三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

第41回 続 アメリカの出口戦略(1/3)

 前回に引き続き、アメリカの出口戦略について取り上げたい。

 前回は「現在のアメリカの政権を担うオバマ大統領や、FRBのバーナンキ議長が、ルーズベルト大統領などの前例に倣うことがないように、願わずにはいられないわけだ」という文章で結んだが、この「ルーズベルト大統領の前例」とは、いったい何だろうか。

 もちろん、世界大恐慌期に、通常経済への復帰を見届ける前に出口戦略を推し進め、国民経済を再び奈落の底に叩き落してしまったことである。

 図41-1は、大恐慌期のアメリカの加盟銀行における、資産の推移を見たものだ。バランスシートを理解している人であれば、このグラフ一枚で、当時のアメリカ経済の状況が、いかに凄まじいものだったか、即座に理解できるだろう。

  【図41-1 アメリカの加盟銀行資産推移 1927年-1941年】 20100302_01.gif 出典:FRB


 銀行のビジネスモデルの基本は、負債として国民や企業などから預金を集め、それを民間や政府に貸し出すことで金利差を稼ぐというものだ。銀行のバランスシートの資産側は、当然ながら「銀行からお金が融資もしくは投資された結果、産まれた債権」が、その大部分を占めることになる。

 資本主義経済において、最も重要なのは民間企業の借入になる。銀行側から見れば、民間企業への融資である。資本主義経済では、民間企業が銀行から融資を受け、投資を拡大することで、国民経済が成長していく。

 日本には、単純に借金(融資)を毛嫌いする人が少なくないが、そもそも資本主義経済とは、民間が融資を受け、投資を拡大することを前提としているのである。誰もが借金を増やさない環境下では、経済の順調な発展など全く望めない。

 それ以前に、バブル崩壊などが原因で、民間が借金を一斉に返し始め、誰もお金を使わない状況になってしまうと、国民経済は崩壊する。国民経済すなわちGDPは、国民の「支出」の合計なのである。国民がお金を稼いでも、その多くを支出には回さず、借金返済や貯蓄に充当してしまうと、その金額分だけ「GDPは増えない」。

 経済のバブル化とは、要は資産価格が上昇していく中、民間が過度に負債を積み上げてしまうことだ。株式や不動産、時にはチューリップの球根などの資産価格が高騰し、民間が争って借金し、資産を買い求める。彼らのその行為自体が、さらなる資産価格の上昇を招き、最終的には破滅的な水準にまで高騰する。

 バブル崩壊により、当然、吊り上がった資産価格は暴落するが、その資産を購入するために借り入れた負債は消えない。結果、民間の経済主体は、こぞって負債返済に邁進し、フロー(GDP)として支出される金額が激減してしまうわけである。

 1929年のウォール街における株価大暴落の後、政府までもが支出拡大に踏み切らなかった結果、大恐慌を悪化させたのがフーバー政権である。また、財政出動を拡大させることで立て直しを図ったのが、フーバー氏の後を継いだルーズベルト政権というわけだ。

 図41-1を見ると、1929年の大恐慌の開始以降、アメリカの加盟銀行において「貸付金」が激減した様子が見て取れるだろう。貸付金とは、もちろん銀行から民間の企業や家計への融資を意味している。

 大恐慌ぼっ発以降、アメリカの加盟銀行の民間への貸付金は、261億ドル(29年第3四半期)から118億ドル(35年第3四半期)まで激減した。銀行の民間への貸し付けが、半分未満になってしまったのであるから、「激減」などという生易しい状況ではなかったわけである。

 とはいえ、日本のバブル崩壊以降も、民間企業の貸付金が減少(さすがに半減などという極端な状況ではなかった)したので、それ自体はある意味で普通の減少といえる。バブル崩壊により、民間のバランスシートでは資産の時価が暴落するにも関らず、負債の方は変わらないわけだ。企業などは、資産価値が毀損する中で、負債の返済に走らざるを得なくなるわけである。

(2/3に続く)


【Klugよりお知らせ】

当連載ブログの著者、三橋貴明氏の2月の新刊が発売中!
『「テレビ政治」の内幕 』アマゾンで予約開始!

『経済ニュースの裏を読め!』も全国書店で発売中!

PR / Ad Space

PR / Ad Space

クルクるアンケート

02月04日更新

自動売買って興味あります?






みんなの回答を見る

三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

ページトップへ戻る