三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

第43回 朝日新聞と日経新聞(2/3)

(1/3の続き)

 要は、この記事を書いた記者は、経済について幼児レベルの理解度でしかないわけだ。聞き覚えた単語を並べ、センセーショナルなストーリーを「でっち上げた」だけなのだ。実際、この史上最大級の落書き記事、というか明らかな紙の無駄に比べれば、子供の落書きの方がまだしも(いや、はるかに)価値があるだろう。

 突っ込むのもむなしくなるほど、超低レベルな記事だが、とりあえず「外貨建て負債」がゼロに近い日本政府の負債問題に、IMFが乗り出してくる可能性は「ゼロ」である。IMFとは文字通り「国際通貨基金」であり、国際的な通貨問題を取り扱う機関だ。IMFが、その国の内政問題に過ぎない「自国通貨建て負債」の件で、首を突っ込んでくることはない。

 また、別の言い方をすれば、IMFは政府の(どの国の政府であっても)自国通貨建て負債問題への対応能力はないのだ。なぜならば、IMFには各国の通貨を発行する権限がないためである。

 例えば、日本政府の負債問題を解消しようと、IMFが乗り出した場合を想定してみよう。IMFが日本政府に融資をしようとした場合、ドルを渡してくれても、何の意味もないわけだ。なぜならば、日本政府の負債は、その100%近くが日本円建てであるためだ。

 IMFは、現在「日本から」1000億ドルの融資枠提供というサポートを受けた上で、世界の多くの国々に対して緊急支援を行っている。その際にIMFが供給するマネーは「外貨(主にドル)」であって、支援対象国の通貨ではない(当たり前だ)。

 そもそもIMFが緊急支援を行う場合、支援対象国が抱えている問題のほとんどは、
「その国の政府もしくは民間が、外貨建て負債の返済ができなくなった」
 ケースに限られるのである。(外貨建て問題以外にも、貧困問題に対処すするためにIMFが乗り出す場合もある。)

 無論、IMFが支援として供給する通貨は、その国にとっては「外貨」になる。本連載では何度も、何度も、嫌になるほど(書いている筆者が)繰り返したが、政府の対内負債(国内からの借入)について、実質的に返済された例はない。もちろん財政が黒字化した結果、政府の負債が自然に減少するケースはあるが、それはあくまでバブルなどの「過度の好景気」の副産物に過ぎないのだ。

 1980年代後半の日本、2000年のアメリカ、2004年から07年にかけたアイスランド、アイルランド、スペイン、ルクセンブルクなどの諸国は、政府が財政黒字を達成している。しかし、これらの国は、当時は明確に経済のバブル化が進んでいた。だからこそ、政府の財政が黒字になったのだ。

 考えてみれば当たり前の話で、政府の財政を黒字化させるためには、以下の二つの条件が満たされなければならない。

① 政府の歳入が増える
② 政府の支出が減る

 政府の歳入とは、要するに税収である。また、政府の支出とは、景気対策のために拡大するケースが多いわけだ。

 すなわち、税収が増え、景気対策が不要になれば、当然ながら政府の財政は黒字化の方向に進むことになる。景気対策は必要なく、政府の税収が増える時期とは、要するに好景気である。

 好景気になれば、政府は特に何をしなくても、税収が増えていく。さらに、好景気の中で政府支出を拡大する必要は全くないため、収入が増えて支出が減った結果、政府は財政黒字を達成できる。

 とは言え、政府が財政黒字化するほど税収が増える経済環境は、多くのケースで「バブル化」していることが多いわけだ。現実に、日米両国やアイスランド、アイルランドなどの国々は、まさに経済のバブル化が絶頂に達していた時期に財政黒字を実現した。

 とは言え、バブルとは所詮、バブルである。バブル経済が崩壊した結果、政府の税収は一気に縮小する。さらに、銀行への資金注入や景気対策の拡充が必要になり、政府の支出は増大せざるを得ない。

 税収が縮む中で支出拡大を迫られ、バブルが崩壊した国の政府は財政黒字から一気に大赤字へと叩き落されることになる。先の国々について言えば、ルクセンブルクただ一国を除き、実際にどの国の政府も現在は財政赤字を拡大している。

 ルクセンブルクは、なぜ財政黒字を維持できるのか。別の言い方をすれば、バブル経済を維持できるのだろうか。それは、2008年のリーマンショックの直後、欧州委員会が会計基準を変更し、証券化商品などを「満期目的」とすることで、時価会計の対象外にすることが可能になったためである。

 すなわち、ルクセンブルクなどの金融立国は、アメリカの不動産バブル崩壊により生じている「はず」の巨額評価損を、会計制度変更により隠蔽してしまったのだ。この「爆弾」が炸裂し、ルクセンブルクなどの金融機関が巨額評価損を計上する羽目になった場合、当然ながら政府の支出は拡大する(公的資金注入などにより)。結果、さすがのルクセンブルク政府の財政も、赤字化せざるを得ないだろう。

(3/3へ続く)


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02月04日更新

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三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

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