第二十六回 長期金利変動の意味(3/3)
さて、日本人は長期金利が「下がる」と喜ぶ傾向が強い。しかし、長期金利の低下は、単純に民間の資金需要の低迷を意味しているに過ぎないのだ。
再び、図26-1を見て欲しい。2001年から2003年にかけ、長期金利が極端に低下していった時期があることにお気づき頂けるだろうか。(緑色の点線矢印の部分)
この時期は、ご存知の通り小泉政権の前期である。小泉政権は政権発足直後から、「国債発行三十兆円枠」や「公共投資の削減」などの緊縮財政、財政健全化路線を推進した。すなわち、橋本政権に続く第二の「緊縮財政政権」というわけだ。
結果、小泉政権は日本経済の成長率を、二年連続(02年及び03年)でマイナスに叩き落した。小泉政権前期、日本経済がマイナス成長に苦しめられている頃に、まさに日本の長期金利は史上最低レベルにまで落ち込んだわけだ。
不景気とは、要するに民間企業が投資をせず、国民も消費を拡大せず、民間の資金需要が全く盛り上がらない時期である。とは言え、銀行の手元には国民や企業などから、お金が「銀行預金」としてどんどん流入してくる。民間の資金需要が高まらない中、銀行預金が増えていくなど、銀行にとっては悪夢以外の何物でもない。
目ぼしい運用先が見当たらない以上、銀行に代表される日本の金融機関が、政府が発行する国債に群がっても当然だ。国債金利の低下は、民間の資金需要不足、すなわち不景気の証明なのである。
日本人が(と言うか、日本の新聞が)長期金利の上昇を嘆き、低下を喜ぶということは、日本経済が不景気になることを祝っているのとイコールなのである。どんなマゾヒストなのであろうか。
今後、長期金利が2002年、2003年並に低下した場合、日本経済は確実にマイナス成長に引き戻されているはずなのだ。長期金利の低迷は民間の資金需要不足、すなわち不況を意味することくらい、「日本財政破綻教団」の方々に、いい加減に認識して欲しいと心から思う。
ここまで日本の国債や財政問題について色々と書いてきた。金利変動や民間の資金需要、政府の負債の「種類」、それに日本経済が抱える莫大なデフレギャップ。これらの要因を正しく理解した上で、それでも「日本は財政破綻する」と主張したいのであれば、それは構わない。互いにデータを提示し、議論を深めていけば、日本経済へのより適切なソリューションを構築することが可能になるだろう。
しかし、現実のマスメディアの水準は以下の記事のレベルであり、それに異を唱える経済評論家もほとんど存在しない。
『産経新聞 2009年11月10日「国の借金は過去最高の864兆円! 赤ちゃんにも678万円!」
財務省は10日、国債や借入金などの国の債務残高(借金)が9月末時点で864兆5226億円になったと発表した。前回公表時の6月末から4兆2669億円増加し、過去最大を更新した。10月1日時点の人口で割ると、国民1人当たり約678万円の借金を背負っている計算になる。(後略)』
この恐るべきレベルの低さは、何なのだろか。
本連載の第一回から繰り返し述べているように、政府の負債は「国の借金」などではない。国の借金と言うならば、日本国家が海外に借りている負債額を述べなければならないはずだ。ちなみに、日本は世界最大の対外純資産国であるため、確かに国の借金(対外負債)はあるにはあるが、問題にするような話ではない。
また、日本政府の負債の債権者は、日本国民である。すなわち、お金を貸しているのが日本国民であり、借りているわけではないのだ。
その厳然たる事実を無視し、政府の負債を人口で割った上で「国民1人当たり約678万円の借金を背負っている計算」と書くなど、正直、この記者は義務教育をきちんと受けてきたレベルには到底思えない。さらに「赤ちゃんにも678万円!」などと、事実誤認な見出しをつけ、センセーショナリズムを追求するなど、そのあまりの悪質さに吐き気が込み上げてくるレベルだ。
別に説明が必要とも思えないが、このフレーズを正しく使えば、
「赤ちゃんにも678万円の『資産』がある」
になる。
ちなみに、
「財務省が『国の借金』やら『国民1人あたりの借金』というフレーズを使っているため、それをそのまま借用した」
というのは、言い訳にならない。財務省が事実誤認な報道発表をしているならば、むしろそれを正す記事を書くことこそが、マスメディアの本来の使命だろう。
結局のところ、上記産経新聞の記事を読む限り、日本の新聞社とは、真実、社会に存在する価値が全く無いという確信が強まるばかりなのである。
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