第三十七回 アメリカの転進(前編)(1/3)
アメリカの金融政策が、大きく姿を変えようとしている。
『2010年1月22日 ウォール・ストリート・ジャーナル「オバマ米大統領、金融新規制案を発表」
オバマ米大統領は21日、大手銀行の規模と事業活動を制限するための新たな規制案を発表した。金融機関の行き過ぎ抑制を目指すために米政権が取り組んでいる金融規制改革の一環。
金融新規制案を発表するオバマ米大統領、左はポール・ボルカー経済回復諮問会議議長
同政権は、預金を取り扱う商業銀行各行が自行の資金で投資する「自己勘定トレーディング」の禁止と、金融機関各社の規模と業務集中に対する新たな制限を求めると表明した。
オバマ大統領は、「私の金融システム改革への意思が一段と強まったのは、改革に反対する一部の金融機関が古い慣行へ回帰するのを見たときであり、中小企業 向けの融資を拡大できず、クレジットカードの金利を低く抑えられない上、公的資金を返済できないと主張している金融機関が過去最高の利益を計上しているのを見たときだ」と語った。「まさに、こうした種類の無責任さのために改革の必要性が明瞭になっている」と指摘した。(後略)』
1月21日。アメリカのオバマ大統領はホワイトハウスで記者会見し、大手金融機関の規模制限、商業銀行によるヘッジファンド的業務や投資ファンドの買収禁止、さらに銀行による投資ファンドなどへの助言業務の禁止など、かなり踏み込んだ「金融規制」を法制化する声明を発した。分かりやすく書くと、要するにアメリカの金融銀行は、経営的に、
「自己勘定取引のみを行う、証券会社や投資銀行など」
「預金を集め、顧客に融資する、いわゆる『銀行』」
の、いずれか一つの道を、選ばなければならなくなるわけである。自己勘定取引とは、顧客から集めた預金などではなく、証券会社や投資銀行が、自らの資金で投資活動を展開するビジネスを意味する。
このオバマ大統領の記者発表において、その傍らに控えていたのは、これまで「ウォール街(大規模金融機関)優遇政策」を主導していた財務省のガイトナー長官ではなく、経済再生諮問会議議長を務める元FRB議長ポール・ボルカー氏、その人であった。
ボルカー議長は、1979年から87年のレーガン政権下において、第12代FRB議長を務めた伝説的な人物だ。ボルカー氏は、当時のアメリカを悩ませていたスタグフレーションを解決するという成果を成し遂げ、「20世紀最高のFRB議長」と評価されている。
ボルカー氏は、かなり以前から、銀行(いわゆる商業銀行)が自己勘定取引などのリスクが高い投資ビジネスを展開していることについて、批判的であった。何しろ、ウォール街の大手金融機関の多くは、「Too big To Fail 」(大きくて潰せない)方針の下、公的資金により手厚く保護されていたのである。
方や、アメリカ国民のビジネスや生活に密着した地方の銀行は、商業用不動産バブルの崩壊の煽りを受け、次々に倒れていっている。2009年という一年間だけで、アメリカの地方では実に140行もの銀行が破綻したのである。
アメリカ国民の失業率が10%台で高止まりを続ける中、独りウォール街のみが、新興経済諸国向けの「キャリートレード(金利の安いドルを借り、高金利な国々に投資する)」などで高収益を上げているわけだ。
特に、為替レートが事実上の「対ドル固定相場制」になっている中国には、最も多額の「ドル資金」が流入したと考えられている。何しろ、中国政府が人民元を対ドルでペッグしている以上、投資する側に「為替差損」リスクは発生しないのである。為替リスクがないにも関わらず、金利水準は大きな開きがある。
中国の指標となる民間銀行の預金基準金利は、現在2.25%だ。新興経済諸国としては、決して高い金利水準とは言えないが、何しろアメリカの金利政策は、事実上のゼロ金利なのだ。(注:ファンド等の金融機関が、政策金利そのものでお金を借りられるわけではない。)金利差が2%といえども、何しろ為替変動リスクがないわけである。ウォール街で働く人々が、この「美味しい投資」に夢中にならなければ、逆に奇妙に思えるほどだ。
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