三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

第59回 アメリカのバランスシート不況(1/3)

 円高が続いている。
 理由はもちろん、日本経済の好調などではなく、アメリカ経済の先行き不安である。



7月ミシガン大消費者マインド指数:昨年8月来最低

 米消費者マインド指数は7月に低下し、1年ぶりの最低水準となった。経済の大部分を占める消費が勢いを失いつつあることが示唆された。

 7月のロイター・ミシガン大学消費者マインド指数(速報値)は66.5と、前月の76から低下した。これは2009年8月以来の最低水準。ブルームバーグ・ニュースがまとめたエコノミストの最も悲観的な予想も下回った。エコノミスト予想の中央値は74。前月比で9.5ポイントの低下幅はリーマンショック直後の2008年10月以来最大。(後略)』


 ご存じのとおり、アメリカ経済のフロー(GDP)において、最も大きなシェアを占めるのは個人消費である。


【図59-1 2009年アメリカの実質GDP(単位:十億ドル)】
20100720_01.png
出典:JETRO


 2009年のアメリカの実質GDPは、▲2.4%のマイナス成長に終わった。だが、相変わらず個人消費が極端な割合を占めていることに変わりはない。09年においても、アメリカの個人消費支出はGDPの71%を占めているのである。

 10兆ドルに近い規模のアメリカの個人消費は、間違いなく世界最大の需要項目であり、最強の牽引車だ。実際に、07年まで続いた世界的な好景気は、このアメリカの個人消費が主要な牽引車としての役割を果たし続けたわけである。

 無論、アメリカの個人消費拡大は、多分に同国の不動産バブルに起因していた。住宅価格の継続的な上昇を受け、キャピタルゲイン分を新たに「ホーム・エクイティ・ローン」として借り受ける、あるいはローンを借り換える際に、借り入れ金額を増やすなどして、アメリカの家計は消費をひたすら拡大し、世界経済の成長に大きく貢献することを続けてきたのである。

 すなわち、07年までの世界経済の長期的な拡大の最大の要因は、アメリカの家計の「負債拡大」だったわけである。原資が所得であろうが、あるいは負債であろうが、フローとしてお金が支出されれば、その分だけ経済が成長することに変わりはない。

 というよりも、そもそも「誰か」民間が負債を拡大し、支出を拡大してくれないことには、資本主義経済は拡大しないのだ。誰もが負債を拡大せず、支出を拡大しない状況で、国家経済のフローであるGDPが成長するということは「起こりえない」。

 民間企業や家計が所得の大部分を銀行に預金した場合、それらのお金はフローであるGDPから切り離されてしまう。この状況で、政府までもが負債や支出を拡大しない場合、この際に切り離された金額分、フローはマイナス成長に陥る。

 フローとは「誰かが支出したお金」であると同時に、「誰かが受け取ったお金」でもある。銀行にお金が積み上がり、国家経済全体の支出が減り始めると、「誰かが受け取るお金」も減ってしまうということになる。すなわち、我々の「所得」が減ってしまうわけだ。

 所得の減少とは、GDPのマイナス成長そのものである。国家経済とは「誰もが預金を増やす」ことが可能な形では作られていないのだ。そもそも、誰もが負債を増やさない状況で、預金残高ばかりが増えていくのでは、銀行ビジネスは成り立たない。銀行側が逆ザヤで倒産するか、あるいは預金を断る事態に至るだろう。

(2/3へ続く)


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02月04日更新

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三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

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