三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

04月17日更新

第250回 思想と政策(3/3)

 お分かりだろうが、「生産年齢人口の減少」と「消費需要の縮小」は、現象や結果が真逆になる。生産年齢人口が減少すると、供給能力不足が発生し、「インフレ」が発生する。逆に、消費需要が縮小すると、供給能力が過剰になり、「デフレ」になる。
 「彼ら」は「外国人労働者を増やし、移民を入れ、実質賃金を引き下げ、グローバル企業だけが成長する」という、本来の目的を達成するために、
「生産年齢人口が減少するため、外国から移民を入れる必要がある」
「人口減で消費需要が縮小するため、外国から移民を入れ需要を増やす必要がある」
 という、矛盾するレトリックを巧みに使い分けてくるのである。
 似たような話は、法人税減税でも言える。
 法人税減税を巡るシンポジウムや討論で、筆者が、
「日本の黒字企業は全体の三割に満たない。法人税を無条件で減税しても、経済成長には貢献しない」
 と主張すると、すかさず、
「いや、むしろ余裕がある企業に減税することで、国内の投資や雇用が増える。経済は成長する」
 と、陳腐なトリクルダウン理論で反論されるわけだ。というわけで、筆者が、
「ちょっと待って欲しい。無条件に法人税を減税すると、企業は拡大した純利益を外国への投資や内部留保に回しても構わない。外国に投資をされても、日本国民の雇用や所得には貢献しない。目的が国内の設備投資や雇用の拡大ならば、投資減税や雇用減税にすればいいはずだ。なぜ、無条件の減税なのか」
と突っ込むと、
「いや、法人税を減税することで、外国企業の投資が増える。結果、経済は成長する」
 と、話を変えてくるのだ。
 法人税減税で「国内企業の投資が増えるから成長する」と言ったばかりであるにも関わらず、三十秒で意見を翻し、悪びれない。それどころか、彼らは、
「とにかく、法人税を引き下げさえすれば、経済成長する」
 という詭弁を延々と続けてくる。
 こちらは彼らのレトリックを一つ一つ潰していくわけだが、いつの間にか話がループしていたりするわけなので、始末に負えない。
 最近の安倍総理の法人税減税の理由は、「国際競争」のようである。来月には変わっているかも知れないが、総理は、4月9日の新経済連盟(新経連)の会合において、
「今年さらなる法人税改革に着手する」
と、法人税の実効税率引き下げに改めて意欲を示し。
「(法人税に関し)国際相場から見て競争的なものにしないといけない」
 と、強調したのである。
要するに、法人税を「国際相場から見て安くする」という話だ。我が国はまるで発展途上国のごとく、
「法人税を引き下げ、外国からの投資を呼び込まなければ成長できない」
 というわけである。随分と、自虐的な考え方である。
 そもそも、日本企業すら「儲からない」という理由で投資しない国に、法人税を引き下げたところで外国企業が投資を増やすはずがない。それ以前に、世界最大の対外純資産国で、国内に過剰貯蓄が有り余り、国債金利が世界最低の国が、何故に「外国からの投資」を呼び込まなければならないのか、意味不明である。
 結局のところ、
「経済成長を『どこの市場』で達成するのか」
 という、大本の思想の問題なのだ。
 日本は「グローバル市場」「外国企業」に頼らなければ成長できない、と、自虐的な発想にとらわれていた場合、法人税引き下げや実質賃金切り下げは「正しい政策」になってしまう。
 それに対し、日本は「内需中心に成長できる」と考えているならば、実質賃金はむしろ引き上げるべきで、外国企業を優遇する特区や法人税減税(無条件の法人税減税)は「間違った政策」ということになるわけだ。
 大本の思想が間違っていると、現状について正しい認識はできず、的外れな政策ばかりに邁進する羽目になる。現在の安倍政権の「第三の矢」関連の政策を見る限り、総理の「大本の思想」が歪んでいると断ぜざるを得ないのだ。

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04月16日更新

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三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

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