三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

第58回 消費税の話(1/3)

 第22回参議院選挙において、民主党政権が敗北し、消費税議論が混迷の領域に入ろうとしている。

『2010年7月12日 ロイター「〔焦点〕民主敗北で消費税議論に不透明感、早期解散も視野に入る可能性
 
 参院選で民主党が大敗し、菅直人首相(民主党代表)が選挙戦で主張してきた消費税増税議論への影響は避けられない情勢となった。首相は選挙後も超党派の協議を呼びかける考えに変わりがないと表明したが、民主敗北で首相の求心力は大幅に低下、消費税引き上げをめぐる党内の不協和音が一層高まりそうだ。
 
 一方、改選第1党に躍進した自民党はじめ野党は早期の衆院解散・総選挙に追い込む考えを強調しており、ねじれ解消を模索する中での早期解散も視野に入ってくる可能性がある。総選挙の時期もにらみ、菅首相が選挙前に主張してきた2010年度内の改革案とりまとめは不透明感が強まっている。(後略)』

 予め書いておくが、筆者の消費税に対する立場は、
「2025年時点で年金及び医療・介護の追加費用が、合計で17兆円弱必要になる(社会保障国民会議の試算)。日本経済がデフレから脱却し、健全な名目GDP成長率を取り戻し、数年が経過した後に、社会保障の費用を消費税の5%アップでカバーし、国民に将来の安心を提供する。その上で、民間投資、消費を中心とした内需拡大による経済成長を志向する」
 というものである。筆者がデフレ下における消費税アップに反対であることは、今さら言うまでもない。

 そもそも、
「消費税は上げるべきか? 上げないべきか?」
 などという、単純化された議論をしようとすること自体が間違いなのだ。この手の議論をする人は、日本経済のマクロ数値や社会保障のデータを、事前に把握していないこと疑いない。

 そして、日本経済関連のマクロ数値を全く理解していないにも関わらず、ただ結論として「消費税を10%に引き上げる」ことのみを主張し、選挙に敗北した人物こそが、冒頭の菅直人日本国内閣総理大臣である。いわゆる「結論だけは同じだが、ロジックが毎回変わる」答弁を「消費税」という重大議題について繰り返し、菅直人首相は民主党を敗北に追いやったわけである。

 筆者の記憶が確かであれば、菅首相は財務相時代に、「財政出動の原資にする」という無茶苦茶な理由で、消費税アップを主張していたはずである。すなわち、
「日本がデフレから脱却するには、『財政出動』が必要だ」
「その『財政出動』の財源として、消費税アップを実施する」
 というものである。

【図58-1 2008年 日本の名目GDP(単位:十億円)】

mitsuhashi.jpg
出典:内閣府「国民経済計算」

 まずは『財政出動』であるが、GDPの政府支出(政府最終消費支出+公的固定資本形成)を増やすことで、景気を活性化させることである。

 件の菅直人総理大臣は、昨年の11月に民主党が「ムダの削減」に邁進していた頃、ある官僚に、
「こういう無駄を削ると、GDPが減りますよ」
 と言われた際に、
「ムダを削減して、マイナス成長って、どういうこと?」
 と問い返した人物である。どうも「企業が無駄なコストを削ると、利益が増える」という事実を、国家経済にも自然に当てはめているらしい。

「ムダを削る」というスローガンの響きこそ美しいが、無駄の削減とはGDP上の政府支出を削りとることそのものである。GDPが個人消費(民間最終消費支出)と民間投資(民間住宅と民間企業設備)と政府支出、それに純輸出の総和である以上、「ムダを削る」とGDPが減少してしまうことは、小学校低学年でも理解できるだろう。

 要するに、菅直人という人物は、小学校低学年クラスさえ理解できるマクロ経済の基本原則を、全く理解していなかったということになる。この菅直人首相の「水準」を理解すると、先の「財政出動の原資として、消費税アップ」などと、意味不明なことを言い出す理由が理解できるわけだ。要するに「何も分かっていない」と。

(2/3へ続く)


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02月04日更新

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三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

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