第三十八回 アメリカの転進(後編)(3/3)
オバマ大統領やボルカー元FRB議長は、一般教書演説の後も「地方経済・中小企業・雇用重視」の発言を繰り返している。
例えば、オバマ大統領は2月2日、ニューハンプシャー州における対話型集会で、中小企業向け融資を促進するために、中小企業融資基金を設立する計画を発表した。その財源であるが、驚いたことに、TARP(不良資産救済プログラム)資金として準備された300億ドルを転用するという。
ご存知の方が多いだろうが、TARPとは主に大銀行を救済するために構築された、不良債権の買取プログラムだ。それを中小企業向け融資に転用するわけであるから、「ウォール街から中小企業重視へ」を、ここまで露骨に示す政策転換はないだろう。
また、オバマ大統領は銀行のヘッジファンド関連ビジネスや、プライベートエクイティの買収、それに自己勘定取引などを禁止する金融新規制案について「ボルカー・ルール」と呼称し、上院銀行委員会にかけた。今のところ、上院における議論は賛否両論といった状況である。当たり前といえば、当たり前だが。
さて、アメリカの戦略転換により、最も影響を受けそうな国が一つある。
それは、中国だ。
何しろ、中国は人民元の対ドル固定相場制を採用し、アメリカへの輸出攻勢をかけ、同時に「為替レートが変動しない」ことを活用し、ウォール街から最も多額のドル・キャリーを受け入れていたのである。中国の輸出攻勢は、当然のことながらアメリカの需要や雇用を奪う。また、為替リスクのないキャリートレードの活用は、ウォール街が09年下半期に高収益を達成した一因である。
要するに、海外に目を向けた場合、中国こそが「二つのアメリカ」という問題と、最も密接に関わりあっていた国なのだ。オバマ政権が「二つのアメリカ」の解決を決断した以上、アメリカの対中政策も変わらざるを得ない。
実際、早くも具体的な動きが複数出てきている。
『09年1月19日 産経新聞「「これ以上、検閲を容認しない」 グーグル、中国からの全面撤退も視野」』
『09年1月30日 読売新聞「米が台湾へPAC3など64億ドル兵器売却へ」』
『09年2月2日 共同通信「米・オバマ大統領、ダライ・ラマと会談へ」』
『09年2月3日 ロイター「中国に関し米国は為替レートに対処する必要=オバマ大統領」
オバマ米大統領は3日、中国などアジアは今後、米国の大きな輸出市場になるとの見方を示した上で、米製品が競争上不利にならないよう為替レートに対処する必要があると述べた。
オバマ大統領は民主党議員との会合で「国際的に対処しなければならない課題の一つが為替レートであり、米製品の価格が人為的に引き上げられ、他国の製品の価格が引き下げられることのないようにすることだ」と語った。
「これは競争上、(米企業に)大きな不利益となる」と指摘した。』
時期的にグーグルの件は別かもしれないが、残りの三つは全てマサチューセッツ州における上院選後の報道だ。台湾に武器を売り、ダライ・ラマ氏とオバマ大統領が会談し、人民元の切り上げを要求する。いずれも、中国にとっては痛恨事ばかりである。
これだけ連続している以上、アメリカの対中政策が以前と変化ないと考える方が、無理というものであろう。特に、最後のロイターの記事では、
「中国などのアジアは、米国の大きな輸出市場になるだろう」
と、アジア諸国に露骨に外需依存からの転換を要求しているわけである。要するに「我々に売るのではなく、我々の製品を買え」というわけだ。
オバマ政権は、国内ではウォール街を締め上げ、「ドルの流出」にストップをかけた。さらに国外に対しては、特に「二つのアメリカ」問題の元凶の一人である中国に、
「自分たちの雇用を奪うな。自分たちの金(ドル)を使って儲けるな」
というメッセージを発したわけだ。
アメリカの戦略転換は、それ以外の国にとっては「外部環境」に該当する。外部環境が変わった以上、その国の国家のモデルは再構築を求められて当然だ。
「我が国は、○○立国だ」
などと、国家モデルを勝手に決めつけている人々は、今後の世界の、そして時代の変化に、果たしてついていくことができるだろうか。他人事ながら、筆者は真剣に心配して差し上げているわけである。
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