三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

07月02日更新

第312回 技術と需要(3/3)

 需要こそが、技術発展をもたらすのだ。

 そして、需要を生み出すものは、人間の「意志」になる。決して、カネではない。「成し遂げようとする心」こそが、需要と技術発展をもたらすのである。

『2015年6月26日 河北新報「<ILC>人材確保策検証作業部会を設置」
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201506/20150626_33028.html
 超大型加速器「国際リニアコライダー(ILC)」計画に関する文部科学省の有識者会議は25日、同省であった第4回会合で、計画に必要な人材の確保・育成方策を検証するための作業部会を設置した。
 作業部会では施設の建設や運営に必要な人員と、将来必要となる研究者、技術者の確保と育成の見通しなどを検討する。8月にも初会合を開き、2015年度内の報告を目指す。
 有識者会議としての中間的な取りまとめも行った。ヒッグス粒子以外の新粒子が発見される可能性の見極めや、コスト増のリスク低減に向けた積算見通しの明確化など、3項目を文科省に提言することを決めた。』

 6月25日、ILC計画に関する有識者会議が開催された。例により、国内の大手紙は全く報じていない。建設予定地の地元紙である、河北新報のみが報じた。
 ILCプロジェクトを日本で実施するか否かの決断は、最終的には日本政府(というよりも政治家)に委ねられている。現時点では、ボトルネックが二つある。
 一つ目は、過去に「日本主導」で国際的なプロジェクトを推進した経験がないという点だ。日本は他国が作った国際プロジェクトの枠組みで成果を出すことは得意なのだが、国際的枠組みを作った事例はない。
 ILCに関連する主な官庁は、文部科学省、経済産業省、国土交通省、そして外務省(外国とのやり取りがあるため)、取りまとめが内閣府なのだが、各省庁が連携して「国際プロジェクト」の枠組みを作ったことは、少なくとも「戦後」の日本は一度もないのである。
 そして、二つ目は、言うまでもないが「財務省」だ。財務省が例により予算を出し渋り、話がなかなか前に進まないのである。
 現在、中国が五年後に建設開始という事で、円周70キロの回転型粒子加速器のプロジェクトを進めようとしている。回転型であるため、直線型のILCに比べると、技術レベルは落ちる。しかも、未だに設計もスタートしていない段階なのだが、日本がモタモタしていると、中国の粒子加速器が「国際プロジェクト」として始まってしまう。そうなると、「日本人を含む」世界中の科学者、技術者は中国の加速器の国際プロジェクトに参加する事態になってしまうのだ。
 さて、日本がILCを建設したとして、いかなる派生技術が誕生し、発展するのか、現時点では誰にも分からない。とはいえ、CERNのLEPやLHCによりWEBやグリッドが発展したのは紛れもない事実だ。
 日本は果たして、人類史上最大の電子エネルギーを産み出すILCを「建設する意志」を示すことができるのだろうか。「日本」が意志を示すためには、日本国民がまずはILCについて理解しなければ、どうにもなるまい。
 ILC国際推進組織のリン・エバンス代表は、15年1月14日時点で、
「来年度中に日本政府が決断することを期待している」
 と、語っている。中国のプロジェクトの件もあり、我が国に時間はそれほど残されていないのだ。
 ちなみに、ILCを岩手北上に建設することが決まったとして、我が国が負担しなければならない金額は、高々7000億円である。ILCの経済効果は、派生技術や技術者居住のためのインフラ整備等を除いても、4兆円になると野村総研は試算している(産業連関表から)。
ここでいう「経済効果」とは、もちろんGDP(需要)の拡大効果のことだ。派生技術を含めると、効果が「数十兆円」規模に達するのは間違いない。
経済とは、「モノ」「ヒト」「技術」の三要素で構成されている。(「モノ」「ヒト」「カネ」は経済ではなく経営の三要素)ILC建設は、我が国の経済の三要素のうち、少なくとも「ヒト」と「技術」を強化することになる。ILCプロジェクトは、日本の「経済力」を間違いなく高めるのだ。
それにも関わらず、短期的な「予算」をケチり、ILC建設のチャンスを喪失した日には、さすがの筆者も日本国に絶望したくなる。
 絶望的な未来を回避するためにも、是非とも本連載読者の方々には、ILCという「夢のあるプロジェクト」、つまりはデフレという需要不足に悩む現在の日本に相応しいプロジェクトが存在するという事実を知って欲しいのである。

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三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

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