三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

第三十九回 英フィナンシャル・タイムズ紙の社説(1/3)

 財務省が2月10日に、昨年末時点の政府の負債(いわゆる「国の借金」)の残高を発表したこともあり、相変わらず全新聞社が一斉に「『国の借金』過去最高、1人あたり684万円!」の見出しで記事を書いた。この広い世界に、政府の負債が発表ごとに過去最高を更新していない国など、数えるほどしかない。だがまあ、これは四半期ごとに繰り返される風物詩のようなものなので、置いておこう。

 非常に興味深いことに、財務省の発表の前日、英フィナンシャル・タイムズ紙(以下、FT)が、まるでタイミングを合わせたかのように、日本政府の負債に関する面白い「社説」を掲載した。コラムなどではなく「社説」というのは、かなり注目点である。


『2月10日 JBPRESS「社説:日本の債務懸念は行き過ぎ」
(2010年2月9日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 債務とデフレに苦しむ日本は次のギリシャなのか? 日本の金融大臣でさえ、管轄下の巨大銀行ゆうちょ銀行の資産運用について、日本国債からの多様化を進めるべきだと示唆し、代わりに社債や――よりによって――米国債を買えばいいとの考え方を示した。

 こうした扇情的な発言と相前後して、米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は膨れ上がる債務水準と低成長を懸念し、日本の信用格付けを引き下げる可能性があると警告した。

 だが、巨大な日本国債バブル――ましてやデフォルト(債務不履行)――に関する議論は、荒唐無稽だ。確かに、日本の財政はいたって健全とは言えない。政府は経済が回り続けるよう、支出を重ねてきた。膨らむ支出は税収減と相まって、日本の債務総額をGDP(国内総生産)比200%近くに押し上げた。

 人口の高齢化が進む中、この憂慮すべき数字は今後、一段と悪化しかねない。そう考えると、現在1.3%前後で推移している10年物日本国債の利回りは低く見える。市場は一体、自分たちが何を知っていると思っているのか?(後略)』


 後略部において、FTは日本政府の債務(負債)問題について、四つの視点から解説している。以下、具体的なデータを見ながら、FTの社説を検証してみたい。


1.日本政府は負債も大きいが、資産も大きい


 図39-1は、日銀資金循環統計から作成した、09年9月末時点における日本の「国家のバランスシート」である。9月末速報値段階で、日本政府の負債は980.2兆円と、1000兆円目前にまで拡大している。

 しかし、もちろん日本政府には負債ばかりがあるわけではなく、巨額の資産も保有している。グラフの左側最上部の赤い部分がそれである。9月末時点の日本政府の資産残高(注:金融資産のみで、不動産などの固定資産は含まない)は462.6兆円となっており、純負債は517.6兆円である。内閣府の速報値段階で、日本の名目GDPは約475兆円、実質GDPが526兆円であるため、日本政府の純負債は、ほぼGDPと同規模ということになる。


【図39-1 日本の「国家のバランスシート」09年9月末速報値(単位:兆円)】
20100216_01.gif
出典:日本銀行 資金循環統計


 ちなみに、アメリカの「国家のバランスシート」はどのような状況下と言えば、図39-2の通りである。

 08年末時点の連邦政府及び地方政府の負債を合計すると、10兆6783億ドル(注:現在はすでに12兆ドルを超えている)。それに対し、資産側は3兆8839億ドルとなっている。すなわち、政府の純負債が6兆7944億ドルとなる。


【図39-2 アメリカの「国家のバランスシート」08末(単位:十億ドル)】
20100216_02.gif
出典:FRB


(2/3に続く)

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02月04日更新

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三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

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