三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

12時55分更新

第265回 税収弾性値(1/3)

 前回、平均概念の潜在GDP(及び平均概念の潜在GDPをベースに計算される需給ギャップ)という「狂った羅針盤」について取り上げた。間違った羅針盤は、もちろん平均概念の潜在GDP以外にも複数ある。例えば、税収弾性値だ。
 
 税収弾性値の話に入る前に、まずは改めて「消費税」という税金について考えてみたい。消費税とは、確かに安定財源である。何しろ、所得(利益)は「景気」の動向で激しく変動するが、消費はそれほど変わらない。
 理由は、消費は先延ばしが困難であるためだ。工場建設を先延ばしにすることは簡単だが、消費を減らしすぎると国民は餓死してしまう。
 というわけで、所得に比べると変動が少ない消費に一定の税率をかけ、社会保障のための安定的な財源とすることは、一見、正当性があるように思える。とはいえ、消費税は安定財源であるが故に、少なくとも二つ、大きな欠陥を抱えているのも確かなのだ。

(1)消費税は景気動向の影響をあまり受けない安定財源であるため、スタビライザー(安定化装置)としての機能を有しない。

所得税や法人税は、失業者や赤字企業は払う必要がない。失業者や赤字企業といった「敗者」の税負担を軽くすることで、彼らの復活を助ける。
 逆に、景気が過熱した時期には累進性が働き、所得が多い人、利益が多い企業の税負担が重くなる。「勝者」の税負担を高めることで、景気を抑制することができるのだ。
 ところが、消費税には上記のスタビライザーとしての機能が全く存在しない(少なくとも日本の現行の仕組みでは)。失業者だろうが、赤字企業だろうが、消費税は満額支払わなければならず、敗者の負担を高める。

(2)消費性向が高い低所得者層の税率が高まり、消費性向が低い高所得者層の税率が低くなる

 例えば、所得が200万円のA氏と、1000万円のB氏のケースで比較してみよう。消費税は10%と仮定する。

A氏:所得 200万円。消費性向80%。消費160万円。消費税16万円。消費税対所得比率=8%
B氏:所得 1000万円。消費性向50%。消費500万円。消費税50万円。消費税対所得比率=5%

上記の通り、低所得者層の消費性向が高所得者層より高いという現実がある限り、税率として見ると、どうしても低所得者層の負担が重くなってしまうのだ。すなわち、消費税には逆累進性があることになる。
「高所得者層の税負担が低く、低所得者層の税負担が高い」
 というわけで、消費税は格差拡大型の税制でもあるのだ。
 消費税(あるいは付加価値税)の格差拡大効果を抑えるために、欧州の多くの国々では軽減税率を適用しているが、正直、泥縄のように思える。安定化装置としての機能を持たず、格差拡大型の税金である消費税は、そもそも「欠陥税」なのである。(もちろん、景気の安定化装置など不要で、敗者の負担を軽くする必要などなく、格差拡大型税制でも構わないという価値観を持つ人にとっては「欠陥税」ではないのだろうが)

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三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

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