第三十五回 続 ユーロの危機(3/3)
ラトビア(及びエストニア、リトアニアも)は、中央銀行がERM-Ⅱ(欧州為替相場メカニズム-Ⅱ)に組み込まれ、通貨ラトをユーロにペッグしている。ユーロペッグであるから、独自の金利政策などは放棄し、中央銀行が為替介入をすることで「対ユーロ固定相場制」を維持しているわけだ。
本来、ラトビアが景気を回復させ、失業率を引き下げるには、政府の財政支出を拡大し、通貨を切り下げるのが最も手っ取り早いのである。景気対策で内需を下支えしつつ、通貨安による輸出の拡大を狙えばいいわけだ。
ところが、ラトビアがユーロ加盟を目標とし、ユーロペッグを続ける以上、充分な財政支出拡大や通貨切り下げはできない。通貨切り下げを決断した途端、ラトビアのユーロ加盟は夢と消える。
さらに一つ、ラトビアはいわゆる「新興経済諸国」であり、国内に充分な金融資産が蓄積されているわけではない。政府が財政支出を拡大しようとした場合、海外に国債を発行することで原資を調達するしかないわけだ。
それ以前に、ラトビア政府はIMFや欧州連合から支援を受けており、同国の「政府の対外負債」は急増している。最新データ(09年9月末)によると、ラトビア政府の対外負債総額は、07年までの四倍超にまで達しているのである。
これほどまでに、極端に政府の対外負債が増えてしまうと、ここでラト切り下げを実施した場合、通貨暴落により「政府のデフォルト」という最悪の可能性が視野に入ってくる。すなわち、ラトビア政府がユーロ加盟という目標を諦めたとしても、ラト切り下げなど、できる相談ではないのだ。
【図35-1 ラトビア政府の「対外負債」(単位:億ドル)】

出典:世界銀行
改めて考えると、ギリシャのユーロ加盟にせよ、ラトビアのユーロペッグにせよ、金融政策を他国(もしくは他地域)に依存するのは、メリットよりもリスクの方が大きいように思える。
1997年のアジア通貨危機は、タイなどの東南アジア諸国が「ドルペッグ制」を採用していたことに起因している。ドルペッグ制である以上、ドルが他通貨に対し高騰していくと、タイ・バーツなどの東南アジア諸国の通貨までもが「自国経済とは無関係に」上昇していってしまうのである。
東南アジア諸国の「輸出対GDP比率」は、先進国と比べて極端に高いため、通貨高騰の影響は甚大である。
結果、国内経済が沈滞する中、一方的に通貨が上昇していき、いわゆるファンダメンタルの「歪み」が発生してしまう。そこをジョージ・ソロスなどのヘッジ・ファンドに狙われ、アジア通貨危機が勃発したわけだ。
2001年のアルゼンチンにしても、東南アジア諸国同様にドルペッグを採用していた。ところが、同じく対ドル固定相場制であったはずの隣国ブラジルが、先にドルペッグを離脱し、変動相場制に移行してしまった。
当然、ブラジル・レアルの価値は下がるわけだが、その通貨安に魅かれて、アルゼンチンの製造業が一気にブラジルに移転してしまったのである。結果、アルゼンチンは極度の景気低迷に陥ったのだが、それでもドルペッグ制によりアルゼンチンペソの価値は「自国経済とは無関係に」高止まりしていた。
97年の東南アジア諸国同様に、ファンダメンタルの歪みが発生した結果、通貨危機、政府のデフォルトへと突き進んだのである。
ギリシャにしてもラトビアにしても、世界的に景気が良い場合はペッグ制(ギリシャの場合は共通通貨)のメリットを十分に享受できる。しかし、現在のように同時不況下にある世界では、ペッグ制はむしろ自国経済のリスクでしかなくなるように思えてしまう。
PIGS諸国やバルト諸国、そして「ユーロ」という共通通貨の結末が、果たしてどうなるのか。その答えが出る日は、それほど遠くないと確信している。
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