三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

第三十四回 アイスランドと英蘭(1/3)

 前回はギリシャを中心に「ユーロの危機」について解説した。現在、ギリシャ新政権は緊縮予算により財政健全化への道筋をつけ、EUやECB、それに外国人投資家の信頼を得るべく奮闘している。しかし、景気低迷下の緊縮財政は、当然ながら国内経済をさらに冷え込ませる結果になる。ギリシャ新政権の行方は、必然厳しいものにならざるを得ない。

 さらに、そもそも現在のギリシャ政府は、サブプライム危機後の国内における景気悪化に際し、
「財政出動により、景気対策を拡大する」
 という「公約」を掲げ、選挙で勝利したのである。EU(欧州連合)やECB(欧州中央銀行)の意向に沿い、ギリシャ政府が緊縮財政路線を採用すると、公約と真逆の政策を実施することになる。当然ながら、国民からは「公約違反だ!」の声が、必ずわき起こってくることになるだろう。

 さらに、09年秋のギリシャ総選挙において、同国は08年末の暴動の影響をかなり引きずっていた。08年12月6日に、アテネの学生街で15歳の少年が警官に射殺された事件を切っ掛けに、ギリシャ全土で暴動が起こった。暴動を起こした人々は、当然ながら当時の政権に反感を抱き、彼らがパパンドレウ党首率いる野党「全ギリシャ社会主義運動党」を熱烈に応援した結果、政権が交代したわけだ。

 そのパパンドレウ政権が公約を翻し、緊縮財政路線を歩まざるを得ないのである。政府に不満を抱いたギリシャ国民が、再び暴動のようなラディカルな手段に訴えないかどうか、大変心配される状況だ。


 欧州の状況が厳しいと思われるのは、上記のように景気悪化に苦しむギリシャの失業率の悪化でさえ、欧州全域で見ると「平均」レベルに過ぎないためだ。

 EUの統計局が1月10日に発表した報道によると、09年11月時点のギリシャの失業率(季節調整値)は9.7%と、「ユーロ圏(16カ国)」の失業率を下回っている。

 11月のユーロ圏の失業率は、前月(10月)比で1ポイント悪化し、10%となった。99年の通貨統合後、ユーロ圏の失業率が二桁に達したのは初めてのことだ。

 ユーロ圏の失業率が悪化したのは、主にスペインやアイルランドの雇用環境が悪化したことに起因している。同月のスペインの失業率は19.4%、アイルランドは12.9%となっており、両国共に雇用が改善する気配は一向にない。

 さらに深刻なことに、欧州全域で見ると、スペインよりも失業率が高くなってしまっている国さえあるのである。本連載「第十三回 国債とは結局何なのか 後編」でも取り上げた、ラトビアである。

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【図34-1 2009年11月時点 欧州主要国の失業率】
20100112_34_01.gif
出典:ユーロスタット(EU統計局)


 ラトビアの失業率22.3%は強烈だが、残りのバルト諸国の状況も、極めて悪い。エストニアが15.2%、リトアニアが14.6%と、バルト三国で失業率の上位(?)四カ国のうち、三つを占めてしまっているわけだ。

 ユーロ圏以外の欧州諸国を見渡しても、危機的な状況に陥っている国は少なくないのである。その一国が、なぜかユーロスタット(EU統計局)に失業率のデータが掲載されていないアイスランドである。


【図34-2 アイスランドの失業率 2008年及び2009年】

20100112_34_02.gif
出典:Iceland Directorate of Labor


(2/3に続く)

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05月18日更新

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三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

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