三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」

08月27日更新

第320回 エアコン経済(3/3)

インフレ目標2%は、どこに消えたのか。
 ミクロ的に見た正しいデフレ脱却は、例えばインフレ率が2%で推移し、名目賃金が3%のペースで上昇し、実質賃金が1%増の状況が継続することになる。「物価が下がり、実質賃金がプラス化した」ではデフレ脱却にはならない。
 上記「インフレ率+、名目賃金がそれ以上の+、結果、実質賃金が+」を実現するためには、いかなる環境が必要だろうか。もちろん、マクロ的にはインフレギャップ(総需要>供給能力)、ミクロ的には人手不足である。
 人手不足の環境で「十分な給与」が支払われる状況になれば、上記の環境に近づく。例えば、介護分野や医療分、インフラ整備野など、需要が拡大し、人手不足が深刻化しようとしている産業に、「給与を高める」形で政府がおカネを使うべきなのだ。
 ところが、現実の安倍政権は公共事業を増やさず、介護報酬は削減(!)、次は医療費抑制を狙っているというわけで、これでデフレ脱却できたら「日本史上最大の奇跡」になる。
 しかも、日本国民のデフレマインドは深刻で、当座のデフレギャップを埋める補正予算は当然として、中長期的に「安定的」な消費拡大には、なかなか踏み込まないだろう。消費税増税という恒常的な「負の財政出動」により、国民の消費マインドを叩き落とした以上、継続的な財政政策も必要になる。
 すなわち、消費減税か所得減税(特に、消費税の影響をまともに受ける中間層から貧困層)という「継続的」な消費立て直し策だ。
 難しことは言っていない。
 補正予算で短期の需要不足を埋めると同時に、中長期的に「安定的」に国民が消費を増やす政策を採れという話に過ぎない。これは、ごく「普通」の経済政策である。
この種の普通の政策を打てなくなってしまったからこそ、我が国は長期のデフレーションに苦しめられ、国民が貧困化していっているわけだが、それ以前に、
「エアコンの動向に期待しましょう」
といった、国民を舐めているとしか思えない言い訳を続けるのは、いい加減にやめて欲しい。昨年の「天気のせい」「自然災害のせい」は、正しかったのか?
 6月の実質賃金が大幅にマイナスになったことを受け、日本経済新聞などの大手紙は、
「単にボーナスの支払いが後にずれたため、実質賃金や名目賃金がマイナスになっているだけである。心配いらない」
と、印象操作に必死だが、筆者が問題にしているのはボーナスを含む現金給与総額ではない。「きまって支給する給与」である。
 もちろん、7月の毎月勤労統計調査で「実は、ボーナスは後にずれたのではなく、そもそも払われる予定がなかった」場合、とんでもない話になってしまうが、とりあえず数字が判明していないため、ボーナスを含む現金給与総額の話は置いておく。
先述の通り、6月の実質賃金確報値において、筆者が注目している「きまって支給する給与」、すなわちフリードマンのいう「恒常所得」が、対前年比マイナス0.1%となってしまった。などと書くと、
「マイナス0.1%ということは、前よりは下げ幅が縮小し、改善しているのでは」
などと、感想を抱く読者が少なくないだろう。確かに、実質賃金(きまって支給する給与)の下げ幅は縮小してきている。とはいえ、指数の方を見れば分かるが、これは、
「2014年消費増税で実質賃金が大きく下落した時点と比較し、下げ幅が縮まった」
という話に過ぎないのである。
一年前の実質賃金が「高い」状況で、対前年比マイナス0.1%ならば、まだしも分かる。とはいえ、現実には消費税増税で実質賃金が大きく下げた一年前と比べ、「未だ、実質賃金が下がっている」のだ。
しかも、実質賃金の下げ幅が縮まった理由の一つが、消費者物価指数の上昇率が低下したことなのであるから、笑うしかない。繰り返しになるが、インフレ目標2%は、どこに消えたのか。
要するに、安倍政権の「総需要」「実質賃金」を重要視しないデフレ対策は、失敗したのだ。今後、安倍政権が正しい需要創出策に転じない限り、我が国は、
「貧困化している日本国民」
どころか、
「ひたすら、どこまでも貧困化していく日本国民」
の状況に至るだろう。

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三橋貴明(みつはし・たかあき)

三橋貴明(みつはし・たかあき)

1994年、東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。
外資系IT企業ノーテルをはじめ、NEC、日本IBMなどに勤務した後、2005年に中小企業診断士を取得、2008年に三橋貴明診断士事務所を設立する。現在は経済評論家、作家として活躍中。
インターネット掲示板「2ちゃんねる」での発言を元に執筆した『本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖』(彩図社)が異例のベストセラーとなり一躍注目を集める。同書は、韓国の各種マクロ指標を丹念に読み解き、当時日本のマスコミが無根拠にもてはやした韓国経済の崩壊を事前に予言したため大きな話題となる。
その後も、鋭いデータ読解力を国家経済の財務分析に活かし、マスコミを賑わす「日本悲観論」を糾弾する一方で、日本経済が今後大きく発展する可能性を示唆し「世界経済崩壊」後に生き伸びる新たな国家モデルの必要性を訴える。
崩壊する世界 繁栄する日本』(扶桑社)、『中国経済がダメになる理由』(PHP研究所)、『ドル崩壊!』 など著書多数。ブログ『新世紀のビッグブラザーへ blog』への訪問者は、2008年3月の開設以来のべ230万人を突破している(2009年4月現在)。

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