第三十八回 アメリカの転進(後編)(2/3)
アメリカの戦略転換は、1月27日のオバマ大統領による一般教書演説からも、はっきりと読み取ることが可能だ。同演説において、オバマ大統領は「雇用創出」を最優先する立場を表明し、中小企業への支援拡大や、今後五年間での輸出の倍増など、実体経済面への梃入れを重視する意向を鮮明にした。
オバマ大統領の一般教書演説の中から、特に印象的だった箇所を抜き出してみよう。
「我々は多くの新規雇用が生まれる場所から歩みださねばならない。それは中小企業だ。ペンシルベニア州アレンタウンやオハイオ州エリリアのような場所で企業家と話してみると、ウォール街の銀行が貸し出しを再開している先は、もっぱら大企業だということがわかるだろう。米国中の中小企業オーナーにとって、企業の環境は厳しいままだ」
「我々はクリーンエネルギー施設を建設するよう米国人をより後押しすべきだ。住宅のエネルギー効率を上げる人には払い戻しをすべきだ。それは雇用創出につながる。企業が米国内にとどまるように、雇用を海外に流出させる企業への減税をやめ、米国内で雇用を生む企業に対して減税する時だ」
「まずは金融改革だ。言っておくが私は銀行を懲らしめたいのではない。経済を守りたいのだ。強く健全な金融市場は企業が資金を確保し、雇用を創出できるようにする。家計の貯蓄を投資に橋渡しし、それが収入を引き上げる。しかし、そのためには米経済全体を崩壊させかけた無謀さから身を守らなければならない。
消費者や中間層家族に情報を提供し、きちんと金融に関する意思決定ができるようにしなければならない。あなたの預金を受け入れた金融機関が、経済全体を脅かすようなリスクを取るのを許してはならない」
「我々の製品をもっと輸出しなければならない。今夜、新しいゴールを設定する。今後5年間で輸出を倍増させる。これは200万人の雇用を支える。このため『国家輸出計画』を立ち上げ、農家や中小企業が輸出を拡大することを支援する」
これが「あの」アメリカかと、思わず疑ってしまうほど、露骨な実体経済面、より具体的に書くと「地方経済、中小企業、雇用」重視の一般教書演説である。ウォール街の銀行を中心とする金融機関に対して、やんわりとではあるが「規制する」と宣言しているところも、かなり衝撃的だ。
中小企業、雇用重視や、金融産業に対する規制強化はある程度予想していたが、筆者が最も驚いたのは最後の「輸出倍増計画」である。
【図38-1 主要国のドル建て輸出額06年-08年(単位:十億ドル)】
出典:JETRO
図38-1は、経済規模が大きい米日独中英仏六カ国の年間輸出額について、ドル建てで推移を比較したものだ。アメリカは「貿易赤字国」のイメージが強いが、輸出額は決して小さくない。と言うよりも、むしろ大きい。何しろ、2008年におけるアメリカのドル建て輸出額は、独中両国を上回り、世界最大なのである。
このアメリカが輸出を倍増させるということは、すなわち百兆円単位の「新たな輸入需要」が、世界のどこかに誕生しなければならないことを意味する。別に不可能事だと断じる気はないのだが、現在の各国の国家モデルを思うと、なかなかの難事業であることに間違いはない。そもそも、これまで最大の輸入国として、世界中の国々の輸出をほとんど一国で引き受けていたのは、アメリカ自身なのである。
要するに、これまでの世界経済の基本構造であった、
「世界各国が輸出し、アメリカが輸入する。世界各国は輸出代金として入手したドルを、米国債で運用する」
というモデルが、大々的な再構築の時期を迎えたということなのだろう。いずれにせよ、未だに、
「日本は輸出立国だ! 輸出で食っていくしかないのだ!」
などと、単純な日本輸出立国論を唱えている人は、図38-1やオバマ大統領の一般教書演説を読み、現実を知るべきだ。これまで、日本の輸出拡大を可能にしてくれていたアメリカ自身が、「今後五年間で輸出を倍増する」と言っているのである。そんな環境下において、一方的に他国の需要(=他国への輸出)に依存した経済成長を志向する国に、未来などありはしない。
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