第二回 国家の負債を整理する(3/3)
ところで、図2-1で整理した国家の負債のうち、IMF(国際通貨基金)の業務範囲となるのは果たしてどれだろうか。IMFは国際間の決済や、為替相場の安定などが円滑に行えるよう、取りまとめることを主たる業務としている。すなわち、外貨建て対外負債の債務不履行の場合は、これは間違いなくIMFの業務範囲となる。具体的には「③政府の負債(外)」及び「④民間の負債(外)」の二つである。
08年10月に破綻したアイスランドは、先進国としては数十年ぶりにIMFに支援を要請した。これは別に①や②の対内債務が返済不可になったからではなく、日本のサムライ債(円建て債務)など、海外から借りたマネーが返済できなくなったためである。特に、民間銀行が海外から外貨建てで借りたお金が、もはやどうにもならない状態に陥り、同国はIMFに緊急融資を求めたのである。すなわち「④民間の負債(外)」の破綻である。
ちなみに、1998年にデフォルトしたロシアや、2001年に破綻したアルゼンチンは、双方共に「政府が海外から外貨建てで借りたお金」を返済できなくなり、破綻した。すなわち図2-1の分類では「③政府の負債(外)」の返済不可に該当するわけだ。
アイスランド、ロシア、アルゼンチンの三カ国に共通しているのは、「海外から外貨建てで借りたお金」を返済できなくなり、破綻したという点だ。結果、三カ国とも揃ってIMFのお世話になることになった。先述の通り、業務の一つが国際決済の安定化である以上、IMFが対外負債をデフォルトした国々を自らの管理下に置いたとしても、これは別に不思議でも何でもない。
不思議なのは、日本の経済評論家などが、
「日本政府は財政破綻し、日本はIMF管理下に置かれる」
などと本気で信じ込んでいる点だ。日本政府の借金のほとんどが「①政府の負債(内)」である以上、万が一、日本政府がデフォルトしたとしても、IMFの出る幕はない。日本政府の債権者は、あくまで日本国内の金融機関と日本国民なのである。そこに「国際決済」を管轄する国際機関の出番はない上に、もしも本当にIMFが口を挟んできたら、それはまさしく内政干渉になってしまう。
そして、十八年連続で世界最大の対外純資産国である日本が、「対外債務」についてデフォルトする可能性は、皆無に近い。特に日本政府は「海外から外貨建てで借りた」負債が、ほぼゼロなのである。そもそも海外から外貨建てのお金を借りていない以上、日本政府が外貨建て対外負債のデフォルトに陥り、IMFのお世話になる可能性などあるはずがない。
率直に言って、IMF管理や対外負債の話をするならば、日本政府の(国内からの自国通貨建て)借金残高など、どうでもよくなるような、とんでもない国が世界には多数存在している。特に、欧州の金融立国の対外負債残高は、日本人では思わず卒倒しそうな水準にまで達しているのである。
【図2-2 2008年日米欧主要国対外債務(単位:十億ドル)/対外債務対GDP比率】

出典:IMF
※対外債務のデータが自国通貨建てのルクセンブルグは1ドル1.3ユーロ、
アイスランドは1ドル127アイスランド・クローナで計算。
金融立国の代表とも言える英国の対外負債は、同国のGDPの四倍にも達している。世界最大の対外純負債国であるアメリカにしても、対外負債対GDP比率は96%に過ぎないのである。英国の対外負債対GDP比率(402%)は、先進諸国としては極端に高い。
とは言え、米英両国など問題にならないほどに対外負債を膨らませてしまっているのがルクセンブルグだ。何と、ルクセンブルグの対外負債は1兆870億ドルと、同国のGDPの二十倍近くにまで達してしまっているのである。
ルクセンブルグの人口は約467,000人である。ということは、日本のマスメディアお得意のフレーズを借用すると、
「ルクセンブルグ国民一人当たりの対外負債は、約2億円です! 同国は、産まれ立ての赤ん坊でさえ、一人2億円を『外国から』借り入れているんですよ!」
ということになる。
しかも日本の「国民一人当たり663万円の借金!」とやらは、
「政府に貸しているのは、日本国民の方だろ! 何で債権者が『一人当たり借金』などという言われ方をしなければならないんだ!」
と、反論することが可能だが、ルクセンブルグの「対外負債」は、間違いなくルクセンブルグ国家(主に同国の金融機関)が、海外から借りているお金である。ちなみに、ルクセンブルグの対外負債対GDP比率1976%は、日本で言えば、外国からおよそ1京円ものお金を借りていることに相当する。
もちろん、ルクセンブルグは、別に対外負債があるばかりではない。きちんと外国に資産も持ち合わせている(=対外資産がある)。バランスシートの一項目(この場合は、対外負債)の額のみに注目すれば、センセーショナルな記事が書き放題になるという例として、取り上げさせてもらったわけだ。
日本のマスメディアの手法は、基本的にこの路線に沿っているのである。
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