
オバマ大統領、銀行改革に本腰=リスク投資制限狙い
-2月G7会合で国際的な議論へ-
【2010年1月23日(土)】 - オバマ大統領は21日、ホワイトハウスで演説し、世界の主要国の金融機関を震撼させる銀行改革案の概要を明らかにした。これを受けて、欧米の株式市場では金融株が一斉に売られ、特に、米市場ではダウ工業株30種平均が週末までに3日続落となり混乱が続いた。
これは、オバマ大統領の演説直後の米株式市場で、提案内容の詳細はまだ明らかにされていないにもかかわらず、大銀行の解体が進むという疑心暗鬼が一気に広がったためだ。この日のダウ平均は213ドル(2%)安と、約3カ月ぶりの大幅な下落となり、金融株の指標となっている大手行JPモルガン・チェースは6.6%も下落した。
週末の22日もダウ平均は216.9ドル(2.1%)安の1万0173ドルで引け3日続落となった。ゴールドマン・サックスは4.2%安、バンク・オブ・アメリカも3.68%安と、下げが止まらない状況だ。一方で、22日の欧州市場でも欧州各国の金融規制当局が米国に追随する恐れがあるとの憶測が広がり、米国と同様、金融株が大幅に値を下げた。
■英財務相、米国追随を否定
ロンドンのシティ(金融街)でもロイヤル・バンク・オブ・スコットランド・グループ(RBS)やバークレイズなどの大手行はいずれも1日だけで株価が8%も急落するなど、米国発の金融改革の狼煙はあっという間に全世界を駆け巡った格好だ。
英国の場合、ゴードン・ブラウン労働党政権のアリスター・ダーリング財務相は独自路線を歩むことを主張し、米国追随の考えを否定している。しかし、最大野党の保守党は今年の選挙で勝利した場合には米国と同様な金融規制策を導入すると見られている。
いずれにせよ、米国の金融改革提案の詳細が不透明のため、英財務省は来週にも2月5-6日にカナダ・イカルイトで開かれるG7(先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議)の準備のため、ロンドンを訪問する米財務省の高官と会談し銀行改革の詳細を聴取するもようだ。
さらに、2月のG7会合でもこの問題が議論される見通しだ。ドイツの財務省もオバマ大統領の銀行改革案については「国際的な場で協議されるべきだ」との声明文を出している。
■オバマ大統領、銀行の無責任さを痛烈批判
オバマ大統領は、21日の記者会見で、「中小企業にお金を貸せないとか、クレジットカードの低金利を続けられないとか、(信用収縮の危機時に税金投入でまかなわれた)緊急融資の資金を納税者に返せないとか主張している、まさにそういう銀行がいま、過去最高の利益を上げているのを見るにつけ、また、敢然と改革に取り組んでいるはずの銀行の一部で、再び、昔の通りに戻ろうとしているのを見ると、金融システム改革に対する私の決意は一段と強くなった。このような(銀行の)無責任さこそが、まさしく金融改革を必要とさせている」と、銀行改革の必要性について熱っぽく語っている。
オバマ大統領の銀行改革は銀行規模に一定の枠をはめることで、"too big too fail"(大きすぎて潰せない)"という、2007-2008年にかけて大銀行に税金を投入して救済したような過去の過ちを二度と繰り返さないこと、また、大銀行の経営危機が経済全体を危機に陥れるのを未然に防ぐ狙いがある。
政府高官によると、このため、大手銀行は銀行本来のリテールを中心とした商業銀行として事業を選択するのか、あるいは、自己勘定によるMBS(不動産担保証券)などへの金融投資やM&A(企業の買収・合併)で巨額の利益を稼ぐヘッジファンドやプライベートエクイティ(PE)ファンドの保有やそれらへの投資、自己売買目的の投資銀行業務といったトレーディング事業を選択するのか、どちらかを選択することが求められている。
また、この銀行改革を支持しているオバマ政権で経済回復諮問会議議長を務めるポール・ボルカー元FRB(米連邦準備制度理事会)議長は、クリントン元大統領が1999年に規制緩和の一環として廃止したグラス・スティーガル法を復活させるよう議会に働きかけている。
同法は1929年の世界大恐慌のあとの1933年に導入された法律で、個人の預金を保有している商業銀行が証券会社のような株式や社債の引き受け業務や株式売買を禁止し、また、投資銀行に対しても預金の受け入れを禁止することで、銀行業と証券業を分離することを目的としていた。しかし、2007-2008年の金融危機を受けて、米議会では昨年12月に、同法案の復活法案が上下両院にそれぞれ提出されているところだ。
■政府、大銀行解体は否定=ファイアーウォール規制強化へ
ただ、オバマ大統領の銀行改革は、究極の措置である銀行解体までは求めていないとの見方もある。単に銀行の規模を小さくするための解体というよりも、個人の預金と自己勘定の資金との間にファイアーウォールを築くという考えだ。これは預金者のお金を使ってリスクが高い投機的な投資銀行業務を禁止するのが目的だ。
つまり、政府は、顧客の利益を上げるための投資銀行業務は認めるが、セーフティーネットで保護されている預金銀行が自己勘定による投資(自己売買)業務を一緒に行うのは不適切として、そうした自己売買を一切禁止するというものだ。
ティモシー・ガイトナー財務長官も21日、米公共放送のPBSとのインタビュー番組の中で、「この提案は大銀行の解体を狙ったものではない」と明言している。その上で、同長官は「将来の金融システムの安定を脅かす恐れがあるリスク投資を制限するのが目的だ」と述べている。
さらに、同長官は「セーフティーネットを利用できる特権を持っている銀行はリスク投資にお金を使うべきではない」とも指摘している。
また、政府は商業銀行が自前でヘッジファンドやPEファンドを保有して資金を運用したり、外部のヘッジファンドやPEファンドに資金を投資したりすることも禁じる方針だ。
こうしたファイアーウォール規制を受ける大手商業銀行としては、シティグループやバンク・オブ・アメリカ、JPモルガン・チェース、ウェルズ・ファーゴなどが想定されている。特に、投資銀行のメリルリンチを買収したバンク・オブ・アメリカの場合、ディスカウント・ウィンドウ(FRBが金融機関に直接資金を供給する制度)が受けられるのは商業銀行だけとなるため、メリルリンチの買収を元に戻す必要性が出てくる可能性もあるようだ。
他方、大手投資銀行ではゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーなどがMBSなどへの自己勘定による投資を続けるためには、商業銀行の資格を放棄することが求められる。これは2008年の金融危機時にFRBの緊急融資制度を利用できるようにするため、急きょ、FRBに商業銀行の登録を行っているからだ。
逆に言えば、これらの投資銀行がFRBのディスカウント・ウィンドウの利用を継続させたい場合には、ヘッジファンドやPEファンドを手放すほか、自己売買を制限する必要が出てくる。
また、現在は、ある銀行が他の金融機関を買収する場合、全国の総預金残高の10%を超えるような買収は禁止されているが、これに似た案として、政府では一つの銀行のリスク投資額が全国の総預金残高の10%を超えないように上限を設定したい考えだ。政府としては議会が独自に検討している金融規制改革法案に政府の今回の提案を盛り込むよう働きかけていく考えだ。(了)
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