三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

第59回 アメリカのバランスシート不況(2/3)

(1/3の続き)

 日本人は借金を忌み嫌い、貯蓄を尊ぶ傾向がある。それはもちろん、個人や家計の単位では、節約して貯蓄を積み上げていくことは美徳であり、合理的でもある。借金があった場合、家計が早めに返したいと考えても、おかしくもなんともない。

 しかし、ミクロレベルの合理的な行為が、マクロ(国家経済)規模に合成されると、上記の通り大変な状況に陥ってしまうのである。誰もが負債を増やさず、誰もが支出を拡大しないのでは、経済成長率はマイナスの領域をひた走ることになる。

 いわゆる、合成の誤謬である。

 ちなみに、日本経済の高度成長は、主に企業が負債(及び支出)を増やすことで達成された。民族的な特質から、日本の家計は伝統的に負債を増やさず、金融資産を増やし続けてきた。

 家計が貯蓄をし、企業がそれを借り受け、フロー(GDPの民間企業設備)として支出をする。これが、日本経済成長の黄金パターンだったのである。

 バブル崩壊により、日本では企業までもが借金恐怖症に陥り、必要な投資にさえ逡巡するようになった。たとえ収益が伸びていたとしても、多くの企業は借金返済もしくは内部留保に回すようになり、投資が激減したわけだ。これこそが、バブル崩壊以降における日本経済低迷の最大の原因である。

 信じられないことに、2010年の第1四半期、日本の企業の設備投資は1988年第1四半期並みの低水準に終わった(日本経済研究センターの試算)。実に22年前をも下回るほどに、日本の企業は投資意欲を失ってしまっているわけである。

 企業の投資意欲は一向に高まらない割に、銀行の実質預金残高は増え続けている。結果、銀行に滞留した過剰貯蓄は国債に向かわざるを得ない。アメリカ国債の金利低下の影響もあり、日本国債の十年物金利は1%を割り込みかねないほどの水準に至っている。(日本財政破綻原理主義者の皆さまは、果たしてこの現実をどのように受け止めているのやら・・・)

 
 話をアメリカ経済に戻す。日本経済の牽引車が民間企業だったのに対し、アメリカの場合は文句無しで家計である。

 07年までのアメリカの家計は、年に100兆円規模も負債を増やし続け、住宅投資や消費に費やしていたのである。このアメリカの負債(及び支出)拡大が民間企業に波及し、同時に世界の輸出国(日中独など)をも大いに潤した。

 さらに金融工学の発展は、アメリカの家計の負債を「海外に輸出」することを可能とした。いわゆる、証券化商品である。

 家計の負債(住宅ローンなど)を証券化し、海外投資家に販売することで、アメリカの金融機関は債権保有リスクから解放された。それが益々、アメリカの家計の負債拡大を助長し、最終的にバブル崩壊に至ったわけである。

 バブル崩壊後のアメリカ経済は、家計が負債を減らし続ける中、主に政府が負債と支出を拡大することでフローの下支えを続けてきた。まさしく、90年代の日本と同様の対策を、アメリカ政府が実施したわけである。

 公共投資のように直接的にフローを拡大する支出はもちろん、アメリカ政府はスクラップ・インセンティブ(日本のエコカー減税に類似した制度)や、前例のない規模の住宅購入支援などで、世界最大の需要を支えようと奮闘してきた。確かに、一時的にはアメリカ政府の家計支援策は功を奏したが、大本の部分では問題は解決しておらず、ついに失速しようとしているのが現在の状況である。


【図59-2 アメリカの家計の金融負債推移(単位:十億ドル)2003年-2010年Q1】
20100721_02.png
出典:FRB


 ご覧頂いた通り、アメリカ政府の景気刺激策が継続していた今年の第1四半期に至っても、同国の家計は負債残高を減らし続けている。

(3/3へ続く)


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02月04日更新

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三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

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