増谷栄一のアメリカ経済情勢ファイル

オバマ大統領、中小企業支援強化などを柱とした雇用対策を提案

-約18兆円の財源は金融安定化法のTARP活用で-

【2009年12月10日(木)】 - オバマ大統領は8日、ワシントンでの講演で、追加の雇用対策として、中小企業に対する新たな税制優遇措置の導入やインフラ整備などの公共投資、環境関連投資を拡大させる方針を明らかにした。

 同大統領は講演の中で、雇用を促進する分野として3分野を挙げ、その一つが中小企業の事業活動の拡大による雇用の促進だ。そのほかは、インフラ投資とエネルギー効率化の分野だ。

 特に、中小企業の支援を強化する狙いは、中小企業の税負担を緩和させ、また、投資家による中小企業の株式取得を促進させることにより浮いた資金で設備投資を活発化させ、同時に雇用を促進させるというものだ。

 この日、オバマ大統領が提案した中小企業向け税制優遇措置で目新しいのは、従業員を新規に雇用した中小企業に対し、2010年末までソーシャル・セキュリティ・タックス(現行税率は雇用主も被雇用者も6.2%)などの雇用税を減税するというものだ。

 それ以外では、現行の措置の延長や補強が主なもので特に目新しいものはない。一つは、今年2月に議会で成立した総額7870億ドル(約69兆円)の景気対策に盛り込まれた、最大25万ドル(約2200万円)までの設備投資に対する加速度償却を2010年末まで延長するというもの。

 もう一つは、新規の設備投資を進めるために、中小企業が増資などで必要資金を調達する場合、投資家がその中小企業の株式を2010年に取得し、5年間保有したあと売却する場合には、キャピタル・ゲイン(譲渡益)税の税率を1年間ゼロにするというものだ。

 また、減税措置ではないが、中小企業の資金調達を支援するため、2010年に銀行借り入れに対し政府保証を与えることや米国の中小企業庁(SBA)が提供する融資の利用料をゼロにするという措置も挙げている。

 他の分野での雇用促進策は、インフラ投資の分野では道路や橋梁、交通施設、港湾施設などのインフラに対する公共投資を最大500億ドル(約4兆4000億円)拡大する。エネルギー効率分野では、省エネを進める世帯に対し政府が投資資金の一部を還付するほか、民間セクターによる再生エネルギーなどのクリーン・エネルギー関連機器のメーカーに対する既存の政府支援制度の拡充を挙げている。

 先週末(4日)、労働省が発表した11月の新規雇用者数は前月比11万人減と、リセッション(景気失速)が始まった2007年12月以来約2年ぶりの小幅減少となったものの、23カ月連続の減少が続いている。

 また、2007年12月当時と比べると、雇用者数は716万人減少する一方で、失業者数は790万人増の1540万人となっており、リセッションが始まったころの水準(失業者数750万人、失業率4.9%)までにはまだまだだ。

 また、半年以上就職できない失業者数が前月比29万3000人増の590万人と依然、過去最高を更新中となっている。これは、失業者全体の3分の1以上にあたる38.3%で、10月よりも2.7%ポイントも上昇し、依然として過去最高の水準が続いている。

 オバマ大統領も今回の雇用統計の結果については、雇用市場の今後の見通しについては、「今回の良い結果が今後も続くことを期待するが、道のりはまだ遠い」と述べ、懸念を示している。

 ホワイトハウスでは、オバマ大統領が提案した雇用促進対策の財源として、昨年10月に議会で成立した金融安定化法の柱である総額7000億ドル(約61兆6000億円)の不良資産救済制度TARP(Troubled Asset Relief Program)を活用する準備を進めている。

 TARPは12月9日現在で、まだ、3095億ドル(約27兆2000億円)残っていることから、政府ではTARPから約2000億ドル(約17兆6000億円)を借り入れる方針だ。この2000億ドルはTARPの節減で浮いた金額と一致する。

 政府は、今後、TARPを活用した雇用対策の原資のあり方をめぐっては、議会との話し合いが必要になるとしているが、野党の共和党はTARPで節約された資金は、まず、国の財政赤字の縮小に向けられるべきだと主張しており、曲折が予想される。

 これに対し、オバマ大統領は講演の中で、経済の緊急性を考慮して、まず、雇用対策にTARPの余剰資金の利用のあとで、財政赤字の削減に取り組むべきだとしている。特に、財政赤字の拡大については、景気刺激策によるものというよりも、過去数年間にわたって、地元の選挙区向けの政策を実施するために無思慮に財政の拡大を許してきたことが原因だとし、暗に共和党を批判している。

 また、同大統領は、今回の提案は始まりに過ぎないとし、今後、議会に対し、失業給付の適用期間の延長や長期失業者に対する医療保険など既存の雇用対策の延長を求めていくと述べている。(了)

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増谷栄一(ますたに・えいいち)

増谷栄一(ますたに・えいいち)

経済ジャーナリスト。北海道生まれ。早稲田政経学部卒。
1988年ジャパンタイムズ入社、編集局記者として世界100カ国の特集記事を制作。
1992年日経国際ニュースセンター編集室総合編集部次長を経て、1996年~2000年まで
米国経済通信社ブリッジ・ニュース東京特派員として日米の政治、経済、マーケットを取材。
1998年から2年間、ニューヨーク、ワシントン支局でアメリカのマーケット、重要経済統計、米政府、
財務省、米議会などをシニア・エディターとして取材。G7財務相・中央銀行総裁会議を3度取材。
その後、米国通信社ダウ・ジョーンズ通信社のコピー・エディターを経て、2001年1月から2004年9月まで
AFX通信社(AFP通信の経済ニュース部門)東京特派員。
2004年4月から2007年3月末までライブドア・ニュース外報部チーフ。
2007年11月まで英米金融情報サービス、トムソン・ファイナンシャルの起債担当記者。
2009年2月から経済ニュースサイト「NNAヨーロッパ」の編集長としてロンドンに駐在中。

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