増谷栄一のアメリカ経済情勢ファイル
【お知らせ】「増谷栄一のアメリカ経済情勢ファイル」は6月30日で終了いたしました 。
いつも「増谷栄一のアメリカ経済情勢ファイル」をご愛読いただきまして誠にありがとうございます。当ブログは2007年5月より連載してまいりましたが、2011年6月30日(木)をもって終了いたしました。4年間にわたる皆様のご愛顧に感謝し、御礼申し上げます。

FOMC声明文、「金融・経済動向を注視」=電撃利下げも視野に

-米政府、保険最大手AIGに約9兆円支援=80%支配で合意-

【2008年9月17日(水)】 - 米証券大手のリーマン・ブラザーズの破産やメリルリンチの身売り、世界保険最大手のAIGの経営危機が表面化する中で、FRB(米連邦準備制度理事会)は16日のFOMC(公開市場委員会)で、市場の大方の利下げ予想に反し、政策金利であるFF(フェデラル・ファンド)金利の誘導目標を2%に据え置いた。

 また、その一方で、政府は16日、経営危機に陥っていたAIGの救済策を発表。FRB(米連邦準備制度理事会)がAIGに850億ドル(約8兆9300億円)の与信枠を設定、また、AIGの79.9%を政府が保有、先に発表された政府系住宅金融2社の場合と同様、政府のコンサーベイターシップ(財産管理)下に置くことで、政府側とAIGが合意した。

 今回のFOMCの政策金利据え置きは、6月25日のFOMC以来3回連続の据え置きとなるが、先週末からの金融危機にもかかわらず、FRBが敢えて金利据え置きを全員一致で決めたことで、エコノミストの多くは、FRBは、年内は金利を据え置き、様子見の姿勢を維持すると見ている。

 同時には発表されたFRBの金融政策の方向性を示すバイアス(金融政策に対する姿勢)も、8月5日の前回のFOMCで中立バイアスに戻っているものの、今回は一段と中立バイアスが鮮明になったのが特徴で、これが金利据え置きの市場の観測の根拠となっている。

 声明文で中立バイアスが鮮明になっているのは、「景気下降リスクとインフレ上昇リスクはともにFOMCにとって重大な懸念だ」と述べている部分だ。前回のFOMCでは「景気下降リスクは依然あるが、インフレ上昇リスクもまた、FOMCにとって重大な懸念だ」と中立バイアスを示したが、それよりも鮮明になったといえる。

●金融危機進み景気失速の恐れがあれば電撃利下げも

 前回の声明文との比較で、もう一つの注目点は、「今後の経済と金融の動向を注意深く監視し、必要があれば経済成長と物価の安定のため行動する」と、初めて「注意深く(carefully)」という文言を使っていることだ。

 また、今回の声明文では「金融市場の緊張がかなり高まった。また、雇用市場も一段と悪化した」とし、リーマンの破産やメリルリンチの身売り、AIGの経営危機を深刻に受け止めていることを示している。

 これは、今後、金融市場の安定を脅かす事態になり、景気失速の事態に近づけば、次のFOMC会合(10月28-29日)前にも電撃利下げがありうることを示している。今回利下げをしなかったということは、まだ、景気失速の事態にまで至っていないことを意味している。

 16日のFF金利先物市場では、FOMC開始直前までは、政策金利が2%から1.75%へ引き下げられる確率を前日の75%から92%まで引き上げ、また、1.5%への大幅利下げも42%織り込んでいた。しかし、実際にふたを開けてみると据え置き決定で市場は肩透かしを食らった格好となった。

 予想外の金利据え置き決定を受けて、FF金利先物の11月物は10月28-29日に開かれるFOMCで、政策金利が1.75%へ利下げされる確率を前日の100%から62%に引き下げ、また、1.5%への利下げ確率も58%からほぼなくなった。

 しかし、当面の利下げの可能性は低下したものの、この利下げ確率は、水準的には依然高水準だ。また、16日のCME(シカゴ・マーカンタイル取引所)では、今年10-12月期に期日が来るユーロドル金利先物の価格が前日比で27.5ベーシスポイント下落した。

 この結果、企業や金融機関の資金調達の基準となるドルLIBOR金利が昨年8月のクレジット市場危機以来の高水準となり、FF金利を大幅に上回ったことから、年末時点で資金繰りが急速に悪化する懸念を示している。

