三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

第60回 ユーロと金融立国(1/3)

 最近、筆者が最も度肝を抜かれた記事が、以下になる。

EUのストレステスト:取引債券での損失に限定-文書

 欧州の91銀行を対象としたストレステスト(健全性審査)は、銀行が取引する債券について欧州諸国のソブリン債に絡む損失を査定するものの、償還まで保有する債券については対象としない。欧州中央銀行(ECB)の文書の草稿から分かった。

 22日付の機密文書によると、テストでは「デフォルト(債務不履行)は想定していないため、ヘアカット(掛け目、担保価額の割引率)は取引債券ポートフォリオにのみ適用される」。(後略)』


 欧州経済に詳しい人であればお分かりになるだろうが、上記の基準によるストレステストでは、全く「健全性」審査にはなっていない。まさしく「お手盛り」としか言いようがないテストが、今回、欧州諸国において実施されたのである。

 筆者が講演などで欧州経済について語る際に、いつも付け加えているのだが、確かにギリシャに代表される各国の財政危機も、あるいはスペインなどの不動産バブル崩壊も、あるいはバルト諸国やハンガリーなどの経済危機も問題ではある。だが、それ以上に問題なのは、欧州の金融立国がサブプライム危機からリーマンショックを経た際に発生しているはずの莫大な評価損を、「会計基準」を変更することで隠ぺいしてしまっていることなのだ。

 欧州金融立国の隠れ評価損は、まさしく「欧州経済の爆弾」といえる。
 ちなみに、ここでいう「金融立国」とは、ルクセンブルクやベルギーなどの「いかにも」な金融立国のみならず、ドイツやフランス、スペインなどの大国も全て含んでいる。


 今回行われたストレステストでは、わずかに7つの銀行が(これまた「わずか」)35億ユーロ(約3900億円)の資金調達の必要性を指摘されただけに終わった。この金額は、率直に言って、唖然とするほどに小さい。

 昨年、アメリカが自国金融機関に対して行ったストレステストでは、10行が750億ドル(約6兆7000億円)の資金注入を要求された。確かに、一概にアメリカと欧州を比べるわけにはいかないが、それにしても桁が二つ違うというのは極端だ。

 今回のストレステストについて疑念を抱いているのは、何も筆者に限らない。多くのアナリストが疑念と失望を表明しているわけだが、その中で最も端的に問題の本質を表現したのが、TCWグループのチーフ・グローバルストラテジストであるコマル・スリクマール氏であろう。

 氏は、今回のストレステストについて、以下のように発言した。
「審査は大半の銀行が通過するような形に設定されていた」
 まさしくその通りで、今回の欧州諸国が実施したストレステストは、大半の銀行がクリアできるような形で審査基準が設定された。結果、多くのアナリストが数百億ドル(すなわち、アメリカと同規模)の資金注入の必要性を予想していたにも関わらず、結果は二桁小さい規模で終わってしまったわけである。

 正直、ここまで予想とかけ離れたストレステストを行うくらいであれば、初めからやらない方がましだったのではないかとさえ思う。市場に安心感をもたらすどころか、逆に、
「なぜ、これほどまでに甘いテストを行わざるを得なかったのだろうか」
 と、疑念を呼び起こす羽目になりかねないのではないか。

 格付け機関のムーディーズは、今回のストレテストの審査基準について、以下の通り問題を提起している。


◆今回のテストでは、公的債務(政府の負債)に関するデフォルトの可能性を無視している。

◆テストされた資産は、銀行が満期まで保有する債権については対象外になっている。取引されているソブリン債(各国の政府や公的機関が発行している債券)のみが評価された。

◆テストに合格するための自己資本比率が6%と、大変に甘い。

◆テストは銀行の流動性ではなく、資産価値に対してのみ行われた。例えば、現在、ギリシャの銀行は流動性をECB(欧州中央銀行)に頼っている状況だが、その部分については評価の対象外だった。


 最後の部分に付け加えると、ほとんど破綻状態にあるギリシャでさえ、ストレステスト不合格になった金融機関は、ギリシャ農業銀行のみなのだ。ここまで「お手盛り」なストレステストであった以上、信じろという方が無理である。

(2/3へ続く)


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02月04日更新

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三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

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