間の支出意欲(投資もしくは消費)が全く高まらない最中に、需要を増大させるには、政府が財政出動をするしかないわけである。政府の財政出動とは、具体的に書くとGDPの「政府最終消費支出」もしくは「公的固定資本形成(公共投資)」という支出項目を増やすことだ。
ところが、菅直人首相は
「できる限り財政出動を伴わない形で」
と、発言している。財源確保のための新たな国債発行を避けたとして、果たしてどこから必要なお金を持ってくるのだろうか。予備費などから1兆7000億円を充当したところで、対GDP比で0.3%程度に過ぎない。とてもではないが、現在の急激な経済の落ち込みに対処できる規模とは思えないわけである。
さらに、記事中にある「規制緩和」という言葉にも、違和感を覚えざるを得ない。何しろ、規制緩和とは「供給能力を高める」ための政策であり、需要の拡大と直接結びつくとは限らないのである。
先にも書いたように、デフレギャップを埋めるには、供給能力を「削る」か、もしくは需要を拡大するしかない。この状況で「供給能力を高める」規制緩和を実施し、果たして問題解決に役立つだろうか。
というよりも、デフレ下における規制緩和は、問題を悪化させる可能性が高いのだ。その典型的な例が、2002年におけるタクシー産業の規制緩和である。
2002年。小泉政権下でタクシーの自由化、規制緩和が大々的に行われた。厳密に書くと、タクシーの規制緩和を推進する道路運送法改正法案が、2002年2月1日から施行されたのである。結果、何が生じたか。
それまでのタクシー業界は、国が需要と供給のバランスを考慮し、免許制、認可制を採用していた。それが道路運送法が改正された結果、車庫の確保など、タクシー会社として当たり前の条件さえ満たせれば、自由に増車しても構わない形に改められたのである。
この法改正を受け、各地域においてタクシーの数が爆発的に増えた。すなわち「タクシーというサービス」に関する供給能力の向上である。場所によっては、タクシー数がそれまでの2倍近くにまで増えたところさえあるわけだから、なかなか強烈だ。
タクシーの供給能力が増大した結果、価格競争が激化し、ドライバーの収入が激減した。こうなると、ドライバーが労働時間を延ばさざるを得なくなり、その後のタクシー事故は増加の一途をたどることになった。
さらに、価格競争が行き過ぎ、ドライバーの最低収入さえ確保できなくなった一部の会社は、タクシー料金を「値上げ」するところさえ出てくる有様だった。本来、供給能力を高め、価格競争を引き起こすことでタクシー料金の「値下げ」をもたらすことも、規制緩和の目的の一つだったのである。ところが、現実には、タクシー料金の値上げまでをも引き起こしてしまったわけだ。
一体、何のための規制緩和だったのだろうか。デフレ下で供給能力を高めた結果、どのような結末を迎えるのか。タクシーの事例が明確に教えてくれるわけである。
官業の民営化。規制緩和。自由化。生産性の向上。
上記各種の政策、対策は、言葉は確かに大変耳触りが良い。しかし、上記のような政策は、全てが「供給能力の向上」を目的にしているのである。
現在の日本は、世界最大級のデフレギャップを抱え、「供給能力の過剰」にあえいでいるわけだ。この状況で供給能力向上を目指したところで、問題は悪化するだけの話である。
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