三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

第41回 続 アメリカの出口戦略(2/3)

(1/3の続き)

 アメリカの大恐慌が問題だったのは、先にも書いたように、民間が負債返済に走る中、政府までもが支出を増やさなかったことである。図41-1の「政府向け投資(要は国債)」の推移を眺めると、大恐慌下にありながら、アメリカ政府の国債発行がさほど増えていない事実が見て取れるだろう。

 民間が支出をするどころか、負債返済にまい進する中、政府までもが支出を増やさなかったわけだ。国家経済のフローであるGDPは、以下の式で蓄積される。


 GDP=個人消費+民間投資+政府支出+純輸出


 1929年以降の恐慌期は、世界各国が保護主義に走った時代でもあった。そんな環境下で純輸出(=輸出-輸入)は伸びようがない。さらに民間が負債返済に走っている以上、個人消費や民間投資は当然ながら減っていく。その上、政府までもが財政出動の拡大に乗り出さなかったのであるから、国家経済のフローたるGDPが崩壊して当たり前に思える。

 フーバー政権の後を受けたルーズベルト政権は、政権発足直後から財政支出拡大政策に転じた。いわゆる、ニューディール政策である。

 大々的な財政出動により、アメリカ経済は立ち直りの「気配」を見せた。具体的には、民間への貸付金が増加に転じたのである。

 35年には120億ドルを切ってしまった、アメリカ加盟銀行からの貸付金だが、二年後の37年(第二四半期)に143億ドルにまで回復した。

 ここで、ルーズベルト政権は「出口戦略」を急ぐというミスを犯してしまったわけだ。すなわち、財政出動拡大を取りやめ、国債発行残高を減らし始めたのである。

 図41-1だけでは分かりにくいかもしれないが、1937年前後に「政府向け投資」がわずかながら減少している。ルーズベルト政権は、恐慌経済下において、政府負債残高を減らし始めてしまったわけである。

 改めて考えてみると、民間への貸付金が増えたとはいっても、大恐慌時の残高の半分をようやく上回ったに過ぎなかったのである。すなわち、アメリカの民間における資金需要は、恐慌前の水準を全く回復していないわけだ。

 その状況で政府が「出口戦略」を急いでしまった結果、アメリカ経済は再び恐慌の中に引きずり込まれてしまった。無論、ルーズベルト政権は慌てて政府支出拡大に動き、国債発行残高を増やし始めたが、結局、アメリカ経済が恐慌前の規模を取り戻すのは、1941年以降の軍需拡大期を待たねばならなかったのである。


 翻って現在をみると、アメリカ経済は間違っても「完全に恐慌経済から脱した」と言えない状況である。たとえば、アメリカのGDPの七割前後を占める個人消費は、政府支出により辛うじて下支えされているものの、未だ底を打ったとは、到底言えない有様だ。


『ウォールストリートジャーナル 2002年2月23日「2月の米消費者信頼感指数は大幅低下

 米大手民間調査機関コンファレンス・ボード (CB)が23日発表した2月の消費者信頼感指数は前月水準から10ポイント超低下し、個人消費の見通しをめぐって懸念が高まった。

 またこれとは別に、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)/ケース・シラーがこの日発表した統計によると、2009年12月の住宅価格指数は低下したものの、季節調整後では前月比上昇した。また前年比での低下ペースも引き続き鈍化した。

 CBの発表によると、2月の消費者信頼感指数は46.0に低下した。1月は56.5と、速報値の55.9から上方修正された。ダウ・ジョーンズ経済通信がまとめた2月のエコノミスト予想は54.8だった。

 現在の景況判断を示す現況指数は2月に19.4と、過去27年間で最低水準となった。1月の25.2(速報値は25.0)からも大幅低下した。

 今後6カ月間の景況見通しを示す期待指数は2月に63.8と、前月の77.3(速報値は76.5)から低下した。(後略)』


 失業率が10%前後に達している以上、当たり前といえば当たり前だが、アメリカの家計の消費者信頼指数は、2月に大きく低下している。

 また、アメリカの代表的な住宅価格指数である「ケース・シラー指数(S&P)」は、確かに前月比で上昇となった。だが、これも政府支出の下支え効果である可能性が、極めて高い。現在、アメリカは初めて住宅を購入する国民を対象に、8000ドルの税制優遇措置を実施するという、極めて大がかりな住宅購入支援策を実行に移している。

 政府の支援策により価格下落は何とか食い止めることができているが、住宅建設自体はそれほど増えているわけではない。政府の住宅購入への支援策は四月には終了する予定で、その後も国民の住宅購入が維持されるかどうか、良くいっても「不透明」という状況である。

 さらに、アメリカの長期金利抑制に寄与してきた、FRBによる各種の金融緩和措置は、相次いで終了する予定だ。長期米国債の買い取りは、すでに昨年十月時点で予定枠を消化し、終了したが、さらにMBS(住宅ローン担保証券)債やGSE債の買い取りも、今月末に終了する予定になっている。

 各種の金融緩和措置が終了すると、アメリカの長期金利は上昇していく可能性が高い。そうなると、頼みの不動産市況も、さすがに持ち直しの動きは緩やかなものにならざるを得ないだろう。

(3/3に続く)


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02月04日更新

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三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

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