三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

08月28日更新

第269回 広島市の大規模土砂災害を受けて(3/3)

 答えがYESだったとすると、有権者(国民)から選ばれる政治家は、
「行政の無駄を削ります!」
「公務員を効率化(非正規雇用への切り替えなど)により、税金を効率的に使います」
 などと叫んだ場合、喝采を浴び、票を獲得できるということになってしまう。
「行政の無駄を削ります。抜本的に行政を改革します」
 などと、中身のない綺麗ごとを主張して当選した政治家たちが、安全保障の強化という「非効率」な政策を推進することができるだろうか。筆者は、不可能だと思う。
 長期に渡りデフレが継続し、日本国民は「節約こそ善」「効率化こそ善」「切り詰めこそ善」、そして「無駄は悪」という、偏った価値観を持つに至った印象を受ける。昔の諺にならえば、貧すれば鈍する、であろう。
 現在、我が国の防衛、防災といった安全保障が危機に瀕している。日本国民を守る安全保障を強化するためには、まずは日本国民が、
「安全保障を強化し、自分たちを守るためには、ある程度の無駄が発生しても当たり前」
 という、普通の認識、つまりは「常識」を取り戻す必要があると思うのだ。国民が無駄を許容する心を持ちえない国で、安全保障を強化することなどできるはずがない。
 もちろん、
「安全保障強化のためには、どれだけコストを費やしてもいい」
という話ではない。要は安全保障強化と、効率化の間のバランスを取らねばならず、現在の日本はバランスが「効率化」「コスト削減」「無駄排除」に傾きすぎてはいまいか? という話なのである。
 読売新聞の報道によると、古屋防災大臣は都道府県による「土砂災害警戒区域」指定が進みやすいように、土砂災害防止法を改正する方針のようである。法改正も良いが、それ以前に、財政均衡主義による行政の人員不足(公務員不足)という根本的な問題を見直さなければ、似たような問題が今後の日本で次々に発生することになるだろう。
 当たり前だが、何をやるにしても「人材」が必要である。そして、人材とは教育を受けた国民が現場で実践を繰り返し、経験を蓄積しなければ育ちようがない。真の意味で有能な人材とは、民間だろうが公務員だろうが、「他所から買ってくる」わけにはいかないのだ。
 高度成長期の日本企業は、「人材は買えない」を分かっていたのか、いなかったのか、自らの「投資」として人材育成に力を入れ、結果的に日本国民の生産性が急激に伸び、日本は高度成長した。逆に、バブル崩壊後、特にデフレ突入後の日本は、人材投資に力を入れず、「即戦力」は買ってくればいい、というスタイルに変わってしまう。
 外資系IT企業で転職を繰り返した筆者が言うのもなんだが、「買える即戦力」など、現実にはほとんど存在しない。よほど運が良くなければ、買い入れた即戦力など、結局は会社のお荷物と化してしまう。
 公務員も同じである。真の意味で住民のことを考え、技術的な研修を受け、現場で苦労を重ね、地域について「警戒区域」「特別警戒区域」指定の判断のための材料を揃えられる「人材」は、一朝一夕には育たないのだ。全ての「人材」は「蓄積」をベースとするのである。
 今後の日本で、相変わらず公務員を増強しようとせず、防災関連の行政職員が不足したことを受け、
「外国人を雇い入れ、行政の業務をお願いしよう」
などと、やるのだろうか? 植民地国家、日本である。
 冗談はともかく、本稿の問題を解決するためには、結局のところ日本国民一人一人が真剣に「現実」と向き合い、データを元に考えなければならないという話だ。筆者が「防災関連の公務員を増やし、現場で経験を積ませよ」と、提言したとして、反射的に、
「公務員を増やすなんて!」
 と、国民の大多数が反発を抱くようでは、我が国の防災面の安全保障は弱体化の一途をたどるだろう。結局のところ、日本国民の「防災」という安全保障を弱体化させたのは日本国民自身であり、さらに問題を解決できるのも日本国民しかいない、という話なのである。

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三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

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