三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

第十一回 国債とは結局何なのか 前編(2/3)

(1/3の続き)

 さて、国債を海外投資家に保有されるということは、当たり前だが海外に「金利」を支払わなければならないということだ。毎年、一定の金額が国債金利として海外に支払われ、国際収支における「所得収支の赤字」になる。アメリカやドイツの国債は、過半を外国人が保有している。当然ながら、両国政府が支払う国債金利の半分超は、海外に流出してしまうわけだ。

 筆者は別に、
「自国政府の負債(=国債)の金利で、海外投資家を利するな!」
 などと、国粋主義的なことを言いたいわけではない。単に、海外投資家の国債保有が減少して、何が問題なのかさっぱり分からないだけである。

 例えば、海外投資家の国債保有残高激減により、長期金利が急上昇しているというのであれば、まだ分かる。実際、国内に充分な金融資産のない国(要は、日本以外のほとんど全ての国)は、海外向け国債売り出し時に札割れ(国債を売り切れないこと)を連発し、長期金利が上昇していっている。

 この種の国の場合、海外投資家の国債保有が減少するということは、まさしく「デフォルト(債務不履行)」への道ということになり、確かに問題だろう。1998年のロシアにせよ、2001年のアルゼンチンにせよ、海外向けの外貨建て国債、すなわち公的対外債務の支払いが通貨暴落により不可能になり、最終的に破綻したのだ。

 とは言え、日本の場合はこれらの、
「政府の資金調達を、海外に依存している国々」
とは、状況が真逆なわけだ。何しろ、新規発行十年物国債の金利(いわゆる長期金利)が08年秋時点で1.4%台、現在でも1.3%台で推移しているのである。しかも、日本政府が史上最大の景気対策を実施し、国債増発を開始した現時点でも、長期金利はほとんど変動していない。国債札割れや長期金利上昇を制御できない国々から見れば、心底から羨ましい状況なのである。

 もちろん、国債金利が世界最低を維持しているというのは、あまり自慢できた話ではない。国内の家計などが蓄積した金融資産の規模の割に、民間の資金需要が少ないことを意味しているからだ。保有する膨大な資金を現金のまま持ち続けると、民間銀行や生損保に逆ザヤが発生してしまう。結果、邦銀などの機関投資家が運用先に困り、我も我もと国債に群がっているわけだ。

 民間の資金需要が少ないとは、要するに不景気ということだ。だが、国内に運用先がないマネーが溢れている以上、日本破綻原理主義者たちが待ち望む「日本政府のデフォルト」など、今後千年ほど経過しない限り訪れないだろう。


【図11-2 日本国家のバランスシート 2009年3月末日時点速報(単位:兆円)】

20090805_11_02.gif

出典:日本銀行 資金循環統計より筆者作成


※各経済主体の資産は、金融資産のみ。不動産等の固定資産は含まない。また、純遺産合計と対外純資産の額が異なるが、これは四捨五入による誤差のためで、本来は両者の数値は一致する(248.8兆円が正しい数字)。


 図11-2が「日本国家のバランスシート」最新版(2009年3月末 速報版)である。

 図11-1に示した通り、日本国債の六割は「民間銀行」と「生損保」に保有されているが、この両者は図11-2の「金融機関の資産」に該当する。とは言え、邦銀も国内生損保も、別に自前の資金で国債を購入しているわけでも何でもない。国債購入資金の最終的な出し手は、もちろん我々一般の日本国民になる。我々一般の日本国民が銀行に預金し、毎月の保険料を支払い、集められたお金の運用先に困った国内金融機関が、国債を購入することで運用しているわけだ。

(3/3に続く)

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02月04日更新

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三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

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