三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

第60回 ユーロと金融立国(3/3)

(2/3の続き)

 ユーロの盟主とも言うべきドイツは、為替レートが変化しないという非常に恵まれた環境下で、ギリシャなどの南欧諸国への輸出を伸ばしていった。逆のいい方をすれば、南欧諸国は対独為替レートが変動しないからこそ、貿易赤字や対外負債をひたすら積み上げることが可能だったわけである。

 07年までグローバルインバランスが拡大した主因の一つは、間違いなくユーロという共通通貨の存在だ。あるユーロ加盟国が、どれだけ他のユーロ加盟国に対する貿易赤字を拡大したとしても、為替レートは全く変化しない。

 本来、経常収支黒字国、赤字国間でスタビライザー(安定化装置)として機能するはずの為替レートが変動しなかった結果、ユーロ圏内でグローバルインバランスが拡大していったわけである。世界の経常収支赤字国ベスト10の中に、スペイン、ポルトガル、イタリア、ギリシャと、南欧諸国がそろい踏みで入っているわけであるから、その異様性をご理解頂けるだろう。

 そして、実需面のみならず、共通通貨ユーロは金融面においても「インバランス」の拡大に寄与したわけだ。ルクセンブルクの対外負債対GDP比率3877%(09年)は、ユーロという「歪みを助長するシステム」なしでは決してあり得なかっただろう。


 ルクセンブルクなどの金融立国が破綻しなかった二つ目の理由が、2008年11月に報道された、銀行などが保有する債券について、
「償還まで保有する債券とすることで、時価会計の対象外とする」
という会計基準の変更である。

 そもそも時価会計を採用しているからこそ、金融機関に評価損が発生するわけだ。ところが、金融機関のバランスシートに計上された資産について「満期目的」にすることで、時価会計の対象外となり、欧州金融立国は莫大な評価損計上を免れることができるわけである。

 今回行われたストレステストは、当然ながら上記の「会計基準変更」により隠ぺいされてしまった資産について、正しく評価するものと理解していた。だが、どうやら違うようである。

 ストレステストの結果、審査を通過しなかった金融機関はわずかに7行で、不足する資本総額は35億ユーロ(3600億円程度)。

 あり得ない。たとえば、アメリカが発行した証券化商品一つとっても、海外に販売されたうちの7割は、欧州の金融機関、もしくは欧州系金融機関が購入していたのである。実際にはどれだけの資産価値の毀損があったのか、想像するに恐ろしい。


 結局のところ、欧州経済の真の問題である「評価損隠ぺいという爆弾」は、爆弾のまま残り続けるわけである。

 爆弾が破裂した際には、冗談抜きで「国が飛ぶ」ような事態に陥りかねない。そうである以上、欧州諸国は今回のような「お手盛り」なストレステストを繰り返し、何とか金融市場の信頼を取り戻す以外に手はないとも思えるわけである。


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02月04日更新

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三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

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