三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

第三十六回 ギリシャと「新・日本財政破綻論」(1/3)

 ユーロの危機が深刻化している。

 1月23日。欧州中央銀行(ECB)のトリシェ総裁は、
「ギリシャのように財政統計が不正確な国による通貨同盟への参加を、ユーロ圏の当局者が再び認めることはない」
 と、発言した。

 その前日、ギリシャ中央銀行のプロボポラス総裁は、同国がユーロ圏に留まる必要があるとの見解を、英紙フィナンシャルタイムズに寄稿した。プロボポラス総裁は、新通貨を導入(新ドラクマ?)し、通貨価値を切り下げるよりも、ユーロ圏に留まる方が、ギリシャの問題解決は容易であるとの認識を示している。

 新通貨導入(もしくはドラクマへの回帰)を実行した場合、
「輸入物価高を招き、インフレを煽り、公的債務の返済コストを増やす公算が大きい」
 と、プロボポラス総裁は主張しているが、それは全くその通りである。

 ギリシャがユーロを離脱し、新通貨を導入した場合、通貨暴落とコストプッシュ型のインフレーション(輸入価格高騰による)が、恐らくは避けられない。国民生活は直撃を受け、政権への批判の声が殺到することになるだろう。

 さらに、ギリシャ政府の負債の七割超は「対外負債」である。ユーロ圏に留まっている限り、ギリシャは「通貨危機」という心配だけはする必要がない。
 ロシアにしても、アルゼンチンにしても、政府の負債のデフォルトを起こした国は、その全てが「通貨危機⇒外貨建て政府の負債のデフォルト(債務不履行)」というプロセスを辿った。ギリシャがユーロを離脱した場合、同国政府の「共通通貨建ての負債」は「外貨建て負債」に姿を転じることになるわけだ。

 その状況で新通貨の暴落が起きた場合、かなりの高確率でギリシャ政府はデフォルトすることになるだろう。中央銀行の総裁が、わざわざ「ギリシャはユーロに留まった方が有利だ」と発言するのも、当然ではある。


 だからと言って、ギリシャがユーロに留まれば、問題解決かといえば、必ずしもそうではない。何しろ、ギリシャがユーロに留まる限り、97年のアジア通貨危機後のアジア諸国に強制されたような、「超緊縮財政」を求められることになるのである。

 極度に景気が悪化している状況で、緊縮財政を実施した場合、やはり国民からの批判が殺到し、パパンドレウ首相は政権を維持することができないだろう。前回も書いたが、そもそもパパンドレウ首相率いる、与党全ギリシャ社会主義運動は、
「景気対策を大々的に拡大する」
 という公約の下で、総選挙に勝利したのである。政府支出を切り詰めると、国民の福祉は悪化する上に、そもそも緊縮財政は公約違反なのだ。熱しやすいギリシャ国民が、大人しく黙っているとは到底思えない。

 さらに、現在のギリシャ問題は、同国の国内問題ではないのだ。ギリシャの財政赤字対GDP比率の修正(前政権時の6.7%から、現政権の12.7%へ)は、ユーロの信認を揺るがす国際問題となった。冒頭のトリシェ総裁の言葉からは、ギリシャという一加盟国の問題が通貨同盟国全体に及んでいる現況への、ウンザリとした思いがうかがわれる。

 とは言え、現時点において、マーストリヒト条約で定められた「財政赤字対GDP比率は3%」というラインを守っているユーロ加盟国は、すでに少数派である。財政赤字の拡大自体について、ギリシャをあまり責めるのは酷な気もする。もちろん、政府の粉飾会計については、当然容赦なく批判されるべきなのだが。


 加えて、現在のギリシャが深刻なのは、このままでは「共通通貨ユーロ」建ての政府の負債であっても、デフォルトを起こしかねないためである。万が一、共通通貨建ての政府の負債がデフォルトしたら、ほぼ確実に世界初の出来事となるだろう。

 本連載の初期、「第二回 国家の負債を整理する」において、筆者は国家の負債を六つに分類した。(図2-1 国家の負債の分類

 しかし、今回のギリシャ問題を受け、この図にさらに「共通通貨建て」の負債を二つ、追加しなければならなくなったわけだ。


【図36-1 国家の負債の分類(修正版)】
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(2/3に続く)


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02月04日更新

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三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

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