三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

第41回 続 アメリカの出口戦略(3/3)

(2/3の続き)

 個人消費、失業率、そして不動産と、各種の指標はアメリカ経済が未だ回復基調には入っていないことを示唆している。この状況で、2月18日にFRBが公定歩合を引き上げた。そのままFF金利(いわゆる政策金利)も引き上げに動くのかと思われたが、さすがにそこまで一気に金融引き締めを行う気は、今のところFRBもないようだ。

 公定歩合引き上げの二日後。FRBのバーナンキ議長は、半期金融政策報告において、FF金利の誘導目標を「近い将来」引き上げる予定がない考えを表明した。

 また、ニューヨーク連銀のダドリー総裁も、1月のCPI(消費者物価指数)上昇率が予想を下回ったことを受け、当面はインフレ抑制ではなく、経済成長の維持に重点を置くべきであるとの考えを示したのである。

 09年第4四半期のアメリカの実質GDP成長率は、年率換算で5.9%と、かなり高い水準にはなった。とはいえ、そのうちの3.9%が在庫変動によるもので、先行きは決して楽観視できない。経済成長のうち、約66%が企業などの在庫増加に因っているわけである。

 1937年のルーズベルト大統領は、未だに民間の資金需要が低迷しているにも関わらず、景気対策を縮小し、アメリカに再度の不況突入をもたらした。出口戦略のタイミングを見極めることは、実際、かなり難しいわけだ。

 バブル崩壊後の日本政府も、景気対策の効果で、日本経済が浮揚するたびに、緊縮財政に走り、景気を突き落とすことを繰り返してきた。1997年の橋本政権が、まさに典型である。橋本政権は、日本経済が未だに完全には不況を脱していないにも関わらず、国債発行の縮小、公共投資などの政府支出削減、そして消費税増税を敢行し、日本経済に長期間のデフレを、招いててしまったのだ。

 これまでの連載において何度か書いたが、政府による財政出動の拡大と国債の増発は、特に先進国の国民には、政策としてあまり人気がない。日本やアメリカはもちろん、英国やユーロ諸国においても、政府負債の増加が国民に「将来的な増税」をイメージさせ、政権与党の支持率を落としてしまう。

 逆に、野党側からしてみれば、与党による財政出動は、実に批判しやすいのである。何しろ、
「現政権の借金増大は、将来的には皆さんや皆さんの子供たち、孫たちに負担としてのし掛かってくるのですよ」
 という「トーク」が使いやすいわけである。

 確かに、インフレ期における政府の財政出動は、超過状態にある需要をさらに拡大させ、国民に「物価上昇」という形で、重い負担を押し付けることになる。

 とはいえ、現在の日本やアメリカはデフレ状態なのだ。

 デフレ期に緊縮財政を強行し、ただでさえ縮小傾向にある需要をさらに抑制してしまうと、デフレギャップはますます拡大してしまう。

 デフレギャップが拡大する中において、企業が売り上げを伸ばすことは、大変難しい。そして企業の売上が減れば、それは法人税減収などの姿をとり、政権を直撃することになるわけだ。

 景気悪化が深刻化すると、政府は結局のところ、景気対策を拡大するしかなくなる。景気対策により支出が増える中、税収が減っていくわけであるから、当然ながら政府の財政は、ますます悪化してしまうのである。

 バブル崩壊後の日本経済が、まさにその典型だ。


 二十世紀、特に第二次大戦以降の先進諸国においては、経済問題とはすなわち「インフレの問題」であった。物価上昇を押しとどめ、インフレ率を引き下げることこそが主目的であり、経済学もその需要に応えるべく発展したのである。

 すなわちデフレ期の経済学とは、それこそ大恐慌期のケインズ以降は、ほとんど発展していないのである。

 デフレ期の経済学を持たない先進諸国が、適切なタイミングで「出口戦略」を実施することが、果たして本当に可能なのだろうか。

 先進諸国は、いや世界の全ての国々にとって、今ほど「デフレ期の経済学」が有用な時期はない。しかし、日米欧諸国などの経済政策を見ていると、未だに「インフレ期の経済学」に基づき政策を立案しているように思えてしまい、筆者は不安を覚えずには入られないわけである。


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02月04日更新

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三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

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