三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

第二回 国家の負債を整理する(1/3)

 2009年5月26日、与謝野財務・金融・経済財政担当相が閣議において、日本が2008年末時点で18年連続世界最大の対外純資産国となったことを報告した。2007年末と比較すると、為替相場が二割近く円高に動いたため、円建ての金額は10%弱縮んでしまった。しかし、それでも日本の対外純資産残高は、225兆5080億円と巨額になっている。


『20年末対外純資産残高 円高で3年ぶりマイナス(産経新聞)
http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/090526/fnc0905260943002-n1.htm


 対外純資産であるから、日本が海外に持つ資産残高から、負債残高(海外が日本に持つ資産)を差し引いた金額ということになる。2008年末における日本の対外資産残高は、対前年比15%減の519.2兆円であった。それに対し、対外負債残高は293.6兆円で、この二つの金額の差額が「対外純資産225.5兆円」になるわけだ。

 産経新聞の記事にもあるように、日本の対外資産残高15%減の主因は、08年末までの一年間に円が急騰した結果、円換算の残高が減少したためである。ドル建ての金額で見てみると、日本の対外資産は07年末時点とほぼ同額になる。

 対外純資産残高が世界一ということは、日本が国家として世界一の金持ちということを意味している。先週と全く同じことを書いている気がするが、先週は「国家のバランスシート」における純資産額が世界最大ゆえに日本は世界一の金持ち、というアプローチを採った。今回は、日本が海外に持っている資産と、海外勢が日本に持っている資産(日本にとっては対外負債)の差額が世界一大きい故に、日本は世界一の金持ちと書いているわけだ。

 アプローチこそ違うものの、実は「国家のバランスシートにおける純資産が世界一」と「対外純資産が世界一」とは、全く同じことを言っているのである。概念の話ではなく、統計数字として同一のものなのだ。


【図1-1 日本国家のバランスシート 2008年12月末日時点】(単位:兆円)
http://www.gci-klug.jp/mitsuhashi/2009/05/26/005531.php


 先週掲載した日本国家のバランスシートを、改めて見直して欲しい。一番下の日本国家の対外純資産は、241.1兆円となっている。それに対し、純資産合計は243.5兆円と、若干大きくなっている。先週も説明したように、これは四捨五入の誤差によるものだ。正しい数字(日本の純資産=対外純資産)は、「対外純資産」の241.1兆円の方になる。

 産経新聞の記事によると、2008年末時点の対外純資産残高は225.5兆円となっている。図1-1の「対外純資産」とは、数値が異なってしまっているが、これはなぜだろうか。
実は、財務省と日本銀行の統計手法に若干の差異があり、掲載される数値に時期的な誤差が出てしまうのである。

 基本的には、財務省の数値の方が先行して改訂され、日銀の資金循環統計がそれを追いかける形になっている。日銀から2009年3月末時点の統計が発表される際には、財務省の数値に近づいているはずだ。


 さて、先週から日本国家のバランスシート関連の話を続けているが、これは「政府の借金問題」について考える際に、その前提条件を正しく整理して欲しかったためである。

 国家の純資産のみならず、対外純資産で見ても日本は世界一の金持ち国家なのだ(二つの指標は同一のものだが)。にも関わらず、マスメディアは日本政府の負債のみを大きくクローズアップし、
「財政破綻だ! 財政破綻だ!」
 と騒いでいる。おまけに、その「政府の借金」を「債権者(国民)」の数で頭割りし、
「国民一人当たり663万円の借金!」
 などと煽っているわけである。

 この理由であるが、もちろん一つはマスメディアの報道姿勢に問題があるわけだ。しかし、日本国民が日本国家のバランスシートについて、混乱した理解をしている点も大いに問題だ。

 最近、一番驚いたのは、
「日本政府は財政破綻し、日本はIMF管理下に置かれる」
 などと真顔で言っている「経済評論家」に出会ったときだ。この人は、恐らくアルゼンチンやロシアなどにおける政府債務のデフォルトを念頭に置き、このような世迷言を口にしていたのだと思う。経済評論家がこの水準では、日本国民が混乱しても無理もない。

 日本のマスメディアや経済評論家は「借金」あるいは「債務」について、「誰から借りた?」という根本を無視する傾向がある。お金の流れ(誰が誰に貸したか)はスルーし、金額の大小だけを殊更に取り上げる、良くない性癖を持っているのである。

 実際には、同じ「政府の借金」であっても「誰から借りた?」により、リスクは大きく異なってくる。あるいは「何(通貨)建てで借りた?」も重要なポイントだ。

 ついでに書くと、国家の債務問題では「誰が借りた?」も合わせて気にしなければならない。
「この国は対外負債が巨額です」
 という説明のみを聞き、その国の政府のデフォルトリスクを推し量ることなど誰にもできない。政府が債務超過になる可能性が高まるのは、あくまで「政府が海外から外貨建てで借りた金額が多額」のケースのみである。民間企業などが、どれだけ莫大なお金を海外から借り入れたところで、その国の政府のデフォルトリスクが高まるはずがないのだ。

 そして「国家の対外負債」には、政府の借金、すなわち公的債務と、民間債務が混在している。この辺の整理をつけずに「借金」とひとくくりにする評論家やテレビのキャスターが、日本国内では実に多いのである。

(2/3に続く)

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02月04日更新

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三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

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