増谷栄一のアメリカ経済情勢ファイル

米FRB、総額76兆円の消費者・住宅ローン市場対策を発表=量的金融緩和へ

-市場、来年1月までにゼロ金利を予想-

【2008年11月26日(水)】 - FRB(米連邦準備制度理事会)は25日、クレジットカードなどの消費者ローンと住宅ローンの金利の低め誘導と借り入れをスムーズにすることを目的とした総額8000億ドル(約76兆円)のクレジット市場対策を発表した。

 これから年末商戦を迎える小売業界にとって、個人消費を盛り上げるために欠かせないクレジットカードや自動車ローン、学生ローンといった生活に密着した消費者ローンの利用を刺激しようというもの。リセッション(景気失速)を乗り切らなければならない米国経済を金融面からテコ入れする措置といえる。

 一部の金融専門家は、FRBによるこの一連の金融措置は、政策金利の引き下げという伝統的な金融政策の手法による経済への波及効果が弱まっている中で、量的金融緩和による効果シフトしたものと見ているようだ。

 ただ、市場では、今後、FRBは日銀が1999年2月から2001年3月まで実施したゼロ金利政策のように、政策金利を現行の1%から来年1月までにはゼロ%にまで引き下げると見ている。

●消費者ローン市場の活性化に19兆円投じる

 クレジット市場対策は3本の柱からなっている。最初の柱は、2000億ドル(約19兆円)の資金を消費者ローン市場に投入するものだ。これはクレジットカード・ローンや自動車ローン、学生ローンの消費者ローンを参照債権(担保)として発行されているABS(資産担保証券)を保有している銀行系のSIV(仕組物投資ファンド)などの投資家に資金を融資するものだ。

 具体的には、ニューヨーク連銀がTALF(Term Asset-Backed Securities Loan Facility)と呼ばれる貸出制度の下で、高格付けの消費者ローンや政府の中小企業局が債務保証している中小企業ローンの債権を裏付けとして発行されたABSを保有している投資家にノンリコース(ローン返済ができなくなったときに、担保になっている資産以外に債権の取り立てが及ばない非遡及型融資)の融資を行う。

 これによって、FRBは銀行などの投資家のバランスシートに余裕を持たすことができれば、これらのABS債券に対する需要が喚起されて債券売買が活発化。その結果、自動車やカードなどのローン金利も下がって消費者は借りやすくなり、資金余裕が生まれた銀行も消費者ローンを増やすようになるという見方だ。

 同制度は来年2月までに実施に移され、来年末までで終了する見通しとなっている。しかし、FRBはその後の延長は可能としている。

●将来、消費者ローンABSからRMBSやCMBS債券に拡大へ

 また、FRBによると、今後はTALF制度の対象債券はCMBS(商業用不動産モーゲージ担保証券)やRMBS(住宅ローン担保証券)にも拡大される可能性があるとしている。

 ヘンリー・ポールソン財務長官もこのTALFの2000億ドルについては、「出発点に過ぎない」としており、今後、拡大する可能性がある。

 政府は、FRBがTALFを利用した融資が将来、焦げ付きいた場合のリスクをカバーするため、金融安定化法の柱である総額7000億ドル(約65兆円)の不良資産救済制度(TARP)から200億ドル(約1兆9000億円)を拠出する考えだ。

 しかし、実際には7000億ドルのうち、議会の承認なしで使える3500億ドル(約33兆2500億円)からの拠出となるため、今後、TALF制度の適用対象を拡大していくためには、今回の政府による200億ドルの損失補てんでは不十分で増額する必要がある。

 3500億ドルのうち、すでに、2500億ドル(約23兆7500億円)は銀行や証券会社、S&L(貯蓄貸付組合)などの金融機関への資本注入、世界保険最大手のAIG救済に400億ドル(約3兆8000億円)、シティグループの救済に200億ドル(約1兆9000億円)、そして、今回のFRBへの200億ドルで枠が残り少なくなる。

 このため、7000億ドルの残り半分の3500億ドルの利用を求めて、今後、政府は議会の承認を得ることが必要になってくると見られている。

●政府系住宅金融3社保証のMBS買い取りで47.5兆円と投入

 2番目の柱は、FRBは住宅ローン金利を引き下げ、借り入れをしやすくするために、ファニーメイ(米連邦住宅抵当金庫)とフレディマック(米連邦住宅貸付抵当公社)、ジニーメイ(政府住宅抵当公庫)の政府系住宅金融3社が債務保証しているMBS(不動産担保証券)を、5000億ドル(約47兆5000億円)を上限に買い取る制度を創設した。

 これはMBS市場を活性化させ、住宅ローンの金利を引き下げる狙いがある。これまでのFRBによる利下げにもかかわらず、住宅ローン金利はそれほど下がっていないのが実態だ。30年固定金利の住宅ローン金利の平均は24日時点で5.98%と、2007年の平均5.95%とほとんど変わっていない。

 最後の3本目の柱では、FRBはこれらファニーメイとフレディマック、さらに、住宅ローンの融資を行っている金融機関に低コストの資金を提供している全国12カ所の連邦住宅貸付銀行(FHLB)が起債する社債を来週から始まる一般競争入札を通じて、1000億ドル(約9兆5000億円)を限度に購入するとしている。

 金利先物市場では、FRBによるこれらの一連の措置は消費者ローンや住宅ローンの金利低下を促す措置と見ており、政策金利であるFF(フェデラル・ファンド)金利の誘導目標は今後、日銀が過去に実施したゼロ金利政策に向かうとの見方を強めている。

 25日のFF金利先物市場では、FRBの今回の対策は凍結状態となっているクレジット市場を動き出させるための措置と見ており、今後、銀行の貸し渋りが緩和し、銀行間市場の金利も低下していくと予想している。

 来年1月物のFF金利先物は12月15-16日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で政策金利が1%から0.25%へ、0.75%ポイント引き下げられる確率を前日の12%から38%に一気に引き上げている。(了)

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増谷栄一(ますたに・えいいち)

増谷栄一(ますたに・えいいち)

経済ジャーナリスト。北海道生まれ。早稲田政経学部卒。
1988年ジャパンタイムズ入社、編集局記者として世界100カ国の特集記事を制作。
1992年日経国際ニュースセンター編集室総合編集部次長を経て、1996年~2000年まで
米国経済通信社ブリッジ・ニュース東京特派員として日米の政治、経済、マーケットを取材。
1998年から2年間、ニューヨーク、ワシントン支局でアメリカのマーケット、重要経済統計、米政府、
財務省、米議会などをシニア・エディターとして取材。G7財務相・中央銀行総裁会議を3度取材。
その後、米国通信社ダウ・ジョーンズ通信社のコピー・エディターを経て、2001年1月から2004年9月まで
AFX通信社(AFP通信の経済ニュース部門)東京特派員。
2004年4月から2007年3月末までライブドア・ニュース外報部チーフ。
2007年11月まで英米金融情報サービス、トムソン・ファイナンシャルの起債担当記者。
2009年2月から経済ニュースサイト「NNAヨーロッパ」の編集長としてロンドンに駐在中。

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