三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

第63回 四半期ごとに繰り返される儀式(2/3)

(1/3の続き)

 今さらであるが、日本国債の最終的な債権者、すなわち政府にお金を貸しているのは、我々日本国民自身なのだ。

 この「我々が債権者」である政府の負債(国の借金!)について、各紙がどのように表現しているのか、改めて見てみよう。ちなみに、あらかじめ書いておくが、日本銀行と財務省の「国の借金!」は、統計手法や時期の違いにより、公表数値が異なる。


『読売新聞 2010年8月11日「「国の借金」初めて900兆円突破...6月末

 財務省は10日、6月末時点の国債と借入金、政府短期証券を合わせた「国の借金」(債務残高)が904兆772億円と、初めて900兆円を突破したと発表した。

 3月末と比べて21兆円増え、過去最悪を更新した。全体の7割近くを占める普通国債の残高が11兆円増加し、605兆7520億円に達したことが主因だ。国民1人当たり約710万円の借金を背負った計算となる。(後略)』


『朝日新聞 2010年8月12日「国の借金900兆円突破 国民1人あたり約710万円

 財務省が発表した今年6月末時点の国債や政府短期証券などの「国の借金」は、904兆772億円で、初めて900兆円を突破した。3月末から21兆1538億円増え、過去最大を更新した。不況による税収不足を補うため、国債の残高が増加したのが主な要因だ。国民1人あたりの借金は単純計算で約710万円となる。」(後略)』


『毎日新聞 2010年8月11日「国の債務残高:904兆円に 国債の大量発行で大台突破

 財務省は10日、国債と借入金、政府短期証券を合わせた国の債務残高(借金)が6月末時点で904兆772億円となり、900兆円の大台を突破したと発表した。(中略)

7月1日時点の人口推計(約1億2742万人)で割ると、1人当たりの借金は約710万円。政府は6月に財政再建計画を策定したが、健全化への道は一段と険しくなっている。』


『産経新聞 2010年8月10日「国の借金900兆円突破、国民一人当たり700万円の大台超え

 財務省は10日、国債と借入金、政府短期証券をあわせた国の債務残高(借金)が6月末時点で904兆772億円となり、大台を突破したと発表した。国民1人あたりの借金も過去最悪の約711万円となり、700万円の大台を超えた。(後略)』


 全紙を引用しても仕方がないので、載せてはいないが、日経新聞にしても共同通信にしても、あるいは時事通信にしても、大手紙は全て「国の借金」という表現や、「国民1人当たり約710万円の借金」というフレーズを使用している。共同通信がこれらの表現を使っている以上、日本国内の地方紙にも似たような「コピー&ペースト」の記事が掲載されたことだろう。

 財政問題という、日本の未来や経済成長と密接に関わりがある分野について、全ての新聞が官庁(財務省)の言いなりに、「国の借金!」「国民1人当たり約710万円の借金!」と、ミスリードとしか表現しようがない情報を一斉に配信する。これは、かなり恐ろしい状況とはいえないだろうか。

 しかも、各紙共に最近は、
「日本国内の企業の資金需要が高まらない結果、我々「日本国民」の貯蓄の運用先として国債が買われ、長期金利が低迷している」
 と、きちんと事実を報じることもあるにも関わらず、である。

 前回(第62回 日本の長期金利1%割れ)ご紹介した毎日新聞の記事にしても、企業が設備投資への慎重姿勢を崩しておらず、銀行に(我々の)預金が積み上がり、
「他に運用先がない」
 ために、銀行が国債を「渋々」買っている事実が、正しく記述されているわけである。我々の預金が「政府に貸し付けられている」にも関わらず、その「債権」について「国民一人当たり○○○万円の借金!」などと煽り立てる。しかも、常日頃の記事を見る限り、どう考えても「事実」を理解しているとしか思えない、新聞各紙がである。

 これこそが、まさしく「情報統制」なのではないだろうか。

(3/3へ続く)


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02月04日更新

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三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

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