三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

第63回 四半期ごとに繰り返される儀式(3/3)

(2/3の続き)

 もちろん、財務省の記者クラブである「財政研究会」で渡された資料通りの記事を書かなければ、同クラブから排除されてしまうのかも知れない。とはいえ、そもそも財務省からの資料に頼らなければ、財政の記事を書けない新聞記者に、存在価値があるのだろうか。財務省の資料をコピー&ペーストして記事を書くだけの仕事であれば、大学生のアルバイトでも雇った方が、はるかに安く済むだろう。

 そもそもインターネット普及前はいざ知らず、今や各官庁の報道発表やデータは、瞬く間にWebサイトに掲載されてしまうのだ。別に、記者クラブに出入りしていなくても、一次ソースを入手するのに何の支障もないのである。

 無論、財政研究会担当の新聞記者の方々が、多忙を極めているのは理解できる。それにしても、全紙が揃って(ほぼ)同じ日に、まさしく判で押したような(判で押したわけだが)論調の記事を出すのは、率直に言って不気味極まりないわけだ。しかも、普段は「国民の預金が過剰となり、運用難に悩む銀行が・・・」と、完璧に正しいことを言っている新聞社までもが、財務省の「国の借金!」発表直後には、他と揃えた記事を出す。

 常日頃は「脱官僚!」などと格好いいことを言っているのであるから、マスコミの皆さんも、そろそろ「国の借金!」問題について「脱・財務省」をしてもいいのではないか。無論、専門的な知識が不足して不可能だと言うのであれば、いい加減、数年で記者が紙面を渡り歩いていく配置換え方式をやめたらいい。

 各紙が専門的な記者を揃え、バランスシートやGDP、国際収支、対外資産・対外負債などのマクロ的な数値や知識を元に、容赦なく財務省とやりあうわけだ。基本的に、財務省の官僚は、日本国の「経理」的な役割を担っている。経理担当である以上、彼らが「無駄の削減」に邁進する姿勢は分からないでもない。経理担当者が「どんどん支出して構いませんよ~」などという態度をとった日には、国家だろうが企業だろうが潰れてしまう。

 それにしても、デフレ期に「無駄の削減」を強行する愚かさについては、そろそろ財務省にも理解してもらう必要がある。デフレ期に無駄の削減、すなわち国家経済のフロー(=GDP)上の政府支出(※政府最終消費支出+公的固定資本形成)を大きく削ってしまうと、国内の需要不足が悪化するだけだ。

 政府による「無駄の削減」が原因で、需要が抑圧された結果、国内の供給能力との乖離であるデフレギャップが拡大してしまう。結果、当たり前だがデフレは益々悪化する。さらに、企業収益も当然ながら落ち込み、法人税収入が極端に下がる。税収が落ち込むと、当然であるが「財政は悪化する」。

 デフレ期に「無駄の削減」で財政を健全化するなど、全く持って不可能なのだ。何しろ、国家経済のフローであるGDPは、各経済主体の「支出」の合計なのである。不景気、すなわちGDPが成長しない状況とは、国全体の支出が不足しているということを意味する。

◆GDP=個人消費+民間投資+政府支出+純輸出

 より具体的に書くと、家計や企業などの支出(個人消費や民間投資)が不足しているからこそ、不景気なのである。不景気の結果、家計や企業の貯蓄が積み重なっていき、預金を持て余した銀行などが、こぞって国債に群がり、長期金利が下がっていく。これこそが現在の日本経済が抱える「真の問題」である。

 財務省方式の言うがままに「国の借金!」が真の問題であると誤認している限り、
「無駄の削減⇒景気悪化⇒税収減⇒財政悪化⇒無駄の削減」
 の悪循環から抜け出すことはできない。


 ある意味で、日本経済が真の問題を解決できるか否かは、財務省の記者クラブ「財政研究会」に出入りする記者の方々にかかっているわけだ。

 各紙の記者は、今や財務省の資料をコピー&ペーストしている場合ではないという現実を、いい加減に自覚して欲しい。このまま日本がデフレから抜け出せず、景気の悪化が続くと、大手新聞社やテレビ局の経営がさらに悪化し、記者などマスコミ関係者の人員削減が、より大々的に行われていくのは確実な情勢なのだ。


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02月04日更新

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三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

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