●FRBに金利据え置き、AIGの存続に賭けた動き

 今回、FRBが市場の利下げ予想に反して、据え置きを決めた背景には、FRBは資金流動性の潤沢供給で、今の金融危機を引き続きコントロールできるという読みがあるようだ。つまり、金融危機はいずれ収まり、次の経営破たんが懸念されるAIGも存続は可能というシナリオに賭けているのだ。

 AIGについては、当初、15日までに400億ドル(約4兆2000億円)の資金調達ができなければ、信用格付け会社による格下げが予想されていた。しかし、AIGは傘下の航空機リース事業会社インターナショナル・リース・ファイナンスなど複数の事業部門をプライベートエクイティ(PE)ファンドのコルバーグ・クラビス・ロバーツやTPGに売却する交渉を進めていたが、政府の金融支援が得られないとの理由で失敗。

 結局、米信用格付け大手スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が16日、AIGの長期カウンターパーティ格付け(発行体格付け)を「A-」へ3段階引き下げ、ムーディーズ・インベスターズ・サービスもシニア無担保債務の格付けを「A2」へ2段階引き下げたため、AIGはバランスシートを維持するには17日までに750億ドル(約7兆9000億円)の資金調達が必要になった。

●AIG、政府とFRによる救済策に合意

 こうした危機的な状況の中で、財務省とFRBがAIGの救済に乗り出し、(1)FRB傘下のニューヨーク連銀から融資期間2年間で、LIBOR+8.5%ポイントの利率で、最大850億ドルの繋ぎ融資枠(AIGの資産を担保に)を受ける(2)その代わり、政府はAIGが発行するワラント(新株引受権)を受け、AIGの発行済み株式の79.9%を保有する――ことで合意した。

 AIGの株価は15日に前日比61%下落で引けたあとも、16日には一時74%も下落(終値は21%安の3.75ドル)となり、年初来の下落幅は94%を超えた。2006年末のピーク時の時価発行総額1900億ドル(約20兆円)から93%も縮小している。

 AIGの救済策の発表を受けて、ニューヨーク株式市場では株価が反発。ダウ工業株30種平均は前日比141.51ドル高の1万1059.02ドルと、140ドルを超して引けた。しかし、AIGの株価は大引け後の時間外取引で、AIGは17日までに750億ドルの資金調達に失敗すれば破産法を適用申請するとの悲観的な見方が強まり、16日の終値からさらに30.7%安の2.60ドルまで下落している。

 AIGは銀行などの投資家に対し、4410億ドル(約46兆3000億円)相当の債券ポートフォリオの保険を引き受けており、そのうち、サブプライム関連証券は578億ドル(約6兆0700億円)を占める。このため、AIGの破たんは4410億ドルの損失を発生させる恐れがある。

 また、RBCキャピタルによると、AIGの破たんで1800億ドル(約18兆9000億円)の損失が金融機関に発生するという試算もある。それだけ、AIGは、「too big to fail(大きすぎて潰せない)」なのだ。(了)

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02月04日更新

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増谷栄一(ますたに・えいいち)

増谷栄一(ますたに・えいいち)

経済ジャーナリスト。北海道生まれ。早稲田政経学部卒。
1988年ジャパンタイムズ入社、編集局記者として世界100カ国の特集記事を制作。
1992年日経国際ニュースセンター編集室総合編集部次長を経て、1996年~2000年まで
米国経済通信社ブリッジ・ニュース東京特派員として日米の政治、経済、マーケットを取材。
1998年から2年間、ニューヨーク、ワシントン支局でアメリカのマーケット、重要経済統計、米政府、
財務省、米議会などをシニア・エディターとして取材。G7財務相・中央銀行総裁会議を3度取材。
その後、米国通信社ダウ・ジョーンズ通信社のコピー・エディターを経て、2001年1月から2004年9月まで
AFX通信社(AFP通信の経済ニュース部門)東京特派員。
2004年4月から2007年3月末までライブドア・ニュース外報部チーフ。
2007年11月まで英米金融情報サービス、トムソン・ファイナンシャルの起債担当記者。
2009年2月から経済ニュースサイト「NNAヨーロッパ」の編集長としてロンドンに駐在中。

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