三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

第二十七回 指標の罠(1/3)

 日本の第3四半期のGDP成長率が、内閣府から発表された。
 この指標発表時、直嶋正行経済産業相が、11月16日朝の発表前の段階で、指標を第三者に漏らすという、とんでもない「事件」を引き起こしたのはご存知の通り。とは言え、政府関係者の意識の低さについて語るのは、本連載の主旨ではない。本稿では主に、この種の指標が報じられる際のメディアや発表当局の思惑、すなわち「指標の罠」について触れたい。


7~9月期実質GDP、年率4.8%成長 政策が下支え

 内閣府が16日発表した7~9月期の国内総生産(GDP)の速報値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比1.2%増、年率換算では4.8%増となった。2四半期連続のプラス成長で、2年半ぶりの高い伸びを記録した。輸出や個人消費が伸び、設備投資も増加に転じた。ただ国内外の経済対策の効果が大きく、景気持ち直しの持続力には不安が残りそうだ。政府は物価の下落が続く「デフレ」を警戒しており、2009年度第2次補正予算案の具体化を急ぐ。(後略)』


 この「年率換算」のGDP成長率が、実際に何を意味しているのか、正しく理解している日本人は、まだ少ないのではないだろうか。何しろ、国内のマスメディアが「年率換算」のGDP成長率を大々的に使い始めたのは、08年第4四半期以降のことなのである。

 リーマン・ショックの影響を受け、同四半期における日本のGDP成長率は大きなマイナスになった。この「マイナス成長」という結果について、それまで通り「対前期比」で報道するよりも、「対前期比年率換算」の数値を見出しに掲げた方が、衝撃度ははるかに勝るわけだ。何しろ、数値がざっと四倍になるのである。

 08年第4四半期のGDP成長率は、内閣府速報値段階では「対前期比マイナス3.3%」だった。(その後、マイナス3%に上方修正された。)

 このマイナス成長について報道する際に、新聞の見出しとして普通に「対前期比」を用い、
「実質GDPマイナス3.3%!」
 と掲げるのと、「対前期比年率換算」の数値である、
「実質GDPマイナス12.7%!」
 と掲げるのでは、インパクトが違いすぎるわけである。

 ちなみに、年率換算のGDP成長率の計算方法は、以下の通りである。


 ■年率換算実質GDP成長率(%)={(1+四半期ベース実質GDP成長率)4乗-1}×100


 例えば、対前期比でマイナス3.3%(厳密にはマイナス3.33%)成長の場合、{(1-0.0333)の4乗-1}×100=12.67%となり、「計算結果」として「年率換算マイナス12.7%」という数値が求められるわけだ。

 このマイナス12.7%という数値は、もちろん日本経済が現実に一割以上も縮小してしまったという話ではない。あくまで、「対前期比マイナス3.3%」を4四半期連続で続けると、一年後にマイナス12.7%になるという意味なのだ。

 とは言え、「年率換算」に関する知識を持たない日本人(すなわち、ほとんどの日本人)が、新聞の見出しに「実質GDPマイナス12.7%!」という太文字を見たとき、果たしてどのように受け止めるだろうか。普通の人は、
「ええっ! 日本のGDPが12%も減ったのかっ!」
 と理解してしまうことだろう。この「間違った理解」に基づき、日本経済が極端に悪化した(対前期比マイナス3.3%成長でも、まあ極端な悪化ではあるのだが)と勘違いした国民が、消費を引締めてしまうと、日本経済は当然ながら、益々悪化していくことになってしまう。

 メディアがGDP成長率について、それ以前も「対前期比年率換算」で公表していたのであれば、まだ納得はできる。しかし、08年第3四半期以前は、ほとんどのメディアは年率換算の数値など、一切報道していなかったのである。

 リーマン・ショックの余波で、日本経済が急激に悪化したからといって、いきなり年率換算の数値を見出しに掲げ始めた新聞各社に、何らかの思惑あるいは「意図」がなかったとは考えられないわけだ。その「意図」とは、単なるセンセーショナリズムの追及かもしれないし、あるいは単純に政権叩きに利用したかったのかも知れない。

 政権を叩くためには、見出しは「実質GDPマイナス3.3%成長!」よりも、「実質GDPマイナス12.7%!」の方が、間違いなく都合がいいのである。特に、日本人の多くが「年率換算」の意味を理解していない以上、尚更だ。


(2/3に続く)

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02月04日更新

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三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

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