第60回 ユーロと金融立国(2/3)
さらに、ストレステストを実施した欧州監督当局は、銀行が最も深刻なストレスを受けた場合、最大で5659億ユーロ(約64兆円)の損失を被ることを想定したと公表し、関係者を唖然とさせた。「最も深刻なストレス」とは、例えば銀行が保有するソブリン債、社債、不動産貸付、消費者向け貸付などが焦げ付いたケースである。
64兆円の損失可能性があるにも関わらず、なぜ「わずか35億ユーロ」の資金不足という結果になったのであろうか。無論、先述の通り国債のデフォルトが想定外で、かつ償還まで保有するものについては評価対象外にされてしまったためである。
現実にギリシャ政府のデフォルトがささやかれている状況で、「国債のデフォルトは想定外」という審査基準でテストをされたところで、信憑性は恐ろしく低くなってしまう。何度も繰り返して恐縮だが、まさしく「お手盛り」以外に表現しようがないストレステストが実施されたわけである。
ところで、金融市場の不安を鎮めるという点では、逆効果の可能性すらあるにも関わらず、なぜ欧州当局はここまでお手盛りのテストしか実施できなかったのだろうか。無論、厳格なテストを行った場合、多数の銀行に莫大な資金注入が必要になり、金融市場に混乱が生じる可能性が高いためである。
それどころか、欧州金融立国の一部については、まさしく「国が飛ぶ」ほどの評価損が表面化する可能性すらある。とてもではないが、「真っ当な」ストレステストなど、できるはずがないというのが、欧州当局の本音ではないだろうか。
特に、欧州の金融立国の中には、金融機関が外国からお金を借り入れ、証券化商品や国債購入に費やしていたところが多い。結果、まさに「国が揺るぐ」ほどの規模にまで、対外負債を膨らませてしまったところが少なくないのだ。
アメリカの不動産バブルが崩壊をトリガーに、世界的な金融危機が勃発するまで、欧州金融立国は、
「海外から低利マネーを借り入れ、高利回りの海外商品へ投資する」
というモデルで大いに儲けていた。結果、欧州金融立国は国家経済の規模に比して、過度に対外負債が積み上がった構造になっている。
その後、アメリカの不動産バブル崩壊を切っ掛けに、世界中で投資商品の価格が暴落した。バランスシートの借方(資産サイド)の資産が減価になったとしても、外国からの借り入れ自体は消えない。当然ながら、それらの国については「対外負債(注:民間金融機関)の返済不安」という問題が沸き起こり、通貨暴落や経済混乱の引き金になりかねないわけである。
まさしくこのままのプロセスを辿り、
「通貨暴落⇒民間金融機関の(対外負債に関する)デフォルト」
に陥り、最終的に破綻したのがアイスランドというわけである。
ちなみに、破綻時のアイスランドの対外負債は、GDPの9倍規模であった。それに対し、欧州金融立国の代表株であるルクセンブルクの対外負債は、何とGDPの40倍近い規模に達している。
【図60-1 欧州諸国、日米、カナダの対外負債と対GDP比率(09年)】

出典:世界銀行(対外負債)、IMF(GDP)
それにも関わらず、なぜルクセンブルクが破綻しなかったのかと言えば、一つはもちろん「ユーロ」加盟国だからである。
アイスランドの場合は独自通貨クローネを使っており、債務危機が一気に通貨暴落につながってしまった。08年10月、アイスランドクローネの対ドル価値は一気に半分にまで下落し、同国の銀行が対外負債の返済不能に陥った。
それに対し、ユーロの場合はドイツという信用の高い国が加盟していることもあり、ルクセンブルクの影響は極めて限定された範囲にしか及ばない。あるいは、ルクセンブルクがユーロ加盟国からの対外負債を増やした場合、そこに「通貨暴落によるデフォルトリスク」というものは発生しないわけである。
(3/3へ続く)
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