三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

第三十六回 ギリシャと「新・日本財政破綻論」(2/3)

(1/3の続き)

「人類の歴史上」、政府がデフォルトを起こしたのは「③政府の海外からの外貨建て負債」のみである。また、政府がデフォルトする際には、必ず通貨危機とセットになっていることについても、繰り返し解説してきた。

 これまでの経験則では、ギリシャ政府は「⑦政府の海外からの共通通貨建ての負債」について、デフォルトは起こさないはずだ。何しろ、政府のデフォルトの前提となる通貨危機が、ことユーロに関しては考えられず、そもそも債権者の多くがユーロ圏の投資家なのである。ユーロ圏の投資家が、同じくユーロ圏のギリシャ政府に「ユーロ建て」でお金を貸しているわけで、ユーロが他通貨(ドル、円など)に対し大きく値を下げようとも、ギリシャ政府の負債額面は増えも減りもしない。

 ところが、このギリシャの「⑦政府の海外からの共通通貨建ての負債」のデフォルトが、にわかに現実味を帯びてきているのである。ギリシャの場合は、確かに「通貨危機⇒政府のデフォルト」という流れは考えられない。しかし、中央銀行が「ユーロを勝手に刷れない」という面では、ギリシャ政府の負債は「③政府の海外からの外貨建て負債」に限りなく近い存在なのである。

 同じ「政府のデフォルト」を起こすならば、嫌な言い方だが、新通貨なりドラクマに戻した後の方が「効率的」だと考える。なぜならば、ギリシャがユーロを離脱することで、同国発のユーロへのシステミックリスクという心配がなくなれば、ドイツを中心としたEU(欧州連合)の支援を、大々的に受けられる可能性が高いためである。

 現在のユーロ及びECBの中核的存在であるドイツには、ギリシャを支援する余力はまだまだ残っている。しかし、ギリシャがユーロ圏に留まり、問題がユーロ全体に波及する可能性がある限り、ドイツは決してギリシャ支援には乗り出さないだろう。なぜならば、ユーロ全体へのシステミックリスクに加え、ユーロ圏にはギリシャ以外にも、ドイツに支援を求めてきそうな予備軍が、複数存在しているためである。(スペイン、アイルランド、ポルトガルなど)

 ギリシャがユーロを離脱し、「通貨危機⇒政府のデフォルト」という、ある意味で「お決まりの破綻」の道を辿れば、ドイツやEUは堂々と支援ができる。もちろん、通貨危機によりギリシャの国民生活は一時的に困窮に陥るが、通貨安により「ユーロ圏」への輸出が増え、観光産業が一気に回復し、それほど時間をおかずに経済成長路線へ回帰できるだろう。

 スペインにしてもアイルランドに対しても、自国の財政問題を解決しないのであれば、ギリシャの例に倣い、ユーロ離脱という選択肢を提供できる。ギリシャのデフォルトにより、ある種の「けじめ」を明確化することができるわけである。


 さて、ギリシャ問題の深刻化を受け、ようやくユーロの問題が日本の一般紙でも取り上げられ始めた。


ギリシャ危機 ユーロ直撃 EU対応協議へ

【財政赤字 過少計上引き金】
 ギリシャの財政悪化が欧州統一通貨ユーロの信認を揺るがす事態に発展している。欧州連合(EU)は19日の財務相会合で対応を協議する見通しだが、財政再建への道筋をつけるのは容易ではなさそうだ。

【5%急落】
 ユーロは現在、対ドルで1ユーロ=1・43ドル台、対円で1ユーロ=130円台で取引されている。いずれも、昨年秋以降の高値に比べ5%前後安い水準だ。背景には、ユーロ圏の一角を占めるギリシャの財政悪化が深刻化していることがある。

 昨年10月の政権交代後、前政権が財政赤字を過少計上していたことが明らかになり、国内総生産(GDP)比5%超とされていた2009年の赤字は12・7%と2倍以上に膨らんだ。統計データへの信頼が失墜し、債務返済能力も疑われ、ギリシャ国債の格付けが引き下げられた。

(中略)

 ただ、14日のギリシャ国債(10年物)の流通利回りは年6%台に上昇し、赤字削減の実効性に対して懐疑的な見方が市場に根強いことが示された。

 欧州中央銀行のトリシェ総裁も14日の記者会見で、「難しい課題が多い」と指摘。マイナス成長下で緊縮財政をとらざるを得ず、「景気を好転させ、税収増につなげられるかは不透明」(アナリスト)との声が大勢だ。

 【日本の財政 さらに「危機的」】
 日本の財政は数字上、ギリシャ以上に危機的だ。10年度末の国・地方の長期債務残高は約862兆円で、対GDP比が約180%となる見込みで、先進国では最悪となる。それでも円が他の通貨に対して暴落しないのは、日本の個人金融資産額が債務残高を上回っているためだとされる。(後略)』


 ギリシャやユーロの問題については、比較的まともな記事である。まさか、そこから無理やり「日本財政破綻論」に持ってくるとは、思ってもみなかった。正直、かなり意表をつかれた。

 本連載の読者には改めて解説する必要もないと思うが、日本政府の負債の94%は「①政府の自国からの負債」である。(残りの6%は「⑤政府の海外からの自国通貨建て負債」)

 読売新聞の記事では、
「それでも円が他の通貨に対して暴落しないのは、日本の個人金融資産額が債務残高を上回っているためだとされる。」
 と、無知丸出しの解説がされているが(結びを「される」としているのも、大変に卑怯だ)、日本政府の負債のほとんどが自国通貨建てである以上、為替レートに影響を与えるはずがない。日本政府が日本国民からお金を円建てで借り、なぜ円の為替レートが変動するというのだろうか。

 例えば、日本政府の負債の過半を外国人が「円建て」で借りていたとする。その状況で日本政府の財政を外国人が不安視し、円建て国債を売却。ドルなどの外貨に両替し、自国へお金を持ち帰る動きが活発化したのであれば、無論、円は安くなるだろう。

 しかし、現実の外国人の国債保有者に占めるシェアは、わずかに6%に過ぎない。と言うよりも、よくもまあ、ここまで金利が安い国債を、外国人が買う気になるものだ。そう考えると、6%でも多いようにさえ思える。

(2/3に続く)


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02月04日更新

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三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

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