第二十六回 長期金利変動の意味(2/3)
日本人の多くは理解していないが、お金とは「運用」されなければならないものなのだ。銀行の手元に積み上がった我々の預金にしても、お金持ち(個人)の資産にしても同じである。
現在の日本の問題は、溜まりに溜まったマネーの「運用先がない=過剰貯蓄」ということであり、政府の負債残高などではない。無論、国債発行残高でもない。
銀行のケースで言えば、国債の償還期間が来た際に、手元に政府からお金が戻ってきたとして、それを一体どうするというのだろうか。銀行の手元に政府の借金返済によるキャッシュが積み上がっても、金利は産まない。しかし、銀行はそのお金(我々の預金)に対し、金利を支払わなければならないのである。
あり余るマネーの運用難に悩んでいる以上、個人にしても銀行にしても、国債の償還期間が来たらロールオーバー(繰り延べ)をするに決まっている。なぜならば、そちらの方が資金運用上、有利だからだ。
と言うよりも、恐らく政府が「国債を償還させて」と頼んだところで、断られてしまうだろう。何しろ、政府に負債を返済(国債を償還)してもらったところで、そのお金の運用先がないのである。
日本財政破綻教団の人々は、この手の話を理解した上で、財政破綻論を信じているのだろうか。無論、違うだろう。理解しているならば、国債金利の小数点第二位以下が少々変動したレベルで、「長期金利上昇 国債の『投売り』そう遠くない」などの見出しの記事を書くことなど、恥ずかしくてできるわけがない。
少なくとも、国債の94%を国内で消化し、デフレギャップが巨大化している日本にとって、国債金利の上昇が問題になるはずがないのだ。何しろ、長期金利の上昇時、日本政府は日本銀行に発行した国債を買い取らせることが可能なのである。と言うよりも、現時点で長期金利抑制を目的に、日本銀行は国債買取を行っているわけだ。
また、日本国内のデフレギャップが、GDPの8.5%程度にまで達している以上、日本経済に対する処方箋は、デフレギャップを埋める財政支出の拡大と、長期国債買取などによるインフレ・ターゲット以外にあり得ない。日本政府が「デフレギャップを埋める」分だけ国債を発行し、公共事業などに支出する。同時に、日本銀行がインフレ・ターゲットに向け、金融緩和を推し進め、国内に通貨を供給していく。
実は、これだけで日本は90年代以降続いていたデフレから脱却でき、国民経済の健全な成長路線への復帰がかなうのだ。
また、現在の長期金利の低迷は、未来の日本国民のためのインフラ投資を行う絶好の機会でもある。長期金利が上昇した後に、インフラ投資を拡大しようとしても、当然ながら政府の資金調達コストは大きくなってしまう。金利が安く、かつデフレギャップ対GDP比8.5%とう極端な需要不足の現在こそ、政府が大々的に公共投資を行うチャンスなのである。
誤解のないように書いておくが、筆者が「日本財政破綻教団」の人々を笑いものにし、財政支出拡大及び中央銀行の金融緩和推進を主張しているのは、あくまで「日本」だからである。長期金利が世界最低(=民間の資金需要がなく、金余り状態)な上に、国債の94%が国内消化で、かつ100%自国通貨(円)建て。デフレギャップがGDPの8.5%(=極端な需要不足)に達し、さらに長期間のデフレ(何と、1998年以降十年間も)に悩んでいる。これらの要件を満たしている国は、現時点では日本以外に存在しないのだ。
すなわち、日本と同じ解決法を適用するべき国は、世界に一カ国もないということになる。他の国々が日本の真似をしようとした場合、インフレが制御できなくなるか、あるいは政府の対外負債のデフォルト(債務不履行)に追い込まれる羽目になるだろう。
何度も書いて恐縮だが、同じ「政府の負債拡大」という表面的な現象があったとしても、「政府が自国通貨建てで国内から借りた負債」「政府が自国通貨建てで海外から借りた負債」「政府が外貨建てで海外から借りた負債」のどれに該当するかにより、ソリューションはまるで異なってくるわけである。この三つを同じ土俵に並べて語っている時点で、問題認識を根本から間違えているとしか言いようがないわけだ。
認識すべき問題が違う以上、解決策も異なってくる。そういう意味で、基軸通貨国であり、「政府が自国通貨建てで海外から借りた負債」が極端に多いアメリカの処方箋も、他のどの国とも共通化することはできないのである。
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