増谷栄一のアメリカ経済情勢ファイル

米財政、赤字解消の糸口見えず

-今後10年間で880兆円に-

【2010年3月9日(火)】 - 先週末、CBO(米議会予算局)が発表した最新の財政赤字見通しによると、今後10年間(2011-2020年)の財政赤字の累計額は9兆7610億ドル(約880兆円)に達することが分かった。

 これは大統領の政策がすべて実施された場合を前提とした大統領予算ベースの予測だが、2月1日にホワイトハウスが発表した2011会計年度(2010年10月-2011年9月)予算で明らかになった同期間中の赤字累計額8兆5320億ドル(約768兆円)を、さらに1兆2290億ドル(約111兆円)も上回っている。対GDP比では5.2%となり、政府予測の4.5%を0.7%ポイントも上回る。

 CBOでは、このほか、現行の税制と予算のうち政策的経費にあたる財政支出が今後も変わらず一定に推移すると仮定した標準予測も発表しているが、それとの比較でも3兆7770億ドル(約340兆円)も上回っており、米国の財政赤字の猛威は治まりそうもない。

 エコノミストの多くは、2007年のリセッション(景気失速)以降、景気の悪化で米国の財政赤字は対GDP比で4%を下回らない状況が続いており、これ以上の財政赤字は金利上昇圧力を高め、民間投資を萎縮させ、結果的には国民の生活水準を悪化させると警告しているほどだ。

■2018年度から再び1兆ドル超=政府予測より2年早く

 特に、米国の財政赤字はホワイトハウスとCBOのどちらの予測でも、2014年度にそれぞれ7060億ドル(約63兆5000億円)と7240億ドル(約65兆2000億円)で底を打ち、2015年度から再び財政赤字が増加し始める。

 しかし、ホワイトハウス予測では、2020年度に1兆0030億ドル(約90兆円)と、再び1兆ドルを超えるが、今回のCBO予測では2018年度に1兆0010億ドルと、政府予測より2年も早く1兆ドルを超えるとしている。

 ちなみに、2009年度の財政赤字実績はどちらも1兆4130億ドル(約127兆円、対GDP比9.9%)だが、2010年度は、CBOは1兆5000億ドル(約135兆円、対GDP比10.3%;ホワイトハウス予測は1兆5560億ドル)、2011年度は1兆3410億ドル(約121兆円、同8.9%;同1兆2670億ドル)と、2011年度まで単年度ベースの財政赤字は1兆ドルを超す。

 この結果、公的債務残高の対GDP比率も大幅に上昇する見通しだ。2009年度実績では、53%(GDP14兆2360億ドルに対し、債務残高7兆5450億ドル)だったが、今回のCBO予測では2020年度に90%(GDP22兆5440億ドルに対し、債務残高20兆2980億ドル)に達し、ホワイトハウス予測の77.2%を、約13%ポイントも上回る。

 これは中国を含めた投資家の米国債の購入額が急増することを意味し、その結果、国債の純利払い費用も2010年度の2090億ドル(約19兆円、対GDP比1.4%)から2020年度には9160億ドル(約82兆円、同4.1%)と、約5倍に膨れ上がり大きな財政圧迫要因となる見通しだ。

■税収予測が明暗分ける

 政府予測とCBO予測で明暗を分けたのは、税収予測の違いだ。CBO予測の方が政府予測よりも税収は悲観的に見ている。これはCBOの方が景気回復ペースを控えめに見ているため、税収ペースも低くなっているからだ。

 ホワイトハウス予測の2011-2020年度のGDP累計額は196兆5850億ドルなのに対し、CBO予測はそれより4.5%低い187兆7190億ドルとなっている。また、2020年度のGDPもホワイトハウス予測では24兆0670億ドル(約2166兆円)に対し、CBO予測では22兆5440億ドル(約2029兆円)と6.3%も下回っている。

 この結果、税収も政府予測では2011-2020年度の累計額は37兆2680億ドル(約3350兆円)に対し、CBO予測では35兆4290億ドル(約3190兆円)と、4.9%も少なくなっている。

■減税政策延長など、さらに3兆ドルの赤字増加へ

 オバマ大統領は、前のブッシュ政権が2001年と2003年に実施した減税政策が今年末に期限切れとなるため、高額所得者への減税を除いた減税政策の一部延長とAMT(代替ミニマム税)の軽減措置の継続を検討している。しかし、今回のCBO予測ではこれらの措置が取られた場合、2011-2020年度に財政赤字はさらに3兆ドル(約270兆円)も増えると警告している。

 このため、同大統領は2月18日に、18人のメンバーからなる超党派の国家財政責任改革委員会を設置し、5年以内に単年度ベースの財政赤字額を対GDP比3%にまで引き下げる計画案の策定を急いでいる。

 しかし、同委員会の共同委員長は野党・共和党のアラン・シンプソン元上院議員であることや、11月の中間選挙を控えているだけに財政赤字の特効薬と見られている増税策に打って出ることは難しい情勢だ。(了)

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増谷栄一(ますたに・えいいち)

増谷栄一(ますたに・えいいち)

経済ジャーナリスト。北海道生まれ。早稲田政経学部卒。
1988年ジャパンタイムズ入社、編集局記者として世界100カ国の特集記事を制作。
1992年日経国際ニュースセンター編集室総合編集部次長を経て、1996年~2000年まで
米国経済通信社ブリッジ・ニュース東京特派員として日米の政治、経済、マーケットを取材。
1998年から2年間、ニューヨーク、ワシントン支局でアメリカのマーケット、重要経済統計、米政府、
財務省、米議会などをシニア・エディターとして取材。G7財務相・中央銀行総裁会議を3度取材。
その後、米国通信社ダウ・ジョーンズ通信社のコピー・エディターを経て、2001年1月から2004年9月まで
AFX通信社(AFP通信の経済ニュース部門)東京特派員。
2004年4月から2007年3月末までライブドア・ニュース外報部チーフ。
2007年11月まで英米金融情報サービス、トムソン・ファイナンシャルの起債担当記者。
2009年2月から経済ニュースサイト「NNAヨーロッパ」の編集長としてロンドンに駐在中。

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