増谷栄一のアメリカ経済情勢ファイル

米メリルリンチ証券、サブプライム関連CDO一気に売却

-今後のサブプライム問題解決のモデルケースか?-

【2008年7月30日(水)】 - 米大手証券のメリルリンチが28日夕、財務悪化の元凶となっていたサブプライム・ローン関連証券などを担保にしたCDO(債務担保証券)の大半を売却し、85億ドル(約9200億円)の公募増資を行うと発表したのを受け、29日のNY株式市場は、金融不安が後退する中、ダウ工業株30種平均は前日比266ドル(2.4%)高の1万1397ドルに急騰した。

 今回のメリルリンチのCDO売却は取得簿価で306億ドル(約3兆3000億円)に相当するが、その売却手法が注目を集めている。今後、同社と同様、米国の住宅ローン債権(総額12兆ドル)を裏付けとするモーゲージ債やそれを担保にしたCDOを保有し、多額の評価損を抱えている銀行や証券会社にとって、問題解決のモデルケースとなる可能性が出てきたからだ。

 また、今回の発表では、メリルリンチは、CDOの売却に伴い84億ドル(約9100億円)相当のCDOの信用リスクをヘッジするためにモノライン(金融保証保険会社)のXLキャピタル・アシュアランス傘下のセキュリティ・キャピタル・アシュアランス(SCA)と結んでいたCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)契約についても、5億ドルの和解金SCAから受け取ることで、同契約を解消することで合意している。

 この結果、メリルリンチは、CDO売却に伴う損失44億ドル(約4800億円)とCDOのヘッジ目的でSCAなどモノライン各社と結んだCDS契約の解消に伴う損失13億ドル(約1400億円、うち、SCA分は5億ドル)の計57億ドル(約6200億円)の損失を第3四半期(7-9月)に計上することになった。

 しかし、モノラインとのCDS契約の解消は、経営難に陥っているSCAなど中小のモノライン救済につながると見られている。米ニューヨーク州保険局のディナロ監督官は、メリルリンチとSCAとのCDS契約解消合意は、今後の銀行とモノラインとのCDS契約をめぐる紛争解決のモデルケースになるとして歓迎している。

 また、メリルリンチは、今回のCDO売却で残るCDOエクスポージャー(金融資産のうち、市場リスクにさらされている資産規模=リスク資産残高)は88億ドル(約9500億円)に急減、昨年6月時点の199億ドル(約2兆1500億円)から急減することになった。

 それに加えて、モノライン契約の解消により、昨年6月以降、過去4四半期にわたり、計460億ドル(約5兆円)強の評価損と計187億ドル(約2兆円)の純損失の計上を余儀なくされた状況から抜け出せる見通しとなった。

●メリルリンチ、CDOをローンスターに売却へ

 メリルリンチがCDOを売却した相手は米ヘッジファンドの老舗ローンスター・ファンズだ。市場では、今後、他の投資ファンドによる金融機関からのCDO買い取りの動きが活発化するだろうと見ている。

 両社の合意では、メリルリンチがローンスターに取得簿価306億ドルのCDOを67億ドル(約7200億円)のディスカウント価格(額面の約22%)で売却する。また、同時に、ローンスターにこのCDO購入資金の75%(50億2500万ドル)を融資するという内容だ。

 この結果、ローンスターの自己資金はわずか16億7500万ドル(約1800億円)で済むことになる。先週、ローンスターは傘下の2つのファンドを通じて、合計で100億ドル(約1兆1000億円)の新規資金を調達しており、今回のCDO購入後に80億ドル(約8600億円)以上の余裕資金が手元に残る計算だ。

 これは、今後、メリルリンチと同様なディスカウント価格(額面の約22%)で、かつ、購入資金の75%融資を受けることができれば、ローンスターは、80億ドルの自己資金を使って、額面価格が1450億ドル(約15兆7000億円)相当のCDOを320億ドル(約3兆5000億円)のディスカウント価格で購入できることになる。

 メリルリンチがローンスターに売却するCDOの取得時の簿価は306億ドルだったが、第2四半期(4-6月)に評価損を計上、6月末時点で111億ドル(約1兆2000億円)に価値が引き下げられている。

●ヘッジファンド、金融セクターへの投資強める動き

 他方、最近は、クレジット市場危機で打撃を受けた米国の金融機関の救済に乗り出すヘッジファンドが増えている。金融不安も終焉に近づいている感がある。

 これは、大幅に価値が低下した証券化商品や経営難に陥っている金融機関の株式を取得しようという動きだが、すでに、こうしたヘッジファンドは投資資金として、合計で1000億ドル(約10兆8000億円)を準備しているといわれている。

 これまでディストレスト資産投資に慎重だった著名なヘッジファンド・マネジャーのジョン・ポールソン氏も今年後半に金融株に投資するファンドを創設する計画を明らかにしたほどで、金融市場は最悪期を脱する可能性があると見られている。

 しかし、プライベートエクイティ(PE)ファンドのTPGが4月に、米貯蓄銀行大手のワシントン・ミューチュアルの株式を1株当たり8.75ドルで取得したものの、28日時点では3.95ドルに下落しているように、金融株は底値に近いといわれても、明らかに投資が成功しているという状況ではない。

 PEファンドのウォーバーグ・ピンカスも1月に米モノライン最大手MBIAの株式を12ドルで取得したが、28日時点では4.27ドルに急落したままだ。

 投資ファンドは、低コストの資金調達が難しい現状では、金融資産の価値がさらに低下するまでは投資を避けるため、金融市場の混乱が一段と進む可能性がある。また、ヘッジファンドが資金調達を進めているのは、今が買い場というよりも、一段の市場の悪化に備えているという見方もあり、金融セクターの底打ちは、強気筋が思う以上に時間がかかる可能性がある。(了)

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増谷栄一(ますたに・えいいち)

増谷栄一(ますたに・えいいち)

経済ジャーナリスト。北海道生まれ。早稲田政経学部卒。
1988年ジャパンタイムズ入社、編集局記者として世界100カ国の特集記事を制作。
1992年日経国際ニュースセンター編集室総合編集部次長を経て、1996年~2000年まで
米国経済通信社ブリッジ・ニュース東京特派員として日米の政治、経済、マーケットを取材。
1998年から2年間、ニューヨーク、ワシントン支局でアメリカのマーケット、重要経済統計、米政府、
財務省、米議会などをシニア・エディターとして取材。G7財務相・中央銀行総裁会議を3度取材。
その後、米国通信社ダウ・ジョーンズ通信社のコピー・エディターを経て、2001年1月から2004年9月まで
AFX通信社(AFP通信の経済ニュース部門)東京特派員。
2004年4月から2007年3月末までライブドア・ニュース外報部チーフ。
2007年11月まで英米金融情報サービス、トムソン・ファイナンシャルの起債担当記者。
2009年2月から経済ニュースサイト「NNAヨーロッパ」の編集長としてロンドンに駐在中。

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