三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

第三十六回 ギリシャと「新・日本財政破綻論」(3/3)

(2/3の続き)

 読売新聞の記事は「円が他の通貨に対して暴落」などと、あり得ない(外貨準備100兆円の国の通貨が、暴落するはずがない)フレーズを用いるなど、ミスリードが多く見られる。最も悪質に思えるのは、
「個人金融資産額が債務残高を上回っているために、通貨暴落しない」
 と、為替レートの話を、最近流行の「家計の金融資産残高=国債発行限界説」と混同させている点だ。この記事だけを読むと、普通の人は、
「ああ、日本の個人金融資産額が債務残高を下回ると、円が暴落するんだ・・・」
 と理解してしまうだろう。

 2010年に入るや否や、いきなり流行り始めた、
「日本国債の金利が低いのは、家計の金融資産が1400兆円あるためである。すなわち、1400兆円を越す国債を発行すると、破綻する!」
 なる「家計の金融資産残高=国債発行限界説」であるが、これはいわば「新・日本財政破綻論」と呼べよう。ちなみに「旧・日本財政破綻論」は、例の、
「ロシアやアルゼンチンのように、日本政府はデフォルトし、IMF管理下になる!」
 というものであった。インターネットなどを通じ、さすがに「③政府が海外から外貨建てで借りた負債」と「①政府が国内から借りた負債」は、性質が全く異なるものであることが知れ渡ってきた。結果、日本財政破綻論者たちは方針展開し、
「確かに日本には1400兆円の家計の資産がある。だから日本国債の金利は低い。だが、すでに政府の負債は1000兆円に迫ろうとしている。つまり、1400兆円を借り切ってしまったとき、もはや国債の買い手がいなくなる。結果、日本政府は破綻する」
 なる、前にも増して滅茶苦茶なロジックで、日本政府の財政問題を煽っているわけである。

 日本財政破綻論者の皆さまは、国家のバランスシート上には「政府の負債」と「家計の資産」の二つしか存在しないとでも考えているのだろうか。よくもまあ、ここまで適当な説を、次から次へと思いつくものである。その頭の働きを、お願いだから別の分野に向けて欲しいと、心底から願う。

 別に説明するまでもないと思うが、日本国債の金利が低いのは、デフレギャップが大きすぎるためだ、巨大なデフレギャップのせいで、企業などの民間の資金需要がなく、銀行などの貸出金が増えないなか、フロー(GDP)から切り離された貯蓄が、どんどん金融機関に流れ込んでいるからこそ、金利が極端に低いわけだ。

 また、そもそも日本国内において、国債を買うストックが不足し始めたのであれば(注:よほどの『好景気』にならないと、あり得ないのだが)、海外から借りれば済む話だ。などと書くと、今度は、
「政府が国債を購入した外国投資家の言いなりになり、日本は破綻する」
 などと言い出すわけだが、そもそも外国人投資家の国債保有者に占めるシェアが10%未満の国など、日本以外には筆者はカナダしか知らない。日本及びカナダ両国以外の国々は、全て、
「政府が、国債を購入した外国投資家の言いなりになっている」
 とでも言うのだろうか。どこのパラレルワールドの話なのか、冗談抜きで教えてもらいたいと思う。

 現在の日本では、銀行の貸出金が400兆円前後で低迷している中、実質預金がひたすら積み上がっていっている。過剰貯蓄が貯まる一方であるわけだから、銀行は国債を買うしかないのである。すなわち「国債を買いたいお金」は、むしろ増えているのが現状なのだ(不景気ゆえに)。

 ちなみに、民間の資金需要が高まり、国債金利が上がれば、それはすなわち好景気ということである。好景気になれば、政府の景気対策は不要(むしろ、邪魔である)になるので、そもそも国債を発行する必要はなくなる。

 好景気になり、日本が健全なインフレ率と名目GDP成長率を取り戻し、デフレ脱却が明らかになった場合、筆者は今度は、
「国債を発行するな! 政府は『ムダを削れ』!!」
 と、大声で叫び始めることになるだろう。

 デフレ期とインフレ期のソリューションは「真逆になる」以上、当たり前の話である。


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02月04日更新

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三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

